「 兄弟喧嘩 」

 子供たちもお年頃になり、
それぞれ自己主張が激しくなってきたせいか、
兄弟、親子で、連日、喧嘩喧嘩だ。

 度重なるバトルで、
私は、利き手を骨折し、
子供たちは、大事なものを壊し合って、
互いにダメージを受けている。
 こういうエネルギーの要る日々に
私は、正直、かなり疲れが出てきてしまった。

 若いつもりでいたが、
やはり、自慢の太い骨も、
5回の出産でスカスカになってきたのか、
簡単なことでポッキリ折れちゃうし、
ちょっとした動きで、筋を激しく痛めてしまうしで、
高齢出産のダメージは、産後じわじわとやってきているのだ。


 さて、先日、
例のごとく、トラブルメーカーの三男が、
24時間中4時間は号泣している四男と喧嘩をしていた。

 「早く言えよ〜!」
と、イライラして叫んでいる三男。

 「あたまなぐったから、いわない!」
と、断じて口を割らない四男。

 「気になるから言え!!」
 「言わない!」
 「言え!!!」
 「言わない!!!」

 そんなやり取りが延々数十分続いた後、
プチッ、と三男のアドレナリンスイッチが入った音がした。
 突然三男の声の調子が変わったのだ。

 「言えよ〜〜〜っ!!!!!!!!」

 もう、目は血走って、超音波を発し、
泣いているのである。

 「言わない!!!!!」

 四男もかなりの意地っ張りで、
何だか知らないが、さっさと言えば終わりなのに、
殴られても蹴られても、
号泣しながらも、絶対に言おうとしない。

 「言え〜〜〜〜〜!!!」

 三男、もう、絶叫しながら、大暴れして、
ドアは蹴るわ、壁は殴るわ、頭を柱に打ち付けるわ、
と、もう、尋常じゃないイラつき方だった。

 「こら! 家を壊すな!」

 私も二人の間に割って入って止めたが、
「だって、コイツが言わないんだもん〜!!!」
と、三男の発狂状態は、収まるどころか、
ますます激しくなってきた。

 「何よ、何を言わないのよ!」
 私が、四男に聞くと、四男は、
「あた・・・ま・・・を・・・なぐっ・・・た・・・か・・・ら、いわ・・・な・・・い」
と、号泣の隙間隙間に言った。

 「何のことよ」
 今度は、三男に聞くと、
「何か言いかけて、『やっぱ言わない』って、言うんだよ! きっと僕の悪口なんだよ!」
と、キーキー泣いている。

 「悪口なの?!」
 四男に詰問すると、
「わる・・・くち・・・じゃ・・・ない・・・い・・・い・・・」
と、わんわん泣きながら言う。

 「じゃあ、何なの? うるさいからサッサと言ってよ」
と、四男に言うと、
「い〜わ〜な〜い〜〜〜!」
と、またまた凄い号泣だ。

 「だから〜!!!」
 三男は、狂ったように床の上でダンダンダンダン地団太を踏み、
イラつきも最高潮に達していた。

 「早く言っちゃてよ! ほら!」
と、私も四男に詰め寄ると、
四男も、
「い〜わ〜な〜い〜の〜!!!」
と、ダンダンダンダン地団太を踏む。

 「言えよ〜〜〜!」
 三男が、ダンダンダンダン。
 「やだ〜〜〜!」
 四男が、ダンダンダンダン。

 それを間近で見ていた生後11ヶ月のアカンボも、
見よう見まねで、
「イイイイイイ!!!」
と叫んで、ダンダンダンダン始めた。

 「ゆ! か! が! ぬ! け! る!」
 そういう私も、ついつられてダンダンダンダンやってしまった。

 もう、家の中じゅうに、イラつきが充満し、
ダンダンダンダン、ダンダンダンダン、
大騒ぎになった。
 この家は、大きな打楽器か!
 来日パーカッション集団の埼玉公演か!

