「 分割払い 」

 4人男の子を産み、
熱望しながらもなかなか5人目ができなかったが、
高年出産でやっと第5子が生まれたある日、
私は、う〜む、と考え込んでいた。

 むちゅむちゅのほっぺ。

 目が合うと、ウヒィと微笑む。

 小さい小さいお手々に、手の甲のえくぼ。

 輪ゴムをはめているような手首。

 だっこすれば、びっくりするほど軽く、 
私の頬に、よだれだらけのキスをくれる。

 ああ!
 今、私、もんのすごく○○○○だわっ!!!

 青空に向かって叫びたいほど、
私は、かつて無いほど○○○○な気分で満ち満ちている。

 さて、なぜ心の中でまで
今の気持ちを○○○○などと
伏字を使って表しているのかというと、
怖いからである。

 幸せと不幸せは、交互にやってくる、
と、小さい頃からよく聞いていた。

 特に、嫌なことがあった後など、人は、私に
「人間万事塞翁が馬だから、きっと次は、いいことが起きるよ」
と言ってなぐさめてくれた。

 実際、嫌なことの後は、
ちょっといいことが起きたものだ。

 だからだ。

 だから、こんなにも
天にも昇るほど○○○○な気持ちを抱いてしまったら、
次は、家族を突然失うなどといった、
凄い地獄を見るような気がして、
怖くて素直に○○○○だ、なんて言えないのだった。

 ああ、神様、
この○○○○に対応する莫大な不幸を、
どうか「分割払い」にしてください。
 小分けでおねがいします!

 ・・・・・・そう念じつつ、
胸の中で怯えながら
(ああ! ○○○○だなあ!)
と、伏字でおどおどと、そっと思っていた。

 幸福と不幸を、縄のように綯う仕事をしている担当の神様に
ばれないように、そっと○○○○を噛み締めていた。

 私のような微力な者でも、
返せるくらいの少量づつの不幸を、
35年の長期ローンで!
 当初5年間は、ゆとり払いで、
余裕が出てきたら繰上げ返済しますから!

 ところで、長女が生まれて以来、
私の体調不良がボチボチ続いている。
 検査をしても、死ぬほどのことではないが、
日常生活を送るには、充分不自由な具合の悪さ。

 時を前後して、夫が歯痛や四十肩などで
ひーひー言い始めた。

 長男は、部活の顧問に
あらぬ疑いをかけられ、いわれ無き仕打ちを受け、
相当へこんでしまうし、
次男は、大事にしていたものを
学校でめちゃくちゃに壊されて大ダメージを受けたし、
三男は、命の次に大事にしていた自転車を盗まれた。
 四男は、今のところ何もないが、
生後6ヶ月の長女は、
生後3ヶ月からずっと鼻かぜと微熱が続いている。

 これって・・・・・・

 ある意味「分割払い」?

 私ひとりが長い時間をかけて払うんじゃなくて、
家族全員が、死なない程度のダメージを受けて、
それで今回の○○○○に対する不幸を払っているのか?

 みんなで不幸を分散して受けているということなのか?

 そういえば、長女の誕生は、家族全員の悲願であった。
 長女を抱いて(ああ、○○○○)としみじみ感じているのは、
私だけでなく、家族全員だったのだろう。

 だから、家族で力を合わせて不幸を分け合ってこうむった。
 死なない程度で、自力で立ち直れる程度の、
でも、おのおのにとって、相当ハードな痛みを受けた。

 これで、清算できたのか?

 今年小学校に入学したばかりの四男に
まだ何も起きていないのが返って心配だが、
私が四男の分を引き受けることで許してもらうとして、
これで清算できたのかしら?

 我が家に起こったすごい○○○○に対する
正負のバランスは、これで清算できたんだろうか?

 それでは、もう、大きな声で言ってもいいのかな?

 言っても、いいのかな?!

 言うよ。
 言うからね!

 ああ、私、すんご〜く「しあわせ」です!!!!!


  (了)


(しその草いきれ)2006.5.15.あかじそ作