「 携帯問題 」 |
急に夫の弟の結婚が決まり、 式参加のため、急きょ一家で 石川県金沢市に帰省することになった。 自営業の夫の収入が、夏あたりに少し目減りしたせいで、 秋冬の支払い等に頭を抱えていたところだったので、 お祝い金10万円也+7人分の交通費10万円也+土産代、移動中の食事代等で、 新たに23万円ほどかかることに、 さすがの「自称やりくり上手」の私も、 頭がピーーーーッとなった。 連日連夜、家計簿と通帳を見比べながら、 ああでもないこうでもない、 これをあっちに回して、あれをここに補てんして、 と、必死で計算してみたが、 結局、どうもならなくて、やっぱり、最終的には、 「頭ピーーーーーッ」なのだった。 ダンナに文句を言ったところで、 ヤツは、一生懸命働いてる典型的なワーキングプアだし、 私は、春から娘を預けて働くつもりだったが、 娘はアレルギーでショックを起こすことが判明し、 あと2年くらい保育園は、無理だし、 うちの親は、子供嫌いだから預かってくれないし。 「ああ、やっぱ内職か? 『昭和のおっかあ』らしく、やっぱ内職なのか? それはそれで面白そうだけど、実入りは、少ないだろうなあ。 節約して搾り出す方が合理的か? いや、これ以上、もうどこも絞れないし・・・・・・」 などと、ぶつぶつ独り言を言っていると、 中2の長男が、すぐ横で、 「お母さん! 携帯買ってよ!」 と唐突に言うものだから、 「はい〜ぃ?!」 と、いきなりキレぎみの返事をしてしまった。 「あんた部活忙しくて携帯使う暇ないでしょうに」 「いや、みんな持ってるし」 「じゃああんた、みんなが人殺ししたら人殺しするんか?」 「・・・・・・」 「必要なときは、お母さんの携帯使っていいから」 「いや、そうじゃなくて、友達とメールしたいんだよ」 「学校で話しなさいよ」 「みんなメールで話し合ってるんだよ」 「それで今、新しいイジメが出てきてるんじゃないの。そんなの良くない良くない」 「チェーンメールとかやらないから!」 「当たり前じゃあ」 「ねえ、いいでしょ!」 「だめだよ〜」 「着うたフルやりたいんだよ〜!」 「じゃあレンタルCD屋行けばいいじゃん。ポータブルオーディオもあるでしょ」 「携帯で聴きたいんだよ!」 「ポータブルオーディオでいいじゃないの」 「携帯でなきゃいやなんだよ」 「友達がそうしてるからでしょ」 「・・・・・・うん」 「あのねえ! 家と学校の往復しかしてないんだから、電話を携帯する必要ないの!」 「でも」 「メールしたいならパソコンでやりなよ」 「それじゃダメなんだってば。友達とメールしないと話についていけないの」 「そんなのついていかなくていいよ。それともメールしないと仲間はずれにされるの? いじめられるのか?」 「それは、ないけど」 「じゃあいいじゃない」 「クラスで僕だけだよ、持ってないの」 「ええ〜! みんなの親は、何で買ってやるんだろう?」 「みんな新しいゲームも親に買ってもらってるんだよ」 「それは、親が馬鹿なんだよ。うちは、そんな高いオモチャ買う余裕ないからね」 「自分でお金払うから〜!」 「電話買うだけじゃないんだよ。月々基本使用料以外にもパケット代かかるんだからね」 「うそ」 「何よ、知らないの? 友達とは、そういう話は、しないんだ?」 「『子供は、お金のことは心配するな』って言われるって」 「えええええ〜〜〜!!! それじゃあ、子供がどんどん馬鹿になるじゃん!」 「でも、ほとんどの人が親に何でも買ってもらってるよ」 「『子供に何不自由無い生活を提供するザマス』ってか! おかしいよ、それ!」 「勉強さえちゃんとすれば、何でも買ってもらえるって」 「はあ・・・・・・世の中がおかしくなってきてるのもわかるわ」 「ねえ、月いくら払えばいいの? お年玉残ってるから払うよ」 「基本料金だけで2千円位するし、定額つけても何千円もかかるよ」 「え! そんな?」 「そうだよ! 米何キロ買えると思ってるんだよ」 「米?」 「ああ、米じゃピンと来ないか。じゃあ、月にゲームソフト2本以上買える、って言ったらわかる?」 「ああ・・・・・・・月2本か・・・・・・高いなあ・・・・・・」 「友達のうちが裕福とかうちが貧乏とか、そういうんじゃなくて、 月々それだけお金稼ぐのに、親たちがどれだけ命削ってるか、考えてみな」 「・・・・・・」 「お父さんは、土日返上で働いているんだよ。 友達がみんな持っていて、あんただけ持っていないのは可哀想だとは思うけど、 お母さんの携帯をみんなで共有するのじゃダメかな? あんたに来たメールは、覗いたりしないから」 「う〜ん・・・・・・」 「出かけるときは、持って行っていいから」 「う〜ん・・・・・・」 「お父さんやhanaちゃんにも、いい方法あるか聞いてみるからさ」 「う〜ん・・・・・・」 長男は、口をとがらせて部屋に入ってしまった。 お付き合いしている彼女は、まだいないようだし、塾にも通っていないから、 実質遊びに使いたいだけのようだが、 友達もみんな同じような状況で、みんな携帯を持っている。 もし私が長男の立場だったら、 大暴れして「買って買って」と叫ぶかもしれないが、 おとなしい長男には、これが精一杯の主張だったようだ。 ここで、 「はいよ」 と、気持ちよく携帯を買ってやり、気持ちよく料金を払ってやれば、 親も子供も摩擦なく、お互い楽しい生活を送れるかもしれないが、 それは何か違うような気がする。 百歩譲って、「買って買って」と言われる生活に疲れ、 自分が楽になりたいばかりに、 子供のいいなりになって何でも買ってやるダメ親になり下がったとしても、 そのことで、子供自身が馬鹿になってしまうのは、困る。 これだけのことをするためには、 これだけの労働が必要なんだ、ということを知った上で、 よくよく自覚の上、使用してもらわねばならぬ。 「子供は金の心配はするな」と言う、よそのうちと反対に、 「これだけの思いをして手に入れた金を、どう使う?」 と、あえて子に問いたい。 そうでなければ、子供は、 お金はどこかからいくらでも湧いて出るものだと思い込み、 そんなにお金があるのなら、 大人になっても、親になんとかしてもらおう、 いつまでも養ってもらおう、という考えになってしまう。 しかし、実際は、違う。 働かざる者、食うべからず、だ。 お金というものは、 仕事をして、切磋琢磨し、 大変な思いをして、やっと手に入るものだ。 買いたいもの、やりたいことに使う前に、 払わなければならないものを払い、買わなければならないものを買い、 その残ったお金が、初めて自由に使えるものなのだ、ということを、 子供の頃から学習しておかなければならないと思う。 うちは、子供にお小遣いを与えず、 年頭に親戚にもらったお年玉をすべて「お母さん銀行」にあずけ、 使いたいときには、お母さん銀行の通帳に記帳して各自引き出すことになっている。 小さい頃は、やはり、12ヶ月でのペース配分がわからず、 最初のふた月くらいで使い切ってしまい、 残りの10ヶ月は、家事を手伝いまくってお駄賃を稼ぐようなこともあったが、 最近は、みんな月いくらまで使えるか、 年末までいくら残すか、 と、考えながら使えるようになってきた。 しかし、新作ゲームソフトが売り出され、友達みんなが買ったときなどは、 我慢できず衝動買いすることもある。 そして、正月まで何ヶ月もあるのに残金がゼロになってしまい、 年末まで、1回10円の過酷な家事手伝いを申し出て、 100円稼ぐのに10日もかかることになる。 これをやっていて、思ったのだが、 子供たちが、だんだん経済観念がついてきたかわりに、 ケチになってきたような気がする。 まあ、しかし、これは、いたし方あるまい。 自分のお金の使い道は、 まず、「学校で使う文房具」が最優先。 これは、大人の生活の「光熱費」や「家賃」に相当し、 「まず払わなければならないもの」に当たる。 次に、読みたい本や、趣味の道具。 これは、「自分らしく生きる道具」で、 大人になっても文化的生活を送るために必要なものだ。 それを買っても残ったら、 後にきっと使うだろう、という分を取っておく。 これは、「貯金」といい、大人になると、 急な出費に備えて必要なもの。 そして、まだ少し残ったら、 ここではじめて、ゲームやお菓子を買う。 これは、人生を楽しむためのもので、 あったら楽しいものだ。 でも、これを最優先にしてはいけない。 もし、これを最初に使ってしまったら、 大人がパチンコに生活費を全部つぎ込んで、 家賃や電気代水道代を払わないようなものだ。 家に住めなくなる。 人間らしい暮らしができなくなる。 そう言って、何年にも渡って、 子供に経済についての教育をしてきたつもりだが、 子供が大きくなってくると、そう簡単にもいかなくなる。 子供にも子供なりの社会があり、 付き合いに必要経費がかかることが増えてくる。 今、携帯を持つ持たない、という問題が起きてきたのも、 そのひとつだ。 親の方針と、子供たちの社会。 親が管理すべき部分と自分で考えさせる部分の境界線とは? 援助してやるべき部分と、そうでない部分の分かれ目とは? ううむ、難しい。 結局、いまだに私と長男との話し合いは続行中だが、 子供の気持ちもわかるだけに、 私は、どこへ行くにも、この問題を心に携帯している。 まだ中学生だが、もう中学生。 どうすっかな? 夫とも話をするが、ラチがあかない。 私の携帯を共同使用して、 パケット定額の料金だけ、 内職でも手伝わせて、月々本当に長男自身に稼がせるか? いや、部活部活でそんな時間あるもんか。 来年は、受験生だし、内職で勉強する時間がなくなる、なんて、 それは可哀想だし。 さて、どうしたものか。 夫が持って帰ってきた、 山積みの携帯電話会社のパンフレットに顔をうずめ、 「う〜ん」と、うなる。 そこへ、口笛を吹きながら次男がやってきて、ひと言。 「お母さん、ぼく、隣の女子にメルアド聞かれたんだよね〜・・・・・・」 何が言いたい! 何が言いたいのだ、小6の次男よ! 聞こえな〜い! お母さん、聞こえな〜〜〜い!! 何にも聞こえないかんね〜〜〜!!! (了) |
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(子だくさん)2006.11.28.あかじそ作 |