「 私の中のよからぬもの 」

 ああ、この季節、
太陽光線の少ない、この梅雨の時期、
私の中のよからぬものが、
ざわざわざわざわ騒ぎ出してどうしようもなくなるときがある。

 朝起きて夜寝るまで、
ざわざわざわざわと心の中で音を立て、
どうにもコントロールできなくなってしまう。

 イライラするのだ。
 なにもかもに!

 さあ、朝ごはんの準備だ。
 子供ら手伝いやしない。

 キーーーーーーーーーー!

 さあ、登校の準備だ。
 子供ら漫画読んでる。

 キーーーーーーーーーー!

 さあ、洗濯物干そうか?
 土砂降り。

 キーーーーーーーーーー!

 夫、出勤時間だ。
 まだ寝てる。

 キーーーーーーーーーー!

 体調悪い。

 キーーーーーーーーーー!

 寝たいのに宅配便のチャイム。

 キーーーーーーーーーー!

 横になりたい。
 でも宗教の勧誘が来る。キーーーーーーーーーー!

アカンボぐずる。キーーーーーーーーーー!

 体しんどい。キーーーーーーーーーー!

 教材屋の電話、しつこい。キキキキキキーーーーー! アカンボ号泣。キキキキーーーーーーー! 蒸し暑い。ムッキキキキキーーーー! 眠い。キキーーーーーーーーー! 何が何だかわからない。キキキキーーーーーーー! 何でイラついいているのかわからない。キキキキキキーーーーー! 
悶々とする。キキーーーーーーーーー! キキーッ、とする。キキキキーーーーーーー! 
キキーッ、が、自分に刺さる。キキキキキキーーーーー!

 キキキキキキキキキキキキキキキキーーーーーーーーーーーーー!!!


 これは、きっと、
自律神経失調症の症状、
あるいは、
女性ホルモンの乱れ、
あるいは、
更年期障害、
あるいは、
積もり積もった生活疲れ。

 なんにせよ、このどうしようもないイライラが、
自分にも、子供にも、夫にも、
マイナスにこそなれ、一個もプラスになっていないことは、
自分でよ〜〜〜くわかっているのだ。

 わかっちゃいるけど、
どうにもならないほど、
イライラしてくるのだ。

 子供たちよ、ゴメン。
 最近は、子供たちも、ご飯が終わると、
逃げるように子供部屋に逃げ込んでしまう。
 まあ、仕方ないか。
 夫が逃げるようにどこか違う部屋に行くのは慣れたが、
子供らにも逃げられ始めたのには、
ちょっとショック。

 昨日、このイライラの悪循環をぶち壊したくて、
アカンボだけ連れて買い物に出かけた。
 これ以上、この長い土日に、
子供らと顔を突き合わせていたら、
もっともっと傷つけることばを吐いてしまいそうだったから。

 ベビーカーを押し、
わけもなくプンプンしながら、歩く。

 店のウィンドウに移る私は、
眉間にすごいタテジワがくっきり。

 怖い顔!
 醜い表情!

 もやもやして、この気分の理由がわからない。
 怒っているのに、その理由がまったく思い当たらない。

 ああ、嫌だ!
 イヤンイヤンイヤン!

 私は、地元密着マイナースーパーに入り、
あれやこれや買い込む。
 子供の好きなおかずの材料。
 子供の好きなオヤツを、あれこれ。
 子供の食べたがっていたバナナも!

 ああ、結局、私は、子供たちが大好きなんでしょう?
 好きな人に、何でイライラをぶつけるかなあ?!

 自分の中の矛盾が、
買ったものを袋に詰め替えているうちに、
帰り道のきれいな雑草を眺めているうちに、
汗をかきかき歩いているうちに、
見えてきた。

 冷静になりゃあ、こんなこと、何てこと無いのだ。

 イライラは、考えていても治らない。
 体を動かして、忙しく動いて、
頭を真っ白にすれば、ほとんどが解消される。

 動かないからダメなんだ。
 外に出ないとダメなんだ。

 人間だって、動物なのだ。
 他の動物同様、
食べ物を常に探すために、
常時うろうろ歩き回っていないと、
エサを食いっぱぐれてしまう。

 しかし、現代人は、
動かなくてもそこそこ生きていける。
 だから、動かなくなっている。

 でも、動物の本能は、
「エサを探しに行かないと死んじゃうよ」
と私たちの無意識の部分にささやく。

 その声を無視して、
どっかり座って動かないでいると、
本能君も意地になり、
「それでいいのか死んでいいのね」
と、キリキリキリキリ頭の奥の方で急かしてくる。

 だから、わけもわからず、
あせって、イラついて、キーキーしちゃう。


 わたしら「動物」だもの。
 「動」く「物」なんだもの。
 「動かない物」になっちゃったら、生きられないんだよ、きっと。

 イライラしているのは、
動物が不動物になっていく危機感なんだ。

 体が、「やべえよやべえよやべえよ」って、言ってるんだ。

 精神が、「欧米か!」って、言ってるんだ。

 わたし、動こう!
 何も難しいこと考えないで、
ただ動いて、動きまくって、
もう一度、動物に返ろう。

 私の中のよからぬものとは、
きっと、動物が腐敗していく悲鳴なんだ。


  (了)


(しその草いきれ)2006.06.26.あかじそ作