 言え、言わない、のやり取りを、
それからまた数十分繰り返した。

 「怒らないから、言いな!」
と、四男の肩を抱いて言ったのだが、
そう言う私も、イラつく三男の感情が移り、
何が何でも言わない四男の頑固さに、
完全に怒っていた。

 「ほら、言って!」
 「言わない」
 「言いな」
 「・・・・・・」

 四男の口元がもじょもじょ動いて、何か語り始めそうだった。

 「・・・・・・み・・・・・・」
 激しくしゃくりあげる息の間に間に、
四男は、「み」と言った。
 「うっう・・・・・・み・・・・・・みかん・・・・・・ううっ」

 「みかんん??」

 私が、素っ頓狂な声で言うと、
三男は、とたんにスッと平常モードに戻った。
 
 「みかんがどうしたの?!」
 続けて私が早口で聞くと、
「みかん・・・・・・うっっっ、み・・・・・・か・・・ん・・・・・・ううっ」
と、四男は、「みかん」としか言わない。
 
 「だから〜! みかんがどうしたんだよう!」
 思わず声を荒げると、三男が、
「お母さん、もういいよ」
と、あきれたように言った。

 「よくないよ、みかんがどうしたってか?!」
 今度は、私の方が発狂しそうだった。

 「みかんを・・・・・・うう・・・みかんを・・・・・・ううう・・・みかんうう・・・・・・みかんを・・・・・・」

 「みかんが何なんだよう!!」

 「ううう・・・・・・みか・・・ん・・・を・・・うううっ・・・みかんを・・・うう・・・みかんを・・・・・・」

 「何よ、みかん、欲しいの?! 誰かがみかん取ったの?!」

 「みかんを・・・・・・みかんを・・・・・・ううう・・・みかんを・・・・・・」


 「あああもう! 言えないんなら、紙に書いて!」
 私が、電話のところにあるメモ用紙とボールペンを四男に渡すと、
四男は、しゃくりあげながらも、
一生懸命に習ったばかりの文字でなにやら書き始めた。

 そのメモを覗きこむと、

[もま・・・・・・]
と、気味不明なひらがながいくつか書かれていた。
「もま?」
と、聞くと、
「も・・・ま・・・じゃ・・・ううっ・・・ない・・・ううっ・・・・・・」
と、言う。

 こっちも気が短いので、とっくに怒りも頂点に達していて、
歯を食いしばりながら、
「もま、じゃないなら、な、に?」
と、聞くと、
「みかん・・・を・・・・・・」
と、また「みかん」が始まってしまった。

 「みかんがどうしたってんだい!!!」

 ついに大声で仁王立ちで叫んでしまった。
 
 三男に羽交い絞めされながら、
四男に覆いかぶさろうとした瞬間、
四男は、こう言った。

 「みかんを・・・うっうっ、もむと・・・・・・うっ、あまく・・・うっ、なる・・・・・・」

 聞き間違いだと思った。
 もう一度、聞いてみた。

 「何だって?」

 「みかんを・・・・・・もむと・・・・・・あまく・・・なるの・・・・・・」

 「はああああ?」

 そんなことだったんかい!!!

 そんなお子様ミニ知識のために、
1時間近く取っ組み合いをしたり、怒鳴りあったり、
みんなで床を踏み鳴らしていたのかよう?!

 あっけに取られる私の横で、
当初当事者であった三男が、
ひとり、ニヤニヤ笑っていた。

 「あのね、みかんは、揉むとあまくなるんだと。これでいいか?」
 髪振り乱した私が言うと、
「知ってる」
と、三男は、薄ら笑いを浮かべた。

 それを見て、四男もまた、薄ら笑いを浮かべた。

 なんだい、そりゃあ!

 疲れ果て、茶の間の真ん中でゆっくりとしりもちをつくと、
その横で、覚えたての面白い動作を堪能するアカンボがいた。

 ヨダレをだらだら垂らしながら、
ダンダンダンダン、ダンダンダンダン、
足を踏み鳴らしては、
「ウケケケケケケケケケ」
と、大笑いしている。

 おまえらなあ・・・・・・


 私は、育児歴14年にして、やっっっっと、悟った。

 兄弟喧嘩に親が入れ込みすぎちゃあダメ!
 どうせしょ〜〜〜もない内容なの!
 マジで怒っちゃだめだめよ。
 あいつら[ハラカラ]だから!
 「同胞]だから!
 親の入れる余地などないから!

 同じ土俵に立ったら負けだよ!

          

                 (了)

(子だくさん)2006.10.10.あかじそ作