「 携帯問題 2 

 中2の長男が、自分用の携帯電話を持ちたがり、
少しもめた時期があったが、
部活の忙しさも手伝って、ここのところうやむやになっていた。

 ところが、最近、クラスの友達と頻繁に遊ぶようになって、
また「携帯持たせろ」と連日連夜言い始めた。


 友達は、みんな持っているのに、なぜうちは、ダメなのか?
 ↓
 必要なときは、母親のものを貸すからそれを使いなさい。
 ↓
 自分用のものでないと意味が無い。


 この繰り返しで、一向に話が進まない。
 こちらが冷静に議論しようとしても、
反抗期の長男は、すぐに感情的になり、
あちこちを蹴飛ばしながら自分の部屋に飛び込んでしまう。

 では、なぜ自分用でないとダメなのか?
 本人は、以前、
「母親と共有する」ということで1回納得したのに、
なぜ今になってまた「自分用」にこだわるのか?

 それには、理由があった。

 先日、長男がいつもの友達と遊んで帰ってきた後、
不機嫌に言った。

 「僕が携帯無いから友達が怒っていて、いつも喧嘩になるんだよ」

 「え? なんであんたの携帯が無いことで友達が怒るの?」

 「知らないよ!」


 「あ!」

 私に思い当たることがあった。

 長男は、友人が多く、よく電話がかかってくるのだが、
その、どの子も、

「うにゃうにゃうにゃうにゃですが、○○君いますか」

と、自分の名前をはっきり言わず、
苗字の「○○君」とは言うが、名前の方を言ってくれない。

 我が家には、息子が4人いるため、
どの「○○君」かわからず、

「あ、ごめんなさい、よく聞こえなかったんだけど、お名前は?
 誰を呼び出せばいいのかな?」 

と、聞き直すと、みな一様に緊張してもぞもぞ言い直し、
それもまた聞きづらいので、
「えっと、ごめんね、もう一回言ってくれる?」
と、聞き返すことになる。

 ようやく聞き取れて、長男に取り次ぐと、
友達は、もう不機嫌になっているというのだ。


 「原因は、これか・・・・・・」

 今の中学生は、ほとんどが携帯電話を持っているため、
いちいち家の人に電話を取り次いでもらう、なんてことは無いのだ。
 相手の携帯に自分の携帯番号やメールアドレスが登録してあれば、
自分の名前を名乗らなくても、いきなりすぐ相手が出てきて、
ダイレクトに用件を済ませることができる。

 いちいち相手の住む家に電話して、
用も無い友人の家族に、
聞き取りやすく、
自分の名前や相手の名前をきちんと伝え、
取り次いでもらえるようにお願いする、
なんて「しちめんどくさいこと」をしなくてもいいわけだ。

 おそらく、長男の友人は、
この「しちめんどくさいこと」をいちいちやらされる自分の気持ちを考えろ、
と、長男に怒っているのだろう。

 そういえば、最近は、
PTAの役員の連絡もメールでやり取りされることが多いし、
スポーツ少年団や部活の連絡も、
子供の携帯電話のメールアドレスで回されることが多いと聞いた。

 いちいち緊張しながら
誰が出てくるかわからない電話に掛ける必要も無いらしい。

 しかし。
 しかしだ。

 小学生の頃は、みんなそれが普通に出来ていたはずだ。

 「4年2組の○○ですが、大介君いますか?」

と、言えたはずだ。

 それを、大きくなった中学生が、なぜ言えない。
 いくら反抗期で、大人と話すのが億劫だとはいえ、
それくらいのことがなぜできないのだ?

 この、
自分の名をはっきりと名乗り、
相手の名前をはっきりと言い、
相手の身内に対して感じよく接する、という、
「しちめんどくさいこと」こそが、
社会に出て必要な最低限の手続きではないか?

 これをすることを嫌い、
これができない人間に成り下がってしまうくらいなら、
自分用の携帯電話を持たせるなんて、
ますます反対だ。

 確かに友達同士で、
学校では話せないようなことを腹を割って話すのに、
メールでのやり取りは便利かもしれない。
 しかし、そんな話題こそ、
肩を並べ、面と向かって、ひざを突き合わせて、
お互いに話し合うべきではないのか?

 それが、人間関係を築く、ということなのではないのか?

 そういう大人の意見を話すイトマも、
怒りっぽい反抗期くんからは、与えられない。

 そして、今日もまた、
食事も摂らずに子供部屋におこもりする長男。

 長男は、
「うちが貧乏だから」「お母さんがケチだから」
携帯を持たせてくれないと思っているらしく、
「自分で払えばいいんだろ!」
といつも言うが、
そうじゃないんだってば。

 必要な物ならば持たせるけれど、
どう考えても今のところ不必要だし、
友人関係に絶対必要だというのなら、
その内情を怒らずにきちんと親に説明してくるのを待っているんだよ。

 もし、長男が冷静に実情を話し、
親を納得させられるだけの説明ができたら、
考えてもいいと思っているのに。

 ああ、
もんのすごく多動で、常にすばしこく家じゅうのものをかき回しているアカンボと、
もんのすごく泣き虫で、常にひんひんひんひん泣いている四男と、
もんのすごく神経質で、常にイライラキーキーしている三男と、
もんのすごくマイペースで、常にタイヤキを頬張っている次男と、
もんのすごく無口で、常に無言の夫と、
もんのすごく勝手で、常に周りを振り回す父親と、
もんのすごく勝気で、常に仕切りまくっている母親とに囲まれ、
もんのすごくくたくたに疲れている私に、
もんのすごく反抗するのは、やめてくだせえ!

 反抗期だからって、
やっと買った家の壁を毎日一箇所づつ蹴り割るのは、
やめてくだせえ〜〜〜!!!

 これが子育ての試練なのか?
 これが、子育ての醍醐味なのかなあ〜?!
 ひ〜〜〜。


        (了)


(子だくさん)2007.2.13.あかじそ作