「 惨敗の夏 」

 「攻めの夏」とか言って、張り切ってみたものの、
チャゲアスの歌じゃないけど、
♪思うようには〜いかないもんだね〜♪
である。

 惨敗だ!

 宿題をはじめ、子供たちひとりひとりに、
コツコツと勉強を教えようと思っていたのに、
なし崩しに計画倒れとなり、
あちこち出かけようにも、夏風邪が家族7人にぐるぐる循環し、
ほとんどがお流れになった。

 挙句の果てには、
神経の疲れで母親である私が、
ズンと落ちちゃっているんだから、
もう、ニッチもサッチもいかない。

 なんで、こんなんなっちゃたかということは、
夏休みなので(絵のない)絵日記風にまとめてみようと思う。


 7月21日

 よし、今年の夏休みは、逃げないで攻めるぜ。
 子供らが、「腹へった」と叫ぶ前にメシを出し、
「どっか行きたいよ〜」とわめく前に
「さあ、出かけるぞ」とけしかけてやる。

 どうだ。
 攻撃は最大の防御。
 これで今年の夏は、完璧さ!


 7月23日

 ここのところ夫が具合悪そうだったが、
いよいよやばい状態になっている。
 3年に1回くらい発病する重症の咽頭炎で、
しゃべれない、食べられない、頭悪い、の、三重苦になっている。
 医者に行くにも、ひとりでやってる自営業のため、
なかなか休みが取れず、
やっと医者に行ったと思ったら、
もう、点滴に通うほどひどくなっていた。

 おまけに、この夏休みにあちこちでかけるために
コツコツ貯めておいた「娯楽費」のほとんどが、
何度にも及ぶ点滴代に消えた。

 ああ、夏風邪は、馬鹿がひく。
 馬鹿!


 7月25日

 子供らが夏恒例のお腹の風邪にやられている。
 食中毒ではないと思うが、
順番に誰かしら下痢してビオフェルミンを飲んでいる。
 食欲も無いらしく、
いつも喜んで食べるそうめんも、
「冷たいのイヤ、温かいものにして」
と言われ、結構三度三度きちっとした献立を要求される。

 なんか、凄く家事が増えている気がする。


 7月28日

 長男の部活(吹奏楽部)の練習が忙しい。
 8月の頭にコンクールの予選大会があるため、
今は、まさに一番練習の大変な期間だ。
 早朝から夕方まで、弁当持参でがんばっている。
 (夏休みも5時起きで弁当作りだ!)
 本当にあせまみれで頑張っているので、
長男を置いて、昼間、みんなで楽しいところに行くのは、
とっても気がひけるので、
小学生チームは、毎日コツコツ宿題をやっている。
 この調子でいけば、7月中には、全部終わりそうだ。


 8月3日

 長男の吹奏楽部が、まさかの予選敗退。
 でも、これでお盆までゆっくり休めると思いきや、
「アッタマキタ!」という熱血女性顧問が、
お盆までの期間もみっちり練習をする、と言い出した。
 お盆の一週間をのぞいて、
その後、また2学期までみっちり練習をするのだという。

 長男も部員たちも、へろへろだ。
 体育会系地域においては、
文化部も、熱血熱血大熱血なのであった。

 そして、我が家のたくさんの計画も、
このことにより、だいぶオジャンになってしまった。 


 8月13日

 夫と長男三男が、夫のふるさと金沢に帰省。
 帰りは、15日の予定。
 アカンボがいて、全員での移動はキツイ、ということで、
前回は、ゴールデンウィークに、
夫と私と次男四男、長女の5人で帰省したが、
5人での移動だったのに、どうも淋しさがつきまとっていた。
 金沢で夕飯に旨い寿司が出されても、
「ああ、長男がきてたらどんなに喜んだだろう」
とか、
新幹線の窓から富士山が見えても、
「三男が見たら喜ぶのに」
とか言って、イマイチ盛り上がらなかった。

 今回は、3人だけの帰省。
 もっと淋しげなんだろうなあ、と思ったら、
そうでもなかった。

 出かける長男と三男は、
留守番の次男四男の気持ちなどおかまいなしに大はしゃぎで、
「金沢行けない人、か〜わいそ〜! ひ〜ひっひ」
とまで言ってしまっている。

 あ〜あ。


 8月14日

 弟の嫁さんと、姪っ子二人がうちの両親の家に泊まりに来る。
 この嫁さん、若いのに実に賢い子で、
弟がいなくてもまったく平気で、じじばばと仲良くやっている。
 むしろ後から来る弟の方が、入り婿みたいな感じになっている。

