もなこさん 164000キリ番特典 / お題「父と娘」
「 父と娘 」

 四人の息子たちがアカンボの頃は、
「小さなおもちゃ」という感覚で接し、
まるでカブトムシでも育てているようなイメージだった夫。

 夫は、子供の起きている時間に家にいないせいか、
大きくなり、難しい年頃になった息子たちに対し、
どう接したらいいかわからないようで、
どうも「しんせきのおじさん」のような関係になっている。

 「お父さん、パソコン直して〜」
 「お父さん、あのDVD欲しい〜」
 「お父さん、プラモデル作って〜」

 「う・・・・・・ん」

 子供らの機嫌のいいときはそれでもいいが、
子供同士で喧嘩して、取っ組み合いをしていたり、
誰かが怒って暴れているときは、
非常に父親としての未熟さが目立つ。

 「や、やめろ〜」

 「こら〜ぁ・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「んんんんんん、があ〜〜〜〜〜〜 !!!!! \<` 口 ´>/」

 なのである。

 ちなみに、「・・・・・・・・・・・・」の前は、おどおどしていて、
その後、長い「・・・・・・・・・・・・・」という沈黙があり、
直後、尋常じゃない大声で大暴れ、なのである。
 きっと、「・・・・・・・・・・・・・」の時、
音も無くブチ切れているのだろう。

 夫は、子供の頃、
ママンに飴玉でもなめられるような感じで
ほ〜〜〜〜〜よちよちよち、と、育てられたため、
子供同士の喧嘩をしたこともなければ、
激昂することもなく大人になった。

 だから、喧嘩の仕方も、手加減も知らない。
 アカンボのごとく、喜怒哀楽が一つ一つ分化されておらず、

喜=うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
怒=うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
哀=うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!
楽=うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 なのである。

 で、子供は、父親に対し、

「優しいけど、キレルとやばい親戚のおじさん」

という認識を持って付き合っているようだ。


 そんな変な人なのだから、
第5子にして娘が生まれても、
相変わらずその調子なのだろうと
まったく期待していなかったのだが、
意外や意外、そうでもなかった。

 深夜、仕事から帰ってくるなり、
表情の出始めた娘に対して、
顔面をひくひくさせながら、凝視している。

 で、私が、だっこしていると、
「ほれ」
と、「自分が子供抱いてやろうか」的なしぐさをする。

 「別にいいよ」
と私が断ると、
若干鼻息が荒くなり、
「ほれ」
と、また「抱いてあげるって」的なしぐさをする。

 「抱きたいんじゃないの?」

 私がするどく突っ込むと、
「い、いや、別に」
と、言うが、
手はまだ「抱こうか?」的な形のまま固まっている。

 「抱けばいいじゃん」
と、娘を渡すやいなや、
「もう放さん(>_<)!!!!!」的な力強さで、
ひしひし娘を抱きしめている。

 (娘を死ぬほど好きなんじゃん!!!!!)

 でも、こんなんじゃ、
娘が年頃になったとき、
「うぜえ」とか言われちゃうっつーの。

 可愛いと思うなら、挙動不審な行為はやめて、
「お前可愛いなあ、大好きだよ」
と、ちゃんと表明した方がいいぞ。

 仕事では、わかりやすい教え方で
中高年にパソコンを教えているんでしょ?
 家族への愛情もわかりやすく、で、たのむよ!


 それに対し、
もういい加減にして欲しいほど
恥も外聞もなく

「ユリちょわ〜〜〜〜〜ん\(◎o◎)/!」

と、激しく娘にデレデレになる我が父じじじそ。

 昔から子供好きだったかといえば、
まったくそうじゃない。
 半端じゃなく子供嫌いの父親だった。

 気分のいいときだけ優しかったが、
ほとんどは、イライラしていて、
私や弟がそばに寄れば、意味も無くぶん殴られた。

 そんな男も、最近65歳になり、
介護保険の受給資格を得ると、
さすがに子供の可愛さがわかるようになったらしく、
毎日毎日、用も無いのにうちにきて

「ユリちょわ〜〜〜〜〜ん\(◎o◎)/!」

と、デレデレして行くのだ。

 女孫だから余計に可愛いのかもしれないが、
それだけ可愛がるには、もうひとつの理由があった。

 顔の上半分が自分に、
下半分が、愛するばばじそに、
そっっっっっくりなのだ。

 だれがどう見ても、
じじじそとばばじその子供としか思えないほど、
そっっっっっくりなのだ。

 あんたら、娘である私の腹を借りて、
自分らの第3子産んだんじゃないの? 
・・・・・・ってくらい、
じじじそ&ばばじそミックスなのだ。
 それも、結構、いいとこ取り。
 (うちの夫の遺伝子が入っている気配なし)

 ちなみに、私は、じじじそに酷似している。
 自分に似すぎている子供は、
案外凹と凹、凸と凸で、相性が良くないものだ。

 例に漏れず、私とじじじそも、
顔も体質も気質もそっくりで、
鏡を顔面にぐいぐい押し付けられているようで、
お互い、ずっと敬遠しあっていた。

 弟は、じじじそとばばじその
いいところを半分づつ取って、
結構イケメンで、愛想も良かったが、
じじじそに知らん顔で、ばばじそにばかり甘え、
ばばじそも、弟を可愛がっていたので、
じじじそはやきもちを焼くあまり、
弟とも、よくもめていた。

 じじじそは、子供に向ける愛情よりも、
「自分の女を取られた」という嫉妬の方が強かった、
そういう育児期を過ごしていたのだ。

 で、今になって、

「ユリちょわ〜〜〜〜〜ん\(◎o◎)/!」
 
なのだから、もう、みんな失笑するしかない。

 しかし、今になってそんないいじいさんになられても、
私の心の基礎部分には、
「父親=怖い」
というものが完全に刷り込まれているものだから、
今、どんなにむちゃなことをやられても、
「は〜い」
と、半笑いで従うしかない。

 ときどきぶち切れて怒鳴り返し、
じじじそを縮み上がらせることもあるが、
基本的に、私はじじじそに対して怯えている。

 こんなおばちゃんになってまでも、
父親が不機嫌になると嫌だし、
嫌われたくないと思うし、
いつも優しく微笑んでいて欲しいと願う。

 65歳と40歳の父娘でも、
いまだに関係を模索しつつあるのだ。

 それを思うと、
44歳のコミュニケーション不全夫と、
0歳児の娘の関係なぞ、
まだまだスタート地点にさえ立っていないのかもしれない。


 ・・・・・・ちなみに、
この間亡くなったばばじその父親(通称シンジロー)も、
自分が病に倒れながらも、
娘であるばばじその血圧のことを心配していた。

 父と娘って、
な〜〜〜んか、
素敵や〜ん、
と、思う。


  (了)



あほや(2006.6.20.)あかじそ作