「 へこむぜ 」

 おいおいおいおい、
世の中には、
空気の読めない、
そして、
口の利き方を知らないヤカラが多すぎるぜ!

 今年、何の因果か、
小学校のPTAの「理事部長」という役職についてしまった私は、
去年の引継ぎやら新しい役員さん同士の話し合いやらで、
いきなり知り合いが倍増してしまった。

 ただでさえ、あいさつした後
「あれ誰だっけ」状態なのに、
もう、私の頭の中のアドレス帳には、
入りきれなほどの登録が
次々執り行われている。

 そんな中、
アカンボを背負って小1の四男と
近所のスーパーに買い物に行ったとき、
ついさっき「理事部」の仕事を引き継いだ
前任の役員さんとすれ違った。

 「え!」

 彼女は、そう言うと、
しばらく絶句していた。

 「先ほどは、どうもありがとうございました」
と私が言うと、
「・・・・・・こんな小さい子がいたんだ・・・・・・」
と、言い、かなり驚いている様子。

 と、いうことは、
私は、「こんな小さい子がいる」とは、思えないほど
「年とって見える」ということではないか。

 普通、
「こんな大きい子がいたんだ」
と言って、
相手を暗に「若く見える」と、ほめるものなのに、
間違ってるよ、その慣用句の使い方!
 真逆です!

 確かに、来月40歳になる私が、
もし二十歳で子供を産んでいて、
その子がまた二十歳で子供を産んだら、
私は、もう立派な祖母である。

 でも、私は、まだまだ「おばちゃん」の範疇でしょう?
 それどころか、心は、まだハタチそこそこなのに!

 そういえば、小6の頃、
給食の手伝いで1年生のクラスに配膳しに行き、
そこで1年生に「おばちゃん」と言われたときも
かなりの衝撃だったが、
(あんたまだ産めるの?)と、
顔にばっちり描いてある彼女の表情にも、
かなりショックを受けたりしている。

 さらに、今日。

 「第1回理事部会」という大規模な会合を仕切り、
プレッシャーと気疲れでぐったりしつつも、
無事1回目を乗り切った充実感で帰路に着き、
居間でホッと一息ついていると、
玄関チャイムが鳴った。

 「牛乳屋ですけど、試飲牛乳を配っていま〜す」

 ああ、いつもの試飲か。
 飲むだけ飲んで、
「やっぱりいいわ」
と断っている、いつもの試飲。

 ラッキー、
久しぶりに濃い瓶牛乳が飲めるわ〜、と、
小走りで玄関に出ると、
その牛乳屋のおばちゃんは、
私の左腕を見るなり、
「その手どうしたの?」
と聞いてくる。

 私は、今、
アカンボを抱きすぎて
左腕が腱鞘炎になっていて、
包帯を手首にぐるぐる巻いて過ごしている。

 そして、
「その手どうしたの?」
と人に聞かれたら、
「アカンボがお乳飲むときイナバウアーやるから痛めちゃって」
という持ちネタまで用意していたのだった。

「あ、アカンボ抱いてて腱鞘炎になっちゃって」
と私が言うとおばちゃん、何と、
こともあろうに、
「孫?」
と言う。

 え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しばし絶句していると、
更に続けて、
「ああ、わかった、妹の子供?」
と言う。

 え・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 私は、耳が遠くなるほど
ショックを受けてしまい、
しばし無言で立ちすくんでいた。

 「じゃあ、一体どこのアカンボ抱いたの!」
 ちょっと切れ気味で聞いてきたので、
私も、猛然と、
「私の産んだ赤ちゃんですけど!」
と大きな声で言った。

 おばちゃんは、間髪入れずに
「ふ〜ん。あんたイクツよ! アカンボったって、8歳くらいでしょ?」
なんて言いやがる。

 「生まれたばかりですけど!」
と、私も、真顔で言い返した。 

 すると、おばちゃん、とどめを指すようにまた言う。
「そうか、若いおばあちゃんだなあ、と思ったよ」

 お・・・・・・おば・・・あちゃ・・・ん・・・・・・
 私が?
 私が、おばあちゃんなの?!

 「若い」ってくっ付けたって、
その後に「おばあちゃん」って・・・・・・

 確かに、PTAで一大事業をこなした後だから、
目の下にクマもできてただろうし、
5人総母乳で、おっぱいも垂れまくりだけど、
「この人、お母さんかな、おばあちゃんかな?」
と迷ったら、まずは、先に
「お母さん?」
と聞くのが大人のお約束でしょうが・・・・・・

 その後、私は、
どうやっても気分が盛り返せず、
「牛乳いいです」
と断った。

 「ああ、瓶牛乳って高いからね。お宅には買えないんだろ」
と、おばちゃんは言う。

 ・・・・・・・・・・は?

 このおばちゃん、
まったく悪気がないから困ってしまう。
 まったく悪意無く、
シラッと、そういうことを言っちゃう。

 いきなり来て、この言葉の暴力。
 しかも、無意識の暴言。
 お前は、シザーハンズか!
 純粋無垢なら、何言っても許されちゃうのか!

 「牛乳買えないんじゃなくて、買いたくないので要りません」

私が言うと、おばちゃんは、また、
悪びれもせず、
「だろうな」
と言ってきびすを返して行ってしまった。

 おい〜〜〜〜〜!!!

 なんなんだよ〜〜〜!

 年齢より老けて見えるのは、
自分でもじゅうじゅう承知だったけど、
そりゃねえだろ〜!

 いきなりニコニコしながらやってきて
下痢便ぶっかけられたような不快感!

 へこむ〜〜〜〜〜!!!

 ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ
 ぐやじ〜〜〜〜〜〜

 ずえったい、もう、
おばあちゃんなんて言わせやしないぞ!

 この生後5ヶ月の愛娘が、将来、友達から
「アンタのお母さん、おばあちゃんみたい」
なんて言われたら、不憫だ!

 いきなり若くは、なれないけれど、
とりあえず、美容師の友人のところへ
明日にも行くぞ!

 化粧も、もっと明るい色を使おう。

 トレードマークの銀縁メガネも、
何なら外そうかえ?

 それにしたって、「おばあちゃん」ってサッ!

 口の利き方知らないヤツは、
始末悪いわ、ホント。

 そういう人のことを、よく
「悪い人じゃないんだけどね〜」
と言うけれど、
今日からは、それを変更します。


 口の利き方を知らない人は、悪い人です!!!


 以上!!!!!
 ふんっ!


   (了)

(しその草いきれ)2006.5.2.あかじそ作