「 乱反射を退治しよう 」

 我が家の居間には、作り付けの収納が無い。
 1階の子供部屋に一間の押入れ、
2階の子供寝室には、一間の押入れと半間のクローゼット、
同じく2階の和室には、一間の押入れがあり、
それぞれに天袋がついているものの、
布団だの、季節外れの冷暖房器具だの、
独身時代からの莫大な量の本だのが、
テトリスよろしく、みっちり詰め込まれていて、
完全に飽和状態になっている。

 そこへ持ってきて、
子供の服やらビデオやらDVDやら、
食器やら、大型ボードゲームやら、
野球のグローブやら、バドミントンのラケットやら、
サッカーボールやら、児童文学書やらが、
ボンボコボンボコいつの間にか増殖していて
えらいことになってきているのだ。

 そして、肝心な居間には、
押入れの類が無いため、
腰より低い水屋箪笥を二組並べ置き、
筆記具や各種書類、
家計簿や日常使う本などを入れている。

 6畳の畳敷きの居間の、
短い一辺は、隅から隅まで水屋箪笥がびっしり置かれ、
その対面には、ベビーベッドと小ぶりのテレビ台、
アカンボ用の服を入れる小さいケースが置いてある。
 
 ベビーベッドの下には、
オムツやおんぶ紐、
お尻拭き用に10センチ角に切った古布、
お祝いにもらったアカンボの服
(もう着られないものや、まだ着られないもの)、
洗い換え用のベビーシーツなどが入れてある。

 テレビ台の上には、
壊れかけのテレビデオ、
中の棚には、ビデオデッキ、
下の棚には、壊れたビデオデッキと、
無数のビデオテープが詰め込まれている。
 (デッキ多すぎ!)

 アカンボの服のケースの前には、
中2の長男のときの、
まったく手付かずの「チャレンジ」(進研ゼミ)が山積みされて、
次男が、そのお下がりをするために、置かれている。
 (そんなものまでお下がりにするか!>私)

 テレビ台の前には、
たたんだ洗濯物が、各人ごとに置いてあり、
後は、それぞれがそれぞれの箪笥に入れるだけにしてある。

 居間の真ん中には、
今までは直径150センチのちゃぶ台があったが、
さすがにベビーベッドがあると入らないので、
一時的に実家に借りてきた座卓(100×120)が置いてあり、
おまけに、実家から払い下げられた籐の椅子やら、
ベビーラックやら、使い古された歩行器やらが、
もう、床面が見えないほどに置かれまくっている。

 さあ、こんな居間、
くつろげるでしょうか?
 くつろげないでしょうか?

 答え・・・・・・まったもってくつろげません!!!

 リラックスして座っていても、
あるとき突然どこかから、
つまづいた子供が頭の上に降ってくるし、
あらぬ方向から熱い味噌汁のシブキが飛んでくるし、
誰かのくしゃみを顔面いっぱいに受け止めることもある。

 混んでるの!
 混んで混んで混みまくって、
ラッシュ時の山手線状態なの!
 いつも!!!

 で、子供らが学校に行っているときは、どうかというと、
居るときよりは、静かではあるけれど、
なぜか落ち着かないし、くつろげないのだ。

 それは、なぜか?

 そもそも私は、先端恐怖症で、
とんがっているものがこちらに向いていると、
神経がキリキリしてしまって、どうにもならない。
 ひとつでも、何か鋭角的なものが
自分に向かって置いてあると、
もう、知らないうちに頭の皮がリロリロ痒くなってくる。

 柱や、家具など、
角の部分が自分に向かっているとよくない、と、
どこかで聞いたことがあるが、
それは、本当にそう思う。
 角の部分が自分に向かっていると、
何か見えない光線みたいなものが、
(み〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん)
と、自分に刺さってくる感じがいなめない。

 現に、音や光や電波などの波長が、
壁や家具に当たって、面を伝わり、
その角で集められて、
こちらに強い波を送ってきているのだ。

 この狭い部屋に、無数の物がひしめき、
そのそれぞれの角が、これまた無数に重なり合って、
この居間は、波長の乱反射で、
きっとえらいことになっているにちがいない。

 全ての物に波長は、ぶつかり合って、
当たっては、屈折し、
屈折しては、放射しているのだ。

 乱反射も、はなはだしいんだってば!

 落ち着くはずなんて、ないよね!

 くつろぐなんて文字、この部屋の辞書には、ないよね!

 常に、常に、
何千、何万、何億もの、
ありとあらゆる乱れた波長が、
行き交っているんだものね!

 な〜〜〜んか、
わけもなくイライラするのも、
ビタミン不足とか、いろいろあるけど、
この、波長の乱反射という原因が大きいと、
私は、確信する。

 こうなったら、もう、
インテリアだ何だと言う前に、
乱反射を退治して、
思いっきり、

「面!!!!!」

・・・・・みたいな、すっきりした部屋にしないと、
波長に殺されそうだ。

 部屋を片付けると、
すっきりした気分になるけれど、
あれは、気のせいでもなんでもなくて、
本当に、反射がすっきり整理されて、
神経に刺さらなくなって、
すっきりしているんだと思う。

 だから、もう、
今日から私は、
乱反射を退治する、
「乱反射バスター」になることにした。

 片付ける、なんて、なまやさしいことではなく、
波長を整理するという、
生命にも関わる大事業である。

 家族の生命活動を脅かす、
乱反射を追放する、という任務を背負い、
戦闘体制に入るぞ。

 ジャージ上下に、バンダナの三角巾、
おなじみのマスクもしっかりかけて、
整理整頓、整理整頓!!
 ほうきかけて、掃除機かけて、
雑巾かけて、命がけ!

 このように重要な、
危険回避の任務のさなか、
私は、家族にこんなことばをかけられることだろう。

 「お母さん、掃除ごくろうさん」

 バッキャ〜ロ〜め!
 「掃除」じゃないんだ、「救命活動」じゃ!
 こりゃ!



    (了)


(話の駄菓子屋)2006.5.22.あかじそ作