「 オヤツ考 」


 そもそも私は、東京の田舎で生まれ、
じいちゃんの畑のきゅうりやトマトをかじってオヤツにし、
3歳まで育った。
 その後、父の仕事の都合で神奈川の田舎に引っ越したが、
オヤツは、やはり、
ゆでたとうもろこし、ふかしたサツマイモやじゃがいもなどの、
素朴なスローフードだった。
 そのまた後、埼玉の川口という工業地帯に引越し、
典型的な下町文化の中に突っ込まれ、
オヤツは、いきなり駄菓子になった。

 駄菓子と言えば、
生まれてこの方、
ほとんどの時間を東京の下町で過ごしたいとこのhanaは、
駄菓子にかけては、凄い実力を持っており、
私の弟に言わせれば、「駄菓子選びの職人」であった。

 その駄菓子屋は、
 インチキばばあが経営する店で、
「アイス3個ください」
と年端も行かない子供が言えば、
勝手に袋に5個入れて、
5個分の料金を子供からせしめる、
と言った、極悪非道なものだった。

 そんな血も涙も無いくそばばあの目をかいくぐって、
当時5歳のhanaは、予算100円の中で、
夢のような展開を繰り広げてしまう。

 じっと品揃えを見つめ、
ばばあの無理やりの
「これ買いな!」
攻撃にもめげず、
「これとこれとこれくだちゃい」
と、数点チョイスする。

 当然、一緒にいた私や弟も
同額の100円でチョイスするのだが、
公園で遊びながら食べ始めると、
甘いものばかりを買い込んだ弟や、
よっちゃんいかの一点買いをした私は、
大いに後悔するはめになる。

 「口の中甘いよ〜」
 「イカ飽きた〜」
と嘆く私たちを尻目に、hanaは、
おもむろにふ菓子を食べ、
口が甘くなったところで、
ピンクのすももの漬物を食べて口をさっぱりさせ、
酸っぱさにつらくなったところで、
ラムネ菓子をさらさらさら〜っと食べる。
 で、口の中の水分が吸い取られてしまった後に、
冷えたソーダを飲む。

 その食い合わせの妙、
 無駄の無いチョイスと順番。

 幼児ながらも、なかなかあなどれないセンスが光っていた。

 私は、田舎育ちで、
母や祖母の用意したスローフードを
黙って縁側でもさもさ食べていたので、
そういったセンスが磨けず、
駄菓子屋に行っても、
先のように「イカ10本」とか、
水あめ50円分とか、
カレーあられ100円分とか、
とにかく一点買いしてしまう。

 しかも、幼い頃から半端じゃない食欲で、
ちびちび食べるなんてことができず、
中学の頃には、
夕飯前に、食パン1斤を一気食いとかしていたのだ。

 中学後半では、お金もないのにいっぱい食べたくて、
家にあるじゃがいもをゆでてマッシュし、
マーガリンと牛乳と塩コショウを混ぜて、
オーブンで焼いて食べたりして、
食い意地が張るあまり、
果てしなく食事に近い「自作オヤツ」の道に突っ走っていった。

 高校に入ると、
お気に入りのスナック菓子とお気に入りの炭酸飲料を
(具体的には「とんぺいくん」と「マウンテンデュー」)
連日夕飯前にむさぼり食っていた。

 大学時代は、片道3時間の通学に疲れ果て、
家に着く前に、駅の近くのピザ屋で
ピザセット(ピザMサイズ&サラダ&ドリンク&ミニデザート)を、
これまた毎日毎日食べてから帰宅し、
直後に夕飯を食べる、という、暴挙を続行していた。

 今から思えば、ストレス発散のはけ口として、
過食に陥っていたのだと思うが、
単なる食べ盛りだったような気もする。
 
 おかげで、今より10キロは太っていた。

 そんな最悪なオヤツ歴を持つ母に生まれ、
アレルギー体質の我が子たちは、みな、
3歳までは、卵と乳製品のアレルギーだった。

 すっかりジャンクに身を落としていた私も、
血まみれアトピーの我が子のために心を入れ替え、
おにぎり・焼き芋・蜂蜜サワードリンクなどの
手作りオヤツをせっせと作り、
スローフードにかえっていった。

 子供たちが食物アレルギーから脱却した後、
自分たちで買ってくるオヤツは、
チョコレートにキャラメルに、ビスケットにアイスクリームと、
絵に描いたような「お菓子」だった。
 やはり、砂糖のたっぷり入ったものに
心を奪われてしまった。
 その後、お約束通り激辛ブームに乗り、
辛いスナック菓子にはまり、
カップ麺にはまり、
ついには、酒のつまみ関係ばかり買い始めた。

 で、みんなしてよく噛まないくせに
かたいおつまみばかり食べているから、
みんなして胃を壊し、口角炎になり、
今では、反省したのか懲りたのか、
ポケモンパンやら黒糖蒸しパンやらを買ってきているようだ。

 最近の彼らのブームは、
100円弱のスーパーの食パンで、
ひとりひとり8枚切りの食パンをストックし、
袋に自分の名前を記入している。
 昨日はトースト、今日はツナサンドイッチ、と、
それぞれ勝手に調理して食べている。

 私の作る素朴なスコーンなども食べるが、
とにかく、腹が減ってしかたがないらしく、
ご飯の前後に、またパンを食べる。

 ああ、オヤツ。

 心の栄養、オヤツ。


 さきほど、子供が
「友達の家に遊びに行く」
というので、
100円の米菓子を持っていくように渡すと、
「これは、・・・いらない」
と言われた。
 「何で?」
と問えば、
「あのうちは、大金持ちだから、こういう・・・のは・・・食べないみたい」
と言う。

 こういう・・・なんだっつーの!

 いくら大金持ちでも、子供の頃から毎日毎日、
「スイーツ」なんつうものを召し上がっていたら、
子供の糖尿病になっちまうんだぜ!
 糖尿病はつらいんだぜ!

 子供にそっぽむかれたオヤツを片手に、
ひとり、静かな居間に取り残される。

 そしてひとり、米菓子をつつく。

 うまいじゃ〜ん。
 ほんのりあま〜い米の味。

 大金持ちにとっても、うまいと思うのになあ〜。


  (了)


(しその草いきれ)2006.6.12.あかじそ作