「 ツッコミ道場 」 |
私の特技は、「ツッコミ」である。 これは、堂々と威張って言う。 知的ツッコミ、あるいは、ナンセンスツッコミによって、 相手の態度や今の状況を瞬時に形容し、描写する。 生活の中での「ツッコミ」は、 明るい人生を送る上で、必須の技であると確信する。 たとえば、子供に反抗的な態度を取られたり、 明らかに「それはどうなの?!」という言動を取られたりしたときは、 こう突っ込む。 「おい〜尾崎豊かよ〜!」 「こっのっシッハッイッかっらっのっ! 卒ギョ〜、かよ!」 子供が、「はあ?」という顔をした時、 すかさず、 「お前は、ツッパリハイスクールロックンロールかよ!」 「港のヨーコ横浜横須賀かよ〜!」 と鋭く相手を指差しながら突っ込む。 子供は、二度三度びっくり。 あきれてもう二の句を告ぐのを忘れている。 よし、これで成功。 長々と親子でイガイガなやり取りを続けて、 無用な傷つけあいをするより、 相手の知らない呪文で、 その行為の根っこ部分だけを叱り、 アホアホムードでお開きにしちゃう方が、 私は好きだ。 これは、しつけにかなり有効だ。 子供にとっても、ぶん殴られたり、 ネチネチ小言を言われ続けるより、 よっぽどインパクトがあって、心に残るようだ。 要は、「今の言動は、ダメだぞ!」と 相手に伝わればいいのだから、 ぐだぐだ話すよりも、パンチの効いたツッコミの方が さっぱりしていて気持ちいい。 親にとっても、これはゲームだ。 命に関わるような、ものすごくマジな状況でもないかぎり、 このツッコミであらゆるトラブルを乗り切る。 面白くないことを言ったら負けだ。 ここは、演芸場の舞台の上、 今、目の前に数百人のお客がいる、 ・・・・・・くらいの気概をもって望むべきである。 たとえば、子供が、兄弟をぶったとする。 かつての私は、 「なんで弟を殴るんだ!」 と怒鳴り、ぶった子を、ぶっていた。 しかし、これでは、「ぶつ」連鎖は止められない。 子や孫に受け継がれ、 末代まで暴力一家である。 また、ネチネチお小言を言うと、 これまた、子供が、 兄弟や自分の子供にネチネチ言うようになるので、 暴力同様、引き継がれてしまう。 これは、ちっとも面白くない。 楽しくない。 だから、私は、自分の代で、 この悪しき連鎖をぶっちぎる事業を立ち上げた。 今の私なら、こう突っ込む。 「お前は、殴る蹴るの暴力三昧か!」 「定職を持たず酒びたりの日々か!」 「酒乱か! シュランジュラン(デュランデュラン)か!」 突っ込みも、重ねていくうちに、 だんだんと時代がかってきて、 子供にはわからない世代のネタに移行していったり、 ダジャレ交じりになる傾向がある。 しかし、それでいい。 意味なんて、後からついてくる。 とりあえず、いち早く突っ込むのだ。 第一声では、インパクトが求められる。 そして、畳み掛けることによって驚かし、 アクセントを用い、フォルテシモをかけ、 最後には子供をケムに巻くのだ。 ご飯中、味噌汁をこぼしたら、こうだ。 「お前は、星一徹か!」 「ちゃぶ台返しか!」 「味噌汁で夜明けのシャワーか!」 自分でもわけがわからない。 いや、しかし、それでいい。 わけなんて、どうでもいい。 とにかく、とっさに3連発のツッコミが パッと口をついて出ることが肝心だ。 自分の口から 「なにやってんのよ馬鹿」 とか、 「このグズ。父親に似て!」 とか、そういう嫌な毒が吐かれる前に、 一刻も早く口にすることが何より大事なのだ。 これは、自分の中の「小姑」との戦いだ。 自分の中の「意地悪小姑」よりも、 一瞬でも早く突っ込むことが大切だ。 それが、子供の心を傷つけず、 明るい家庭を築く秘訣だ。 たとえば、子供が部屋を片付けないとする。 そのときは、腹の中は煮えくり返っているが、こう言う。 「ここはゴミ屋敷か!」 「夢の島か! ドリームアイランドか!」 「メタンガス発生か!」 それでも片付けないときは、 彦麻呂になる。 「お部屋の中が、トリプルアクセルや〜!」 「壁の中のスバルや〜!」 「みんなどこへ行ったんや〜、見送られることもなく〜!」(長!) 子供は、あんぐりするばかりで、 一向に片付けない。 うむ、これは不成功であった。 ウケ狙いに走ってはだめだ。 あくまで、心は「しつけ心」でいっぱいでなくては。 ウケを優先すると、やっぱり言うことを気きゃあしない。 で、この「楽しい家庭経営ツッコミ術」は、 いろいろなシーンで応用が利くので、 ぜひいろいろ試してみてもらいたい。 性格の悪い職場の同僚に、(心の中で) 「お前は、昼メロの悪役か!」 「嫁姑関係か!」 「幸子さん、味噌汁が濃すぎます、私を早死にさせる気かい? か!」 家事育児を手伝わない夫に 「あんたは、動かざること山の如し、か!」 「風林火山か!」 「ほわお〜ほわお〜、か!」(ホラガイを吹くアクション付き) 「今の若い人は」と、すぐ言う姑に、(必ず心の中で) 「また『昔は・・・』か! お前は『日本むかし話』か!」 「常田富士男か! 市原悦子じゃなくて、あえて、常田富士男か!」 「まんじゅう〜くわせてけろ〜、か!」 このツッコミを日々やっていると、 何だか、性格が明るくなってくる。 世の中が、コミカルになっていく。 気が付けば、 子供も明るい性格になっているし、 夫も、敬語でしゃべらなくなってきている。 で! こういう風に日々楽しく突っ込んでおいて、 いざ、 「これは、絶対にダメだろ〜〜〜〜〜!!!!!」 ということが起きたとき、 普通に、 「コラッ!」 とか、 「危ない!」 とか、 「何やってんだ!!」 と、短く大声で叱ると、 子供なんかは、 ビク〜〜〜ッ! として、 ピリッと顔の表情を変え、 神妙になって、反省する。 母ちゃん、マジだ! これは、シャレにならんことらしいな、 と、恐れおののくのだ。 どうだ、このツッコミ術! ものすごく楽しいし、 ものすごく頭も使うし、 人生明るくなるぞ〜! これぞ、笑う門には福来たる、実践編! 突っ込んで突っ込んで、ツッコミまくりながら、 いつの間にか人生のハードなシーンをくぐり抜けられたなら、 後は、福まみれの人生が待っている! 死ぬ間際までも、 「これが、『イマワノキワ』かい!」 「忌野清志郎かい!」 「三浦友和の幼なじみか〜い・・・・・・」 と、突っ込みながら逝きたいものだ。 (了) |
(しその草いきれ)2006.4.12.あかじそ作 |