「 忙しくも生きる 」


 今年に入ってから、忙しすぎる。
 忙しすぎて、確実に寿命が縮んだと思う。


【長男関係】

 塾に行っていない長男につきっきりで受験勉強。
 長男が、ひどい胃炎・腹痛を起こす。
 点滴のため、自分より大きい長男を抱えて何度も通院。
 受験当日、高熱を出す長男。
 保健室で受験できるよう、中学から高校へ頼んでもらう。
 役員のため、週に何度も校内パトロール。
 卒業式を飾る数百鉢の花の手配。花屋を数往復。
 公立不合格に備えて、私立校用の銀行(思いっきり遠方)の口座開設。
 公立校合格発表を見に行く。合格。
 入学手続きや制服採寸で何度か高校に通う。
 長男、卒業式3日前から高熱。
 通院。待ち時間3時間。
 卒業式前日。紅白大福・卒業記念品・花束を、クラスごとに分ける。
 夜まで植木鉢数百鉢の飾りつけ。
 卒業式。早朝から式の後片付けまで一日仕事。
 長男、また胃炎と高熱。
 通院連続一週間。

 以上を、2歳児を小脇に抱えて行う。


 【次男関係】

 部活で、技術がみんなに追いつかないらしく、
日々苦悩しているので、毎日笑わせたりハッパかけたりして励ます。
 疲れて部活のノートや毎日の生活記録を書けずに寝てしまう次男。
 毎日書かないと先生に絞られるらしいので、
あの手この手で起こすが、起きない。
 学年末テストも、毎晩寝てしまって全然勉強できず。
 何度起こしてもダメ。
 無理やり起こしても、そういうときは、決まって下痢をする。
 寝るか下痢。
 そして、学校に行けば、先生に叱られ、級友にいじられ、
部活の先輩に怒られる。
 そして、疲れ果てて帰って来ては、ひたすら眠るか下痢。
 とろい次男の心労に、一生懸命フォローを入れる。
 頑張れ次男よ。
 今が子供から少年への臨月だ!


 【三男関係】

 いつも落ち着きなくちょろちょろしているので、
学級崩壊の中心人物のひとりとして、学校から目を付けられる。
 信じていた担任は、三男たちに自分の罪を全部なすりつけて、
自己弁護に終始している。
 気づくと、いじめの加害者になっており、親子でびっくりして謝罪三昧。
 罪の押し付け合い、クレームの付け合いで、
誰も反省せず、事態は変わらず、という状況の中、
三男と三男の友人は、必要以上に反省し、落ち込むことしきり。
 三男に、説教したり、慰めたり、諭したり、
大人げゼロの大人たちに腹を立てたり、落ち込んだり、
人間不信と、「それでも信じたい気持ち」との間で私も悩む。
 三男よ。
 人生、こういうシーズンもあるものさ。
 幸い、お前は、まだ子供だ。
 カアチャンがいつでもそばにいて、
お前と一緒に悩んでやる。泣いてやる。謝ってやる。
 だから、たくさん失敗して、ちゃんと大人になるんだ。

 家でパニックになり、号泣しながら暴れる三男に、 
私も号泣しながらそう言ったら、
「いい子になるから」と言ってヤツも泣いた。


 【四男関係】

 胃腸の風邪でしょっちゅう学校を休む。
 長男同様、腸が弱い。
 おまけに、予防接種をしたにもかかわらず、
インフルエンザにかかり、タミフル飲んで異常行動。大暴れ。
 そうかと思えば、転んで思いきり頭を打って、救急車で運ばれる。
 頭部強打で、記憶障害を起こす。
 要安静で10日近く欠席し、大事な九九も、うろ覚え。
 その後、怖い夢をよく見るようになり、たびたび
「○○が死んだ〜! 僕は何も悪いことしてないのに〜!」
と、錯乱するようになった。
 近々、脳の検査をしなければ、と思う。
 とんでもないことにならなきゃいいが。
 とても心配。


 【長女関係】

 高熱、点滴、高熱、点滴というのが、
しばらく続いた。
 食が細く、やせているので、すぐ病気にかかる。
 しかし、2歳でも、女。
 泣いている兄を見れば頭をなで、
痛がっている兄には、冷凍庫のアイスノンを渡し、
居眠りしている兄には、自分のタオルケットを掛けてあげる。
 それぞれの厳しい社会で歯を食いしばり頑張る兄たちを、
ほほ笑ませ、心を和ませている。
 ありがとう、長女よ。
 チイママのおかげで、ママは、だいぶ楽だよ。


 【5人揃って】

 5人揃って、胃腸のウイルスにやられ、
同時多発的に、
吐く! 吐く! 吐く! 吐く! 吐く!
 そこでも、ここでも、あそこでも、吐いている!
 そして、下痢!
 下痢下痢下