「ある日のファミレス」
  テーマ★ファミレス


高校時代、普段あまり付き合いのない女の子と、なぜか二人でファミレスに入る事になった。
彼女は、昨年度同じクラスだったが、ほとんど話した事もなく、
今思うと、なぜ、彼女と二人で入る事になったのか、見当もつかない。

「あかじそさんってさ」

「え?」

「顔」

「え? 顔?」

「平べったいよね。いい意味で」

「ひらべっ・・・・・・」

「いや、違うの違うの。あかじそさんて、腰張ってるじゃない?」

「こし?」

「いや、いい意味でね」

「はあっ?!」

「ちょっと、他の人とは違う人種、っていうかさあ、ルックスがさあ・・・・・・」

「変?」

「変じゃあ、ないよ。でも、ちょっと変わってる」

「じゃあ、変なんじゃないの」

「ううん。変わってるの、いい意味で」

「いい意味で・・・・・・」

「そうそう、いい意味で」

「いい意味か?」

「結構、可愛いよね。あかじそさん」

「ええ~? ちょっとぉ、何が言いたいのよ~」

「別に、特に主張したい事はないけど。感じた事を言ってるだけ」

「ふ~ん」

「変な目立ち方してるよね」

「いい意味で?」

「うん、いい意味で」

――クリームソーダと、昆布茶が運ばれて来た。

彼女は、あつあつの昆布茶の入った湯飲みを両手で包み、フウフウした。
フウフウ、フウフウは、いつまでも続き、その間、会話はまったくなかった。

「あのう・・・・・・昆布茶好き?」

私は、恐る恐る聞いてみた。

「健康にいいものしか、口に入れる気がしないのよ」

「ああ・・・・・・そうなんだぁ」

次の言葉が続かなかった。
何度話しかけても、フウフウ、フウフウばかりしていて、
湯気越しに、迷惑そうに私を睨むだけだった。

「おいしい? 昆布茶って」

「あかじそさん、昆布茶、飲んだ事ないの?」

「ない」

「どういう生活してんの?」

「え? 昆布茶飲まないと、変?」

「変よ」

「いい意味で?」

「あまり良くない意味でよ」

私は、早いところ、ここを去ろうと思い、クリームソーダを一気に飲み干した。

「・・・・・・何考えてるの?」

彼女は、私を冷たく見つめた。

「別に。喉乾いてたのよ」

「体に悪いわよ。冷たいモノ一気飲みして!」

「いいじゃないの。私は今、一気飲みしたかったのよ」

「せっかちなの?」

「いい意味でね」

「熱いのよ」

「は?」

「昆布茶!」

「そうなの?」

「体に良くない程、熱いの!」

「冷ませば?」

「今、冷ましているのよ」

「いい意味で?」

「なにそれ?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


会話も何もない。
ケンカでもない。
変なムードだ。
お互いに、相手に何の用事もないのだ。
そして、何の興味もないのである。

「美味しい? 昆布茶」

「普通」

「普通なんだ」

「そう、普通」

「ふ~ん」

「あかじそさんてさあ!」

「なに?」

「将来、何になるの?」

「わかんない。芸術家かなあ?」

「芸術家? 頭おかしいんじゃないの?」

「・・・・・・言うねえ」

「芸術家って事ないでしょうよ、ゲイジュツって・・・はっはっは」

「おかしかないわよ」

「おかしいって。いやいや、いい意味で」

「どういう意味だよ」

「いやいやいや、素敵な生きかただよね、夢を追う、っていうやつ?」

「馬鹿にしてるな?」

「してないって。ちょっとズレテルなあ、って。いい意味で」

「いい意味で?」

「うん、いい意味で」

「いい意味で」

「そうよ、そうそう」

「どうでもいいけど、もう出ない? 早く帰りたいんだけど」

「いいわよ」

「多分、もう、来ないよね、二人ではね」

「来ないね」

「絶対、来ないでしょう」

「来ないね! いい意味で」

「いい意味でね!」


店を出て、二人は、右と左に別れた。
いやな時間だった。―――いい意味で。


(おわり)