「山道を行く」
テーマ★開通


人生は、よく、道を歩くことに例えられる。
重い荷を負うて歩くようなもの、だとか、
♪泣くのが嫌ならサア歩け、とか・・・・・・。
30数年生きてきて、ある日ふと、自分の歩いている道が、妙に険しいぞ、と気が付いた。 
山道だぞ、と。

生きているだけでも、ゼエゼエしてしまう。
空気も薄い。
そして、トンネル、トンネル、またトンネルなのだ。
暗い中を、手探りで、へっぴり腰で、ちょびっとづつしか進めない。
時々、癇癪を起こして、「んが〜〜〜〜っ!」と、ヤミクモに突っ走っては、
いきなり壁に激突して流血し、更に癇癪を起こす。
額から、だらだら血を流しながら逆上し、
「ふんが〜〜〜〜っ!」と、走ると、
やっぱり壁で、大怪我しながら何時間も気絶していたりする。
真っ暗闇の中で、目を覚ましても、もう立ち上がる気力すら失っている。

車で走れば、人生、快適なドライブなのかもしれない。
なぜ、私は、車に乗らないのだろう?
車に乗らないのなら、なぜ、平地を歩かないのだろう?

ある日曜日、ハイキングのつもりで、登り始めた山道だったのに、
気が付けば、軽装で岩場を攀じ登っていたりするのだ。

−−−何やってるんだ、私よ!

そして、小指1本で、崖にぶら下がっているような、
物凄く苦しい時に、きまって矢印が現れる。

←ラクチンコース こちら

そこには、プカプカと気球が浮いていて、
冷たいおしぼりを持ったお姉さんが微笑みながら手招きしている。


ド演歌コース こちら→

一方、こちらは、90度の崖がそそり立っていて、横では、
リポDのCMを撮っているのである。

私は、何故か、いつも迷わず「ド演歌コース」に進む。

−−−だから、何で?!

んっ?!
好きで選んでる? 山道!

毎日、毎日、真っ暗なトンネルの中だったり、血まみれで岩登りなのに、
泣きながらも、好きでやってる?

−−−なぜだ? おい、私!

思い当たる節といえば・・・・・・アレか?!

それは、私の人生において、物凄くマレに、そして、突然に訪れる、
非常に素晴らしい絶景!
平らな道からは、決して見ることのできない、
息が止まりそうなほどの巨大な全体図!

ナスカの地上絵か、インカ帝国か。
BGMに、「コンドルが飛んで行く」がかかり、
突如、絶景を見下ろして佇んでいるのだ。

空気は薄いが、私は生きている!
血と汗と涙に、ずぶずぶに濡れながら、3秒前に地平線で生まれた風が、
今、私の体を吹き抜けていく。

私の道が、人生が、その一瞬だけ、開通するのだ。

抽象的で、しかも、ほとんど幻想的、そんな、一瞬の開通。

そして、やっばり今日も、ド演歌コースをマイシン中なのである。


                    (おわり)
2001.07.25 作:あかじそ