「血」 私は、今まで何度も、自分の血をすべて抜いてしまいたい、と思った。 父の血、母の血、祖父母の血・・・・・・。 彼らと同じ血が流れていると思うと、ぞっとした。 嫌なところだらけだ。 駄目なところだらけだ。 いいところだってあるのだろうが、自分の人生の節目節目で、 いつも私を苦しめるのは、自分の中に流れる、この血の悪癖ばかりだ。 「シザーハンズ」という映画があって、それを観たとき、私はかなり泣いた。 彼は、人一倍純粋で、優しい男だが、手が鋭いハサミでできていた。 愛する人の頬に、そっと手を触れると、 愛する人の頬は、サクッ、と切れて、血を流す。 誰にも触れることができない。 触れると、大切な人を傷つけてしまう。 自分を抱きしめることもできず、 人を抱きしめることもできない。 彼は、人にだまされ、みんなから誤解を受け、犯罪者 として街を追われてしまう。 シザーハンズは、人々の前から消えた。 ひとり、遠いところで、愛する人を想いながら、心静かに暮らすことになる。 私の中の血には、ハサミの部分がある。 私は、両親のハサミで、ズタボロになりながら、大人になった。 両親のハサミに刺されながら、両親の体に抱きついていた。 ある日、自分の手をみたら、自分の手もハサミだった。 私は、シザーハンズの切なさが、痛いほどわかる。 相手を想い、声を掛けると、相手は傷ついて去っていく。 私も、そんな繰り返しで今まで来た。 愛するがゆえに、言い過ぎてしまう。 大切な存在だからこそ、とことん傷つけてしまう。 私は、大切な人に触れたいのを、ずっと我慢して生きている。 彼が弱って倒れている姿を目の当たりにしながら、泣きながら、横目で見ている。 あっ、と、思わず手を添えれば、相手にトドメを刺してしまう。 手がハサミなのだ。 我慢できずに抱き上げる。 すると、やはり彼は、血まみれになってしまった。 みんな、 「あんたは痛いからキライ」 と、私から離れて行くけれど、彼は、傷だらけになってもいいから、 抱きしめて欲しい、と言う。 両親と、夫と、子供達。 血まみれで私のそばにいる。 改善できる性格と、死んでも末代までも、続く性質がある。 硫酸のような血が脈々と続くのか。 血を抜けば、横にいる人と抱き合えるのか。 それとも、刺し違えて傷つきあい、幸せだったと息絶えるのか。 最近、気づいたのだ。 血を抜いたら、死んでしまうのだ、と。 死んでしまったら、それこそ誰とも抱き合えないのだ、と。 流れる血も自分、人と触れ合いたい心も自分、 触れ合えずに流す涙も、触れ合って傷つけて、流す涙も、 みんな自分の中にある。 自分の中のものは、最後まで、 自分で落とし前をつけなければならないのだ。 私は、泣きながら、この血を次の世代に引き継いでいく。 そして、自分の流した血で、注意書きを作ろう。 <こんな風にすれば、人を傷つけにくいです> <こんな風に思えば、人と一緒にいられます> <こんな風に笑えば、人に微笑み返してもらえるかもしれません> 淋しいときには、静かに泣くのだ。 ハサミを振り回して、「抱きしめてよ!」と、人を追いかけ回さないで。 (おわり) |
2001.09.19 作:あかじそ |