 うさんくさいじじばば相手に、
一緒にタバコをふかしながら、
弟の悪行三昧を
「しょうもないですよね〜」
と、ニコニコしながら語り、うちの両親も、
「馬鹿な息子だよ〜」
と、ガハガハ笑っている。

 ことあるたびに私にもメールをくれるし、
なにかと子供のことも相談してくるので、
なかなかにかわいい妹だ。

 今、家族の半分が金沢に帰省しているけれど、
実家でみんなでてんぷらなどをつついていると、
淋しさもなく、あっという間に時間が過ぎていく。

 特別にどこかに行かなくても、
時々身内が集まって馬鹿っぱなしをするだけでも、
充分イカシタイベントだと思う。

 お盆、って、なかなかいい風習だ。


 8月16日

 かつてから計画していた「岡本太郎遠足」を挙行。
 天気にも恵まれて、まずは成功。
 でも、帰り道、三男がへそを曲げ、
バス停から大脱走。
 夫が追跡したが、行方知れずに。

 仕事を終えた弟が実家に来ていて、
みんなカラオケルームに集まっていたが、
逃亡中の三男と、捜索中の夫は、
引き続き外での攻防を続けてもらう。

 何かピンと来て、
カラオケルームのロビーに行ってみると、
ふてくされた三男を発見。
 夫にメールして、捜索を撤収してもらう。

 抵抗する三男を笑いながら強引に部屋に連れ込み、
から揚げをくわえさせ、機嫌を取る。
 弟が、となりに座ってじっくりと説得し、
なんとか機嫌復活。

 弟は、三男の気持ちがわかるらしい。
 鼻つまみ者同士、気が合うのだろうか。(ひどい言いよう)

 で、汗まみれでやってくると思った夫が、
意外にも家で真っ赤なアロハに着替え、
シャワーまで浴びてから現れたのには、
心底あきれ、おまけに、私たちを差し置いて
誰も知らないマイナーな曲を連続で歌いまくったのには、
開いた口がふさがらなかった。

 私が三男を見つけたからいいものの、
何だ、お前のその「使えなさ」「おめでたさ」は!

 あったまきたので、凄く高いキーで
ヘビメタキンキンの声で
「蝋人形の館」を歌ってやった。
 英語のセリフの部分は、
地の底から這い出たゾンビのごとく低い声で叫んでやった。

 子供たちがみんな怯え、
「いつものお母さんじゃない」
と悲鳴を上げていたが、それは、大間違い。
 これが本当のお母さんなのじゃ。
 いつものお母さんは、かりそめの姿なんだよ!


 8月18日

 やばい。
 岡本太郎遠足や、弟たちの接待、
ここのところ続く猛暑などの疲れのためか、
猛烈にウツになっている。

 子供に宿題を促すにも、
昼食を作るにも、
夕食の準備をするのにも、
パワーが足りない。

 カラオケ屋で吐いた毒が、自分にかかったようだ。
 「お前も蝋人形にしてやろうか!」
と、マイクのハウリングの音と共に叫んだものの、
自分が蝋人形にされてしまった。

 どうしようもなく落ち込み、
這い出ようともがけばもがくほど、
どろ〜んとくる。

 こんな風になるのは、初めてじゃない。
 だから、落ち着け、落ち着くのだ、私よ。


 8月21日

 相変わらずウツ状態と格闘している。
 しかし、今日は、小学校の親子草取りなのである。
 役員である私は、心の調子が多少悪くても、
やっぱり参加しなくちゃ、なのだった。

 すると、学校に向かう道すがら、
チャリンコをこいでいたら、
いきなりどこかから声が聞こえたような気がした。

 「躁にならなきゃウツにもならず」

 そうなのだ。
 意外にもシャイな私は、
人見知りで、
どちらかと言うと、人と会うのが苦手なくらいだ。
 で、それを察してしまわれないように、
人一倍はしゃいで、ひょうきんにふるまい、
みんなを笑わせ、大騒ぎして帰ってくる。
 で、家で、ドッと疲れて落ち込むのだ。いつも。

 生まれてこの方、同じことを繰り返している。
 それで学生時代も就職した先でも
不適応を起こして精神的にマイってしまっていたではないか。

 しかし、なぜ、今、このきっかけで、
「外で張り切りすぎるな」
「みんなを盛り上げようと思わなくていい」
「人前でも、平常心でいつも通りで」
と、急に悟ったのだろうか。

 誰かに導かれたとしか言いようが無い。

 ああ、その「誰か」、ありがとう。

 おがけで、草取りで他のお母さんたちと会っても、
必要以上に疲れないで済んだよ。
 ちょっと光が見えてきたよ。


 8月22日

 またどこから声が聞こえた。

 「土台から積み上げていくのだ」
 「土台とは、家の仕事だ」
 「土台が整わないと、上にはどんなものも乗らない」

 で、不思議なことが次々起きた。

 何と、横着者の私の体が、自然に動く。
 掃除をしてしまう。
 雑巾がけをしてしまう。
 トイレに這いつくばって便器から床から何から何まで磨いてしまう。

 なんじゃ、こりゃ!

 私じゃないみたい!

 まるで、操り人形みたいに、体が勝手に掃除している。
 (蝋人形になったり、操り人形になったりで、忙しい)

 ん?
 誰か手伝ってくれているの?
 もしかして、綺麗好きだったばあちゃん?
 困ったちゃんの孫に、手を貸してくれているの?

 ほらまた、体が勝手に床を拭き始める!

 不思議〜〜〜!
 そいでもって、
 ありがとよ〜〜〜〜〜う!
 どなたか〜〜〜〜〜〜! 


 8月23日

 友達でもあるPTA会長から、
「頼んでもいいかな」
との電話。
 普段から、忙しい彼女に
「何でも手伝うから言ってよ」
とは言っていたが、さすがに今回頼まれたことは重かった。
 「知事と語ろう」みたいな行事に学校代表で出席してくれ、
というものだった。
 しかも、3人で。
 場所は、バスと電車で1時間もかかる会場だ。

 私ひとりで行くのもだるいが、
私以外の二人も、そのかったるいイベントに行くのを頼むのは、
本当に気が重かった。
 しかも、まだ、落ち込みは治ってはいないのだ。
 極力、人と話したくないし、
ましてや、そんな頼みにくいことを面識のない人に頼むのは、
相当おっくうだった。

 しかし、思いきって、数人に連絡してみた。
 夏休み中の突然のイベント出席の依頼に
「はいはい」と気持ちよく受けてくれる人は少なかったが、
なんとか二人、協力してくれる人が見つかった。

 ああ、よかった!


 8月28日

 電車に乗って遠路はるばる行ってきた。
 学校代表という重い任務を背負って。
 アカンボ含め、子供5人をじじばばに預けて。

 で、結果は・・・・・・

 行ってよかった!!!!!

 思わぬ収穫があったのだ。

 会場から出ると、すぐ前に、
ものすごく気になる雑居ビルがあった。
 ひきつけられるように入っていくと、
そこは、手作り品を持ち寄って売っている
カントリー雑貨専門の「箱貸し屋」のモールだった。

 手作りも、カントリー雑貨も、箱貸し屋も、大好きなので、
時間を忘れて店の中を見て回った。

 「生きてる〜〜〜!!!」

という感じが戻ってきた。

 店の中は、気合いの入ったカントリー一色。
 中にあるカフェも、カントリー雑誌の中から飛び出してきたみたいだ。
 置いてある小物も、寄せ植えも、
売っている店員さんも、お客さんたちも、
みんな、肩の力の抜けた垢抜けた「カントリーさん」たちだ。

 「カントリー」というと、
何だか、小汚くて、
しつこくがちゃがちゃ人形が飾ってあったり、
しみだらけサビだらけのものが並べてある、
というイメージがあるが、
その店は、まったく、あざとくない、いい感じだった。

 私の好きな、
「アメリカンカントリー以外のカントリー」だった。

 興奮して家に帰ると、
母が夕飯にカレーを作ってくれていて、
それをご馳走になってから子供たちと家に帰った。

 すっかり元気になったぞ。

 ああ、絵に描いたような「気分転換」だったぞ!!!


 8月28日

 そうだ。
 私が落ちている間、
子供たちは、一体、何をやっていたのだろう。
 ふと、気がついて、聞いてみると、
宿題が7月の終わりから手付かずになっているという。
 はじめにペースを飛ばしすぎて、
息切れもはなはだしい。

 あと数日しかないのに、あせっているのは、
母親の私だけ。
 本人たちは、他人事のように冷静だ。

 ああ、私の子供の頃は、
夏休みの前半にちゃんと終わらせて、
自由研究とかは、張り切ってあちこち資料を集めに行ったり、
実験したり、模造紙にまとめたりしたのに、
うちの子供らときたら、やる気ゼロ。

 ああ、親の誘導が甘かったのか、
モチベーションがダメダメだったのか、
ともかく、これは、私にも責任がある。

 何とかなるのか、あと数日で。
 手伝うのは、私の主義に反するので
遠くから見守っているが、
本人たちまでが、手付かずのプリントを
遠くから見守っていてどうする!

 やれよ!
 はよ!


 ああ。惨敗の夏。
 グダグダの夏でござんした。

 心と体を一にして、
まずは、子供の教育よりも、
自分の健康を維持しなくちゃ始まらん、
そう痛感した夏でございました。

 おしまい。

(子だくさん)2006.8.28.あかじそ作