「 いとおもしろき小学生なり 」

 夏休みも残りあと2週間。

 子供が大勢、朝から晩まで
ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー言っているのも、
耳が慣れてきたのか、だいぶ平気になってきた。

 いや、凄い量のストレスから、
本能的に身を守るために、
耳に「子供の声ろ過フィルター」が生えたのかもしれない。

 それと同時に、子供たちの耳にも、
「カーチャンの小言ろ過フィルター」が生えてしまったのだが。

 それにしても、アカンボはもう、9ヶ月。
 子供たちが進んで世話をしてくれるおかげで、
何の苦労も無くここまで育ってしまった。

 この子供たちをここまで育てるまでに、
何度も頭がおかしくなりかけたが、
おかげで最近は、人様より楽に育児しているようだ。

 子供の頃から、嫌いなものを先に食べてから、
最後にゆっくり好きなものを食べるタイプだったが、
まさに子育てもこのパターンであった。

 子供の通う学校に、
私と似たような境遇のお母さんがいて、
最近知り合って、急速に仲良くなった人がいる。
 その人は、4人女児をうんだ後、5人目に男児が生まれ、
5人目以外は、全員うちと同じ学年なのだった。

 男の子ばかりの親だと、
どうしても女の子ばかりのお母さんとは知り合うきっかけが無く、
ここまで無縁で来てしまったが、
今年は、うちの三男と、そのうちの三女が、
うちの四男と、そのうちの四女が、同じクラスで、
子供同士が気が合ってしまい、
親も知り合うきっかけができたのだった。

 4年生の、三男と三女の間では、
「おかずは基本大皿でしょ」
とか、
「最近の子供たちは、ぜいたくすぎる」
とか、
「子供は親を手伝うべき」
などという話題で盛り上がるのだという。 

 彼女の子供たちも、参観日で見てみれば、
我が家同様、昭和チックなガキンチョで、
実に好感が持てる素朴な子たちであった。

 彼女も、気取らず、
がははは、と、朗らかに笑い飛ばしたり、
授業参観では、子供にニコヤカに笑いかけるような、
私同様の昭和のカーチャンであった。

 彼女いわく、
「最後が男って、ツライ!」
と、いうことだった。

 健康だった体も、
子供たちにいろいろ吸い取られて、
体の各種各部位が、ぼろぼろになり、
その上、年取ってきたのにもかかわらず、
かけずりまって、怪我しまくって、病気しまくりの男の子には、
も〜〜〜〜〜う、参っちゃう!
 ・・・・・・とのことだった。

 上が女の子4人で、
「育児って、こんな感じなのね」という基準が、
下手に出来あがっていただけに、
男の子育児って、こんなに大変なのかい!
 ・・・・・・というオチだったらしい。

 そんな彼女に言わせると、
4男児の後に女児が生まれたことについては、
「デザートじゃん!」
ということだった。

 精進料理の後の、スイーツですか!
 ううむ、納得!

 そんなわけで、
甘さ控えめのスイーツ
(常にビターな目つきのスケ番乳児)に
舌鼓を打ちつつ、
夏休みの子供たちを観察してみた。

 子供同士の会話を、盗み聞きするのは、
実に面白い。

 4年生の三男が、中2の長男に、
「金魚って、何ゅう類?」
と聞いている。

 「何ゅう類」って!

 彼の知識の中では、
生き物は、基本、「哺乳類」で、
その他の生き物は、
「『何か』乳類」なのだろう。

 それにしても、
「何類?」
じゃなくて、
「何乳類?」
でもなくて、
「何ゅう類?」
ってのがいいじゃないか。

 「なに」のお尻の「に」と
「にゅう」の頭の「に」が合体しちゃうところが、イカシテル。

 それに対して、小6の次男が横槍を入れ、
「魚介類だろ」
と言う。

 中2の兄は、
「それは食べ物の呼び方だろ。生物の分類では、『魚類』だろ」
と言う。

 そして、小1の四男が、踊りながら、
「ギョ〜〜〜ル〜〜〜イ〜〜〜!」
と叫ぶ。

 な〜〜〜んだそりゃ!
 米を研ぎながら、思わず吹き出す。
 
 それだけではない。

 次男が、夏休みの自由研究に、
自作アニメを撮影しているのだが、
しきりに、
「脚立持ってきて! 脚立〜〜〜!」
と叫び、誰かが脚立を持っていくと、
「違うよ、はしごじゃなくて、脚立〜!」
と吠えている。

 本人、完全に創作の世界に入り込んでいる上、
アニメ映画の監督として、
撮影対象の「クレイ」、
つまり粘土の前から離れることが許されないらしく、
兄弟たちに向かってヒステリックに
「早く! 脚立!!!」
と絶叫しているのだった。

 兄弟たちは、言われるがままに
必死で納戸から脚立を引っ張り出してきたのに、
「違う! これじゃない!」
と怒鳴られ、監督のひんしゅくを買っている。

 監督様が、
デジカメを持っておろおろしているということは、
もしかしてこれは、
「三脚」を欲しているのではなかろうか?

 そこで、だれかが、
「脚立じゃなくて、三脚じゃねえの?」
と突っ込むと、大監督様は、
はっ、と小6に戻って、
「あ、そっか」
と、舌を出した。

 「きゃ〜」しか合ってないっつーの!
 まあ、ちょっと近かったけどな・・・・・・

 「馬鹿だね〜」
と言えばそれまでだが、
無知をさらけ出して思い切り突っ込まれ、
恥をかきながらも知識として変換されることは、
結構すばらしい過程ではないだろうか。

 私のように、
ピンクレディの「ペッパー警部」の歌詞で、
♪グラビアみたいに揺れている、ああっ、感じって〜る〜♪
の「グラビア」を、
大人になっても「うらびら」だと思っていた人間は、
兄弟で突っ込み合える幸せをうらやましく思える。

 なんだよ、「うらびら」って。
 当時、「グラビア」という単語を知らなかったとはいえ、
ヒアリング能力低すぎ!

 30歳過ぎてから、
「『うらびら』って!」
と、突っ込まれるつらさったらない。


 子供って・・・・・・
 
 知らないことだらけなんだろう。
 どれだけ知らないか、ということすら
見当もつかないくらい、
何にも知らない中で生きているのだろう。

 そして、毎日、間違えながらいろいろ覚えていく。

 さて、子供のことばかり言えるんだろうか?
 大人も。

 私だって、世の中のことをほとんど知らない。
 知らないのに、平気で生きている。
 知ろうとしながら生きていかないと、
こりゃあ、えらいこっぱずかしいことになるぞ。

 公衆の面前で「何ゅう類?」って聞いちゃう、
そんな大人になっちゃうぞ。

 勉強しなきゃ。
 人のこと笑っていられない。

 本読んで、新聞読んで、ニュース見て、
人に会って、働いて、経験積んで、
膨大なる「知らないこと」に挑んでいかないと!

 まじめに勉強する小学生を見習おう。

 いつまでも、勉強を続ける自称小学生でいよう。

 現在40歳の、小学33年生、がんばらねばよう!


  (了)

(話の駄菓子屋)2006.8.13.あかじそ作