「ねばり強い先生」 |
小5の三男が、 学校から帰ってくるなり言った。 「まいったよ、あの先生には」 「どうした? 何かあったの?」 と、三男の顔色を見ながら聞くと、 心底困惑した表情で言う。 「ぼく、ほんとに、もう、あの【粘り強い先生】にがて!」 「【ねばり強い先生】?」 何だか面白い言い方だったので、思わず聞き返すと、 「ほんとにねばり強いんだよ、あの先生は!」 と、頭をかきむしった。 聞けば、 三男はじめ、クラスの悪ガキどもが、 「あの【まどババア】こえ〜よな〜」 「【まどババア】やばすぎ〜!」 と、廊下で大騒ぎしていると、 よそのクラスの女の先生が飛んできて、 「それは誰かの悪口ですか?」 「イジメですか?!」 と、厳しい口調で問いただし始め、 「いいえ、これは、あのその・・・・・・」 と言いよどむ三男たちに向かって、 昼休みを通して、ず〜〜〜っと、 「悪口ですか? イジメですか? 許しませんよ!」 と、延々お説教をしたのだという。 仕方なく、【まどババア】の正体を明かすと、 「そんなこと面白可笑しく話すんじゃありません!」 「病気のおばあさんをからかうんじゃありません!」 と、更に延々と説教され、 挙げ句の果てに 「そのおばあさんの話は一切禁止します!」 と、更に更に、延々と延々と、説教され続けたという。 「いや、しかし、【まどババア】の話を禁止にするのは、 逆に差別なんじゃないかあ?」 私が突っ込むと、三男も、 「ぼくもそう思う」 と言った。 「まるで【まどババア】が、いちゃいけない人間みたいな言い方で、 ぼく、【まどババア】が、かわいそうだと思った」 本当にそうだ。 私も、タブー視は違うと思う。 それにしても、三男の、 【ねばり強い先生】という言い回しが、 妙に引っかかった。 「ねえねえ、【ねばり強い先生】って誰?」 と聞くと、 「名前は知らない」 と言う。 ただ、いつもすぐ子供たちをひっつかまえては、 いつまでもいつまでも説教をやめない、おばちゃん先生なのだという。 「いや、それにしても、【ねばり強い先生】って言い方が面白いね」 と言うと、 「だって、異常にねばり強いんだもん!!!」 と、三男は叫ぶ。 「要は、【しつこい】んだ?」 と聞くと、 「あ、お母さん、そういう悪い言葉、使っちゃいけないんだよ」 と言う。 「【うざい】とか【消えろ】とか、悪い言葉は、クラスで禁止なんだよ。 だから、ぼくたち、【しつこい先生】と思ってるんだけど、 【しつこい】も悪い言葉かなあ、と思って、【ねばり強い先生】って呼んでるの」 「おお〜〜〜!」 私は、感心した。 そういえば、三男のクラスの黒板の上には、 「ねばり強い子」 と、学級目標が掲げてある。 【ねばり強い】か。 何て小学生らしいことばなんだろう。 小学生しか使わないと言っていいくらい、小学生らしいことばじゃないか。 「いいね、【ねばり強い】って言い方」 私が言うと、 「お母さんも、ぼくのこと、【しつこい】って言わないでよ」 と三男は言う。 「そうだね。ねばり強いのは、いいことだもんね。 【ねばり強さ】が強すぎるのが【しつこい】だもんね。 これからは、イクミの性格を【ねばり強い】って言うよ」 「そうだよ。【しつこい】とか【シューネン深い】とか、言われたくないよ」 「そうだね。そういえば、イクミはいつも、 悪い言葉を使わないように気をつけてるね。 【こんなことを言ったら悪いけど】とか、 【なんて言ったらいいかわからないけど】とか言って、 言い方をいつも考えてるよね。 あれって、たいしたもんだよ。お母さんも見習わなくちゃねえ」 と言うと、あまりほめられたことの無い三男は、 急に慌てて子供部屋に駆け込んだ。 「あ、そうそう、すぐ宿題やりなさいよ!」 声を掛けたが、返事が無い。 「しゅ、く、だ、い!」 返事無し。 「イクミ、宿題・・・・・・」 「お母さん! ちょっとねばり強すぎるよ!」 部屋の奥から三男が言った。 「あ、はい」 思わず引き下がる言葉の力。 小学生用語、サイコー!!! (了) |
(こんなヤツがいた!)2007.12.18.あかじそ作 |