「協調性A(その実C)」  テーマ★学芸会



  私の通信簿は、協調性が常にAだった。
 しかし、それは、必死につくろったAであり、
あるがままでいたら、確実にCだったはずだ。
 競争心もなく、運動会で、
「ヨーイ、ドン!」
と、言われても困ってしまった。
 全力で走るのはいいが、でも、人より速く走る意義がわからなかった。
 先日の運動会で、自分の子供達が、必死にビリを走っているのを見て、
胸がつぶれそうだった。 
 あいつらは、みんながスタートして走り出したのを見送ってから走り出している。
私と同じだ。
みんなとは別空間に心があるのだ。
 入場行進も、元気イッパイ軍隊のようだったが、
子供の頃の私は、半べそで行進していた。
 ずっといつまでも、青い空や紅い空を見ていたいタチの子供だったから、
「腕が曲がってる!」
などと、隣のクラスの先生に、腕を強く引っ張られた日には、もう、
理不尽で、悲しくて、涙が出てきた。
 
「社会に出たら、協調性が一番大事なんだ!」
と、先生は言ったが、社会に出てみると、そうでもなかった。
 社会を生きていくのに必要なのは、「強さ」なのだった。
 みんなと揃えることに必死になってしまった学生時代、
私は、強くなる努力を怠ってしまった気がする。
 そして、就職した途端に燃え尽きて、神経科に通うはめになった。


 母は、私を、私立大学の付属幼稚園に入れた。
 入園試験で、知能テストをやったとき、
「仲間ハズレのだるまさんにマルをつけましょう」
と言う先生に、
「仲間ハズレは、いけないんだ!」
と、大きな声で言って困らせ、困った先生が、
「じゃあ、違うだるまは、どれかな?」
と聞いたとき、
「みんなだるまだよ。違うだるまなんてない」
と、これまた大声で言って、教師や保護者全員を苦笑させた。

 はじめから、学校教育からは、はみだしていたのだ。

 その付属幼稚園では、異常なまでに大げさな学芸会を毎年やっていた。
教育大学の付属なので、教師同士が指導力を競う、という側面もあり、
練習期間中は、教師の金切り声があちこちの教室から響いていた。
 
 私のクラスは、楽器演奏で、楽器の割り振りも、子供の希望のものではなく、
ひとりひとり、全部の楽器をやらせて、一番うまく演奏できるものをやらされた。
 
 私は、はじめ、ハーモニカを吹いた。
どうしても、いっぺんにたくさんの音を出してしまい、
曲を吹き終わる前に、先生に
「リカちゃん、もういい」
と、止められた。
 カスタネットは、ウン・タン・ウン・タン、と、
演奏以外に、妙なカワイ子ぶった振り付けをされて、
「カスタはバカみたいだから嫌です」
と、こちらからお断りした。
 トライアングルは、誰よりもいい音が出せたが、出番をじっと待っていて、
いざ、注目の「チーン」がせまってくると、プレッシャーで
「うう! うう! うう! ああっ」
と、楽器の音より大きくうめいてしまうので、駄目だった。
 
 先生も、かなりじりじりしていた。
他の子は、次々に担当楽器が決まり、よそのクラスの練習の音も聞こえてくるのに、
私ひとり、石のように固まって、楽器選びさえ出来ていないのだ。
 先生は、「ドンくさいくせに、わがままなガキ」という目で、
高いところから私を見下ろして、プルプル震えていた。
 しばらくして、偉いおばあさん先生がやってきて、
「この子に指揮者をやらせてみなさい」
と、言った。
 
 私は、「大人っぽい」指揮棒を渡されて、はじめは結構得意げだった。
棒を持った右手を、いっぱいに伸ばして、
「1・2・3・1・2・3」
と、三角形をクウに描いた。

 いい気分だった。
私の1・2・3に、みんな合わせてくれる。
 しかし、私は、それでは終わらなかった。
みんなにじっと見られて、自意識がどんどん過剰になっていき、
そのうち、どこを見ていいのかわからなくなった。
 誰を見ても、自分を食い入るように見つめている。
怖くなって、あっちこっちの壁や、柱を見ながら三角を描いていると、
突然、先生が、「キーッ」となって、私の顔を両手で強く持ち、
ぐいっ、と、正面を向けさせた。
 びっくりして、思わず正三角形が直角三角形になってしまった。
すると今度は、腕をギュッ、と握られて、物凄く強い力で、
「1・2・3・1・2・3でしょう!!」
と、三角に腕をグキグキ回された。
 その際、歯を食いしばって
「1・2・3・1・2・3!」
と、絶叫しているので、もう、本当に、怖いのである。
 
 帰りのバスの時間になって、やっと開放されると思ったら、低い低い声で
「リカちゃんは、今日は残って」
と、先生に言われ、鞭で打たれたようなショックを受けた。
 振り返りながら帰っていく友達に、指揮棒で手を振った。
「指揮棒を振り回すんじゃないっ!!」
と、ひと気の無くなった教室で、
突然人の変わってしまった先生が言った。

「リカちゃんが出来ないと、クラスのみんなも困るのよ」
「先生は、リカちゃんがきちんとできないと、物凄く悲しいわ」

と、徐々に発言内容も、血管の浮き上がるようなものになっていき、
広い教室で、ふたりきり、歯を食いしばった「1・2・3・1・2・3」が、
いつまでも続いた。
 私は、もう、幽体離脱しそうな、意識混濁状態になり、
最初は描けていた正三角形も、次第に、四角形や六角形になってしまった。

「ににゆっちんでぃすくっ!」
 先生は叫んだ。
歯を食いしばって言っているので聞き取りにくいが、
「何やってんですか!」
と言っているらしい。
 私も、それにつられて、
「ににいっちんでぃすく?(何言ってんですか?)」
と歯を食いしばって答えると、先生は、クルッ、と私に背を向けて、
「キーッ! キーッ! キーッ!」
と、叫び、ペンギンポーズで硬直してケイレンした。

 かくして、学芸会で、私のクラスは、滞りなく発表を終えた。
一番前の席で、友達のお母さんに
「すごいじゃないの、リカちゃん」
と言われ、
「オ〜ッホホホホッ」
と、のけぞって笑っている母は、この時、
自分の娘に生涯忘れられぬ「思い出」が出来ていることを、
まったく知る由もないのだった。


                (おわり)
2001.10.02 作:あかじそ