「 自分DAY 2 」

 「人を大切にすること」と「人に大切にされること」を学習するため、
7人家族で1週間、
曜日ごとに一人づつ、大切にする日を決め、日常を過ごす、
「自分DAY」プログラムを開始して、最初の1週間。

 提案者の私でさえ、
「じゃあ一体、具体的にはどうしたらよかんべ?」
と、ぼんやりしたまま始めたせいか、
予想通り「試行期間」となった。

 我が家は、このような1週間を過ごしたのである。


 月曜日。
 朝。
 いつも通り、戦争のような喧騒の中、
子供4人を学校に送り出して、ホッと一息ついた後、
「あ、今日から『自分DAY』じゃん!」
と気づく。

 あまりにバタバタしていて、子供に宣言するのを忘れた。
 ま、いっか。
 帰ってきてから夕飯の時にでも言おう。

 ところが、夕飯の時間になっても、
コンクール前の長男は、帰ってこない。
 直前の練習で、時間が押しているのだろう。

 とりあえず、小学生の次男三男四男に説明しておくことにした。

 「お〜い、みんなちょっと聞いて」
 「えっ! なになに?!」

 ご馳走でも出るのかと、食いしん坊の次男が飛びつく。

 「今日から『自分DAY』というのをやります!」
 「なにそれ」

 みんなキョトーンとしている。

 「○○君(四男)、うちは何人家族ですか?」
 「5人」
 「5人? 5人兄弟だけど、5人家族じゃないでしょ」
 「え? そうなの?」
 「バカだなあ、子供5人と大人ふたりで7人家族だろ」
 次男が四男をつつくと、四男は、
 「うそ」
と、言う。

 「うそじゃないよ。7人家族なの。で、○○君(三男)、1週間は何日?」
 「なのか」
 「でしょ〜お? だから、『自分DAY』ってのをやろうと思うわけ」
 「何それ?」
 「自分の割り当ての曜日には、家族みんなに大切に扱われるってこと」
 「ヤッター!」
 「イェ〜イ!」
 「わーいわーい」

 「ちょっとあんたたち、何か勘違いしてないかい?」
 「別にお菓子余分に買ってもらえるとか、ひいきされる、とか、そういうんじゃないんだよ」
 「へ?」
 「心の問題なんだよ」
 「は?」
 「その日一日、家族全員で、その人を大切に思うんだよ。大事に扱うの」
 「ふ〜ん」
 「とりあえず、小さい順ね。月曜は長女から」
 「じゃあ、火曜は四男で水曜は三男で木曜は僕で金曜は長男か」
 次男が言った。

 「で?」
 私が、ニヤニヤして次を促すと、
 「土曜がお父さん?」
 と、次男が言う。
 「違うだろ〜! 小さい順って言ってるじゃん」
 「え? お父さんでしょ?」
 三男が、首をひねる。

 「いやいやいやいや、存在感はお父さんの方が小さいかもしれないけど、
一応、お母さんの方が『小さい』でしょうが。4歳下でしょ」
 「あ、そっか」
 「え、お父さんてお母さんより4歳も上なの?」
 「そうだよ〜。大学の先輩だったんだよ」
 「え〜! お母さんの方が先輩みたい」
 「最初は、お父さんに敬語使ってたのよ」
 「今じゃ逆だけど」
 「何か言った?」
 「いいえ」
 次男が口を曲げて変な笑いをした。

 「じゃあ、お母さんが土曜日でお父さんが日曜?」
 三男がそう聞くので、 
 「そうそう。あんたたち、お父さんには、日曜の夜しか会えないしね」
と答えた。

 夫は、平日と土曜日は、
子供たちが登校した後に起きてきて、
寝静まった後に帰ってくるので、
子供たちと会えるのは、たまに仕事の空きがでる日曜の夜だけなのである。

 「ま、そういうわけで、『自分DAY』を始めます」
 「わーいわーい」
 「今日は、○○(長女)を大事にしてね」
 「はーい」
 「わーい、イベントだあ」
 「わーいわーい」

 (ホントにわかっとんのか、こやつら)

 子供たちは、ばあ〜っ、とアカンボのところへ集まって、
だっこしたり、あやしたりを始めた。

 その後、夕飯の途中に、
アカンボが食卓のおかずをぶちまけようとしたので、
「こらっ」
と私がそれを止めると、
「お母さん、○○(長女)の日なのに!」
と子供らが言う。

 「いやいやいやいや、それは違う。
 いくら自分の日でも、しつけはしつけだからね。
何かいけないことをしたら、ちゃんと叱られるんだよ。
 ましてや、人の急所を蹴ったり、物凄く悪いことをしたら、
いつも通りぶっ飛ばすからね。これも愛情だからね」

 「ほーい・・・・・・」

 「ほら○○、ご飯を大事に食べようね」

 しかし、アカンボは、そんなことはお構いなしに、
ぶちまけたいのでぶちまけようとする。
 椅子に座らせても立ち上がってテーブルに上がろうとする。
 自分の前のご飯やおかずを、手づかみでこね回し、
「何でそこまでやる?」ってほど、
床におかずやスプーンを、わざと落として遊んでいる。

 「はい、遊んだから、ごちそうさまね」
 私がさっさと片付け始めると、
「自分DAYでも、お母さんは、いつも通りだな」
と、次男が言う。

 「赤ちゃんは、いつも大事にされているから、自分DAYも変わりないかもね」
 と答えたが、
(僕らは?)
という返事が帰ってきたらどうしよう、と思って、一瞬ひやひやした。

 しかし、運良くやつらは、気づかなかった。

 彼らも、いつも大事に想われては、いるが、
大事に扱われているか、と聞かれれば、
申し訳ないが「NO」である。

 想いはあふれていても、
いかんせん、対象が多すぎて、
正直、量的にも質的にも不足が出ているのは、否めない。
 母性あふれる完璧ママなら、
何十人に囲まれても同じように愛を与えられるかもしれないが、
こちとら生まれてこの方、ほとんどの場面で雑に扱われてきたから、
愛情のかけ方も、かけられ方も、まだよくわかっていない、
未完成人間、未熟ママだ。

 ちょっと待て。
 この「自分DAY」って、もしかして、
私自身の意識を変えるプログラムなのでは?

 間もなく長男が帰ってきて、
「イベントをやるよ!」
と、次男が説明しているところを見ると、
これは、子供にとっては、イベント扱いのようだ。

 週に一度、いい思いができる日だと、まだ思っていやがる。

 さてと、どうなることやら。
 実質、本番は、明日からだな。


 火曜日。
 朝一番に、四男の顔を、ニコニコの笑顔で見つめて、
「今日はあんたデイだね。おはよう!」
と言うと、
「でぃひひひ」
と笑って逃げて行った。

 母の笑顔が、怖いのか?
 あまりに久々で。
 いや、照れくさいだけだろう。
 そうだよね?

 笑顔を作ったものの、
四男の食欲の無さは、相変わらずで、
常につんつん突っつかないと、ご飯を食べやしない。
 学校で倒れやしないかと思うほど、
小食で、しかも、大暴れする。

 凄い燃費の良さだ。
 うらやましい。

 いやいや、そんなことは言っていられない。
 登校時間までに、子供茶碗半分も食べられないのでは、困る。

 四男の日なのに、いつも通りに、
「やれ食え」「はよ食え」の連呼である。

 更に、時間切れに持ち込んで、
食事のほとんどを残そうとする、いつもの作戦に、
こちらも徐々にイライラがつのってきた。

 「ほら行くぞ」
の次男の声に、
「イェイ」
と、満面の笑みを浮かべて飛び上がり、
手付かずのおかずを片付けようとするので、
(またかよぉ)
とイラッときていたところへ、
思いっきり味噌汁を床にこぼしたので、
「コラッ!」
と怒鳴ってしまった。

 すると、三男が、間髪入れずに、
「おい、ヤケドしなかったか?!」
と、言った。
 いつも四男をいじめてばかりの三男が、
とっさにそう言った。

 (あ! しまった!)

 今日は、四男デイでは、ないか?!

 味噌汁は、とっくに冷めきっていて、
ヤケドなんてしないのはわかっては、いるが、
四男を大切に思うのなら、
「こらっ」とか「こぼすな」とかでは、なく、
第一声は、「大丈夫か?」でなければならなかった。

 このプログラムで一番矯正すべき人物だと思っていた三男に、
そのことを教わった。
 いやいやいやいや、こりゃあ、まずいぞ。
 一番矯正すべき人物は、実は、母親の私自身ではないか。

 う〜む、プログラムが進めば進むほど、
自分の悪いところが浮き彫りになってきている。

 その後、子供たちが学校から帰宅して、
いつも通り兄弟喧嘩で、四男が泣いているので、
泣かした三男に
「今日は四男デイなんだから、意地悪しないの!」 
と言うと、 
「何でだよぉ! コイツが僕のもの壊したから怒っただけなのに!」
と三男は、怒り、
四男も、「でへへ」という顔をした。

 「何だよ、コイツが悪くてもコイツデイなら悪くなくなるのかよ!」
と三男が、ますます怒っているので、
「違う違う、ごめんごめん、お母さんが間違った」
とすぐに間違いを認め、
「さあ、あやまりな!」
と四男に叱ると、四男も意地を張り、
「ヤダ!」
と、三男を蹴飛ばす。

 そこでまた、激しい喧嘩が勃発。
 私は、あっち向いて「コラッ」と怒鳴り、
こっち向いて「やりすぎ!」と叫び、
どんどん激化する二人に
「お前たち、いい加減にしやがれ、この野郎!」
と、怖い顔でメンチきっている。

 あ〜あ!
 もう、ぐだぐだ!


 水曜日。

 「三男坊さま、今日一日、よろすぃくおねがいすぃま〜っす」

 今日こそちゃんとやるぞ、と、気合を入れ、
ニッコ二ッコしながら三男の顔面間際まで迫った。
 暴力的とも取れる、激しい作り笑顔で初心声明をし、
自分自身にも気合を入れた。
 三男本人は、いよいよ自分の番が回ってきたという嬉しさと、
「お母さん勘弁してくださいよ」という戸惑いの混じった、
半笑いを浮かべていた。

 学校のアンケートで、
「自分が嫌い」「自分は誰にも大切に思われていない」
と書いた三男に向けて始めたこの「自分DAY」。

 今日こそは、ぐいぐい三男を大切に扱っちゃうからね!
 イヤってほど、愛情を実感させたるわい。

 そうこう言っているうちに子供らは登校し、
家の中が一気に静かになった。

 やれやれ。
 何だか気合ばっかり空回りして、
なかなか身のある行動が取れずに、疲れる。

 具体的に大切に扱うって、どうしたらいいのだ。
 物理的な家事育児を無事遂行するのにやっとで、
精神的な家事育児の方が、まるでお留守になってしまった。
 
 どうすりゃいいのか?
 どうすれば、「自分は大事に扱われている」と実感できる?

 まずは、自分の身に置き換えて考えてみる。

 @笑顔を向けてもらえる
 A話を聞いてもらえる
 B認めてもらえる 

 ああ、そういえば、三男は、いつも、
「何で僕の話聞いてくれないの?!」
と怒っていた。
 もちろん、聞けるときは、精一杯聞いているのだが、
いかんせん、聖徳太子ではないから、
いっぺんに大勢の話を聞くことができない。
 そういうときには、「ちょっと待って順番で」と言って待たせた。
 すると、「もういい!」となり、
「何で話聞いてくれないの?!」となる。

 よし、今日こそは、三男優先で話を聞こうではないか?
 他の子を待たせて、じっくり納得するまで話を聞いてやろう。

 ところが、その日三男は、実に機嫌よく帰ってきて、
「山田君と遊ぶから」
と言って、ランドセルを玄関先に放り投げて遊びに行ってしまった。

 夕飯前に帰ってきたので、
一緒におかずでも作りながら話を聞こうと思い、
「ちょっと手伝って〜」
と声をかけると、
「今日宿題が凄く多いから無理」
と、言い、山盛りの宿題をこなし始めた。

 「みんなも宿題しな〜」
と声をかけると、次男と四男は、
「ええ〜」
と言って、テレビのアニメから目を離さない。

 三男をチラッと見ながら、 
「ほらほら、三男坊様は、1年生の頃から宿題は自分で始めてたよ」
と言うと、
「ちょっと待ってよお!」
と次男の機嫌が悪くなってきた。
 「今いいところだから!」
 四男もテレビに顔面を付けるように夢中になって見ている。

 番組が終わるのを待って、もう一度声を掛けたが、ちっとも始めやしない。

 「ほら、○○(三男)をごらんよ!」
と、三男に聞こえよがしにまた言うと、
「何だよ、僕たちだっていつもちゃんとやってるよ!」
と次男も四男もカンカンに怒ってしまった。

 いかんいかん。

 三男を持ち上げようとするばかりに、
他の子を比較対照にして、悪者扱いするのは、いけない。
 ましてや、家族みんなで彼を大事にしようよ、という日なのに、
私ばかりがその子にチヤホヤして、
他の子たちは、その子に「ケッ」と思い始めている、
というのは、本末転倒だ。

 ダメだ、ダメだ。
 これでは、逆効果だし、
こんなの、ただ子供に媚を売っているだけじゃないか?

 ああ、難しいぞ。
 予想以上に難しい。

 「どこまでも話を聞こうぞよ」
と、待ち構えて、
お前だけをどっしりと待っているこんな日に限って、
三男よ、お前は、ちっとも話しかけてこないし! 


 木曜日。

 最近、いつもご機嫌な次男が、
今日に限って機嫌が悪い。
 弟に八つ当たりしたり、ぶったり、蹴ったり。

 「どうしたんだよ、あんた最近優しかったのに」
と、聞くと、無視する。
 「学校で何かあったの?」
と、肩を抱いて問いかけると、
また無視。

 何だよ、どうした?
 今日は、お前デイなんだぞ。

 いつもは、自分から喜んでアカンボを風呂に入れてくれたり、
あやしてくれたりするのに、
今日に限って、家のことを何も手伝おうとしない。

 「ちょっと、ご飯運んでよ!」
 次男以外は、手伝うが、次男は、ムッツリして動かない。
 いつもの逆だ。

 いつも優しくて人一倍手伝ってくれる人が機嫌が悪いと、
何だか物凄く気になってしまい、
「どうしたのよ!」
「何無視してんだよぉ」
「手伝ってってば!」
と、しつこくつついてしまい、
次男を余計に怒らせてしまったようだった。

 三男に事情を聞くと、
次男のタイヤキを、四男が間違って一口かじってしまい、
それから鬼のような形相で四男を小突き回している、ということだった。

 何か、学校で深刻なトラブルに巻き込まれているのかと思って、
真剣に心配していたのに、
「タイヤキかじられたから一日中激怒」
って何だよ!
 ましてや、ちょっと間違っただけの小さい四男を、
親のカタキみたいに恨みまくっているなんて、
何たる心狭き男!

 何かのきっかけで、
また四男を小突き始めた次男に向かって、私は、
「何やってる!」
と、怒鳴りつけ、
手元にあった何かの袋を次男に向かって投げつけてやった。

 すると、次男は、
「おおおおお〜〜〜!!!!!」
と、この世の終わりみたいな声をあげ、
その袋に駆け寄った。
 そこには、次男の残りのタイヤキが入っていたらしい。

 次男は、袋に入ったタイヤキを震えながら取り出し、
少しアンコが飛び出しているのを確認すると、
「おおおおおおおおお・・・・・お母さんのバカ〜〜! ひどい〜!」
と、オンオンオンオン泣いた。

 確かに、食べ物を投げつけた私は悪い。
 叱り方も大人げなかった。
 しかし、何だ、この騒ぎは。
 この、タイヤキにかけるお前の情熱は!

 もう知らん!

 せっかくの次男デイだったが、
大人気ない母親と、食いしん坊の次男との、
くっだらない親子喧嘩で終わった一日。

 ああ、も〜う。


 金曜日。
 長男の吹奏楽コンクール当日だった。
 長男は、朝6時に、弁当と水筒を持って出かけた。
 ずっと、この曲だけに命をかけて、
毎日毎日、朝早くから夜遅くまで練習してきた。

 「頑張れよ!」
と言いたいところだが、もう精一杯頑張っているので、
「リラックスだぞ〜! 状況を楽しめ〜!」
と、出がけに声を掛けてやった。

 まだ夜が明けず、真っ暗な中、
「ひとりで大丈夫だよ」と困惑しつつも、
夫に送られて集合場所まで行った。

 私も演奏を何度も聴いたが、
今年こそ関東大会に行けるのではないか、
と、みんなが言ってくれるほど、いい出来だった。  

 その晩、ご馳走を作って帰りを待っていたが、
帰ってきたのは、夜の8時前だった。
 結果は、銀賞で、関東大会には、出られなかったらしい。

 予選では、ほぼ完璧に演奏できたものの、
今日は、みんな力が入りすぎて、
少しづつミスが出てしまったのだという。

 「まあ、いいんじゃないの? 頑張ったと思うよ」
と、慰めてみたが、
長男自身は、納得がいかないらしい。
 「関東行きたかった。関東も勝ち抜いて、全国も行きたかった」
と、夕飯の途中、何度も箸を止めて言った。

 よほど悔しかったのだろう。
 しかし、私は、彼らの演奏を聴いて、充分満足していた。

 頑張る、ということを知らずにここまで生きてきたのに、
精一杯頑張って、人と力を合わせて、
人を感動させる演奏ができるようになったのだから、
それ自体が、もう、素晴らしいことじゃないか?
 音楽は、勝ち負けじゃないんだよ。

 そう言ってみたが、
うなづきながらも、長男は、遠い目をしていた。

 ああ、長男は、今、
人生を勉強をしているのだなあ、
と、しみじみとその横顔を見た。
 何か、物凄く澄んだ青いものを見るようだった。

 そういえば、練習に忙しくなってからは、
「携帯買って」
と言わなくなった。
 親に対して、要求ばかりぶつけてくるのではなく、
提案してくるようになってきた。

 今日は、長男デイだし、長男もそれを知っていたが、
長男は、自分に対して何かしてくれなどとは、
一言も言わなかった。

 「もうあの曲演奏できないのか」
と、ぽつりと言って、すぐ寝てしまった。


 土曜日。

 長男は、部活に行ってしまったが、
小学生3人とアカンボが騒いでいた。

 「今日は、お母さんデイなんだけど!」
と言って、子供に皿洗いでも要求しようと思ったが、
昨日の「要求しない長男」を見て、
心を入れ替えた。

 それでも、「年末の中掃除」をしている私の横で、
ヤツラは、相変わらず部屋を散らかしまくっているので、
「このスプレーと雑巾で、窓拭き大会ね!」
と宣誓し、うまいこと気分を乗せて、
家じゅうの窓を拭いてもらった。

 何にでも「大会」をつけると、
「わーいわーい」
と言って、いつの間にか喜んで動いてしまうわが子たち。
 この手がいつまで使えるか・・・・・・。
 せいぜい、あと1、2年だろうなあ・・・・・・。

 窓拭き大会の最中、
誰が誰をぶった、とか、
スプレーを間違って誰かの目に吹き付けた、とか、
いくつかのトラブルはあったが、
互いに、
「あ、ダイジョブ?」
とか、
「あ、ごめん」
とかの言葉がでて、喧嘩にならず、
事なきを得た。

 結局、喧嘩になる前の、
0コンマ数秒の間の、
「あ、ゴメン」
とか、
「ダイジョブ?」
とかの声掛けで、
随分トラブルは防げるものだと思った。

 今までなら
「いって〜な〜、このヤロー!」
と、つかみかかっていたのが、
「ダイジョブ?」
の声ひとつで落ち着き、
「大丈夫だよ」
と静かに言えるようになっている。

 今までできなかった、相手への気遣いが、
ほんの少しだけできるようになっているのだろうか?

 いつもの休日は、喧嘩ばかりで終わるのに、
今日は、一度も喧嘩は、しなかった。
 ・・・・・・・とは言えないまでも、
まあまあ少なかった。

 これは、何らかの成果なのか?
 それとも、ただの偶然か?


 日曜日。

 夫は、急な仕事のため、
平日同様、朝から夜中まで家に居なかった。
 結果、子供とも顔を合わせずに一日を終えた。

 せめて、妻の私が、20年ぶりくらいに
敬語かなんか使って、
「あなた、お食事できました」
なんて言ってみようか、と思っていたが、
夫が帰る前に、疲れ果てて居間で寝てしまった。

 ありゃりゃん。


 次の週も続く。
 次の週こそ、「試行」ではなく、「実行」しようではないか。


     (了)

(子だくさん)2006.12.19.あかじそ作