「 ズボン考 」


 「ズボン」を「パンツ」と呼ぶようになって久しい。
 
 同様に、「チョッキ」とか「コール天」なども、
口に出すことがはばかられるようになったが、
私は、頑固にまだ、その恥ずかしい類の呼び方を続けている。
 
 なぜなら、私にとって、
恥ずかしかろうが、ババくさかろうが、
「パンツが〜」とか、「コーデュロイが〜」とか言うよりも、
「ズボンがさ〜」とか、「コール天がね〜」と言う方が、
断然イメージにぴったり来るからだ。
 
 そんなこんなで、つい最近、
「ズボン」に関して、こんなことがあった。
 
 産後7ヶ月。
 いまだにマタニティジーンズをはいている私。
 さすがにウエストは、ゆるゆるになって、
ゴムを一番しぼった状態にして、はいている。
 
 それにしても、妊娠していないと、このジーパン、
尋常じゃない股上の深さなのだ。
 そりゃそうだ。人間一人入るくらいの深さなのだ。
 ところが、勘違いというのは怖いもので、
最近、私は、
ゆるゆるになったジーパンのウエストをうっとり眺め、
「私、お腹へっこんだわ〜」
なんて言っていた。
 
 ところが、どうだ。
 妊婦用以外のズボンを出してきて、はいてみたら、
腿はパツパツ、ウエストのチャックも、
ろくに上がらない状態ではないか?
 
 「な〜に〜?!」
 
 私は、何が起こったのか、瞬時に判断できなかったが、
おそらく、「元の体型に戻りきれていない」ということらしい。
 
 いや、元の体型だって、充分デブチンなのだから、
本当は、ものすごくやばいことになっているのだろう。
 
 「ああ、このままじゃいかん!」
 
 そう思って、私は、近所の激安洋品店に走り、
「ストレッチ・ブーツカット・ウエスト70」
というのを、試着もせずに衝動的に買ってきた。
 
 で、PTAの集まりのある朝、
夫と談笑しながら、その「おニュー」のズボンに足を通してみた。
 
 すると!
 
 片足を突っ込んだ時点で、「アウト!」と確信できた。
 腿を入れる以前に、ふくらはぎあたりで、
すでにさわやかな圧迫感が訪れてきているのを感じたのだ。
 
 それでも、気付かぬふりをし、
何食わぬ顔で、ズボンを腿まで引き上げてみた。
 
 笑った。
 なんだ、こりゃ。
 
 パツンパツンにも程がある。
 腰周りより太い「太もも付け根」の骨につっかかって、
ズボンが上がりゃあしないじゃないか。
 
 「ハイ!!!」
と、威勢のいい声を上げ、
のけぞったり、前のめりになったりして、
はけないものを無理やりはき、
往生際悪くウエストのチャックを閉めようとしてみたが、
閉まらないどころか、
右と左のホックが果てしなく遠い〜〜〜\(◎o◎)/!
 
 私「何で入らないのよぅ! 大き目のウエスト70センチ買ったのにぃ!」
 夫「ウエスト70って、それローライズパンツでしょ?」
 私「だから、ウエスト70の人がはく、へそが出るズボンでしょ?」
 夫「いや、ローライズの上のふちが70センチなんだよ」
 私「うそん、W=70って書いてあるんだから、腹回りが70でしょ」
 夫「いやいやいや、ローライズのウエストは、低い腰の部分でしょ」
 私「いやいやいやいや、ウエストっつったら、腹のくびれの高さでしょ」
 夫「くびれぇ?(人の腹をじろじろ見る)」
 私「・・・・・・いや、今は、ちょっとくびれてないけどぉ」
 夫「何で試着してから買わないんだよ〜、いつも〜」
 私「めんどくさいんだよ〜」
 夫「はかなきゃわかんないでしょうがあ〜」
 私「ウエスト70だったら余裕だと思ったんだってば〜」
 夫「も〜う・・・・・・」
 私「いいよ! ばあばに上げるから!」
 
 で、半日後の母との会話。
 
 私「はいてみた? ズボン」
 母「はいたわよ」
 私「入った?」
 母「入るわけないでしょうが〜! あんた、あれ、股上浅いんだよ」
 私「知ってるよ」
 母「あれ、70センチって書いてあったわよ」
 私「ウエスト70でしょう?」
 母「違うわよ、ホックの周りが70センチでしょうが!」
 私「ええ?! だって、W=70ってことは、ウエスト70の人がはけるってことでしょう?」
 母「違うわよ〜!」
 私「ええ〜〜〜(@_@;)」
 
 そしてまた、夫の帰宅後。
 
 私「あのズボン、子供にやるよ」
 夫「家の前にユニクロがあるんだから、試着して買えばいいじゃん」
 私「ああ、ユニクロは、私には無理」
 夫「なんでよ〜」
 私「あそこは、若いガリガリの子の服しかないもん」
 夫「そんなことないだろう!」
 私「だって〜! サイズがみんな細いのしかないも〜ん」
 夫「でかいのもあるぞ」
 私「うそだあ。いつも細いのしか見ないよ〜」
 夫「太いのもあるって」
 私「無いよ〜! あそこは、紙みたいにぺらぺらの2次元の体の人が行く店だよ〜」
 夫「そんなヤツはいねえ」
 私「私みたいに3次元通り越して4次元の体には無理なんだよ!」
 夫「いくら太っても3次元だから!」
 私「4次元だよ、もう〜! スピリチュアルバディなんだってぇ」
 夫「その腹は霊じゃなくて、3次元の肉」
 私「私の腹じゃないよ、この肉は、見知らぬ肉だよ〜」
 夫「『見知らぬ』って・・・・・・見て見ぬふりしているだけでしょ」
 私「知らないよぉ、私何にも知らないんだって」
 夫「知れ」
 
 ああ、ズボン。
 何でいつも試着しないで買っちゃうんだろう。
 試着室ってヤツが信用できないんだよなあ。
 あんな、人がいっぱいいる空間で、
ぺらぺらのカーテン一枚で、
鍵ひとつ付いていないところで、
男の人もいるのに、
心置きなくパンツいっちょには、なれないんだよなあ・・・・・・。
 
 だいたい、服の脱ぎ着が、ものすごく面倒なんだよなあ。
 あんな面倒なこと、1日1回で充分なんだよ〜。
 何度も脱いだり着たりしなきゃいけない位なら、
サイズ間違ってもいいよ、って思っちゃうんだよなあ。
 
 で、サイズ間違っても、
それを取り替えにも行かないし〜!
 「あ〜あ、また失敗!」
とか言って、箪笥の肥やしにしちゃうんだもの!
 取り替えに行くのも、取り替えの手続きも面倒!
 
 ズボンを買うのは、いつもバクチみたいなもの!
 
 ああ、それにしても、年々、
はけるズボンを探すのが大変になっていくのは、気のせいか?
 はけそうではけないのは、
私の腹から下半身が、
年々、激しく立体的になっていくせいか?
 めいっぱい3次元を表現してしまうから?
 
 あ〜あ、自分のイメージする自分の体と
かけ離れていくこの体。
 心ばかりが、くびれていくよなあ・・・・・・
 
 
       (了)
 
 あ、そうそう、ローライズのウエストって、どこ?
 
 
   (話の駄菓子屋) 2006.6.6.あかじそ作