まちるさん 113900 キリ番特典 / お題「レースとフリル」
「 強くなれ 」

 第一子、男。
 第二子、男。
 第三子、男。
 第四子、男。

 この間13年。

 はじめは、可愛いサイズの服ばかりで気付かなかったが、
子供の成長にともなって、
だんだんと子供の服がデカくなり、黒っぽくなり、
デザインも可愛くなくなってきた。

 洗濯物を干していても、
色気も何もない物ばかりで、つまらない。

 おまけに、唯一女性である私の服も、
万年Tシャツに万年ジーパン。
 女性用ショーツなどどこにも見当たらず、
使い込まれた巨大ズロースや、
伸びたデロデロブラジャー、
そして、腹巻代わりの綿の腹帯。

 色気無いこと、この上なし!

 
 そして、殺伐とした洗濯物を干し続けて13年目、
ついに我が家に♀がやってきた。

 第5子、女!!!!!

 いやあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

 この衝撃たるや、凄いものがあった。
 子供服売り場の女児服を横目に見て、
淋しく目を伏せ
通り過ぎていた時期も過ぎ、
とっくのとうに「自分と縁のない物」と割り切った、
あの、ピンク色、レース、フリル、リボン、花柄、髪留めetc.etc.が、
ビヨ〜ン、と急に自分の胸元に戻ってきた気分だった。

 そう思っていたのは、母親の私だけではなかった。
 私の母も、夫の母も、
「我こそは、我こそは〜」と、ばかりに、
ピンクの服や、フリフリの服を買ってきた。
 そして、何より、
弟のところの姪っ子のお下がりが、
どど〜〜〜ん、とたくさん送られてきたのだった。
 そのミルキーなこと、スイートなこと!

 茶色や紺や深緑に支配された我が家に、
突如、ピンクのアイテムが増え始め、
私自身も、自分の性別が♀であることに、
いきなり気付かされた。

 生後7ヶ月の長女の髪も
やっと結べるくらいに伸び、
タオル地のゴムで頭のてっぺんにちょんちょこりんを結ぶと、
お兄ちゃんたちも、じじもばばも、とうちゃんもかあちゃんも、
あまりの、その「女児感」に、
「う〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜」
と、大山のぶ代時代のドラえもんの声を
思わず発してしまうのだった。

 ところで、この甘露な想いとともに、
この物騒な世の中で、
力の弱い、いたいけな女児を、
親は、どうやって守ったらよいものか、
そして、親亡き後は、
どうやって自らの人生を無事に生き抜いていってもらおうか、
という心配も同時に芽生えてきた。

 そこで、同じく女性である私が、
今までずっと感じてきた、ある「思い」を思い出した。

 中学校の帰りに、痴漢に追いかけられたときのこと。
 浅草のバス停で、柄の悪い中年男に背中を殴られたときのこと。
 終電で、エロい酔っ払いにつけまわされたときのこと。

 怖かった。 
 自分よりも明らかに悪いヤツが、
自分よりも明らかに強いという事実が。

 どんなに自分自身が正しくきちんと生きていても、
力の強いものと密室で対峙したとき、
簡単にやられてしまう理不尽さが、
怖かった。

 強くなって、
正しくないヤツ、悪いヤツの力を制したいと、
ずっと、ずっと、思っていた。

 子供の頃から、武道に興味があったが、
今まで縁薄く、実際に訓練する機会を得られなかったが、
女児誕生をきっかけに、
母娘で武道を始めてみたいと思うようになった。

 今まで私が、
なんとなく自信の無い人生を送ってきた原因のひとつに、
「自分は弱い」
という事実が、根底にあったような気がする。
 心も弱いけれど、
単純に、力が無いこと、
戦ったら、誰にでも、たいてい負けるだろう、ということが、
恐怖であり、自信を持てない理由でもある。

 力が正義じゃない。
 喧嘩が強いからって、自信満々というわけでもない。
 しかし、強いに越したことないじゃないか?

 昨日より、今日、
ちょっとでも強くなった、というだけで、
毎日の暮らしが明るく暮らせるのなら、
強くなりゃあ、いいじゃないか。

 「心技体」な女でいいじゃないか。

 髪にきれいな飾りをつけて、
服にレースとフリルをつけて、
ニコニコ笑って、スキップ踏んで、
そして、ものすごく強い女、
というのがいてもいいじゃないか。

 戦えば誰よりも強く、
愛すれば誰よりも優しい、
そういう娘って、イカシテルよなあ。

 私は、好きだなあ。


    (了)


2006.7.3.(子だくさん)あかじそ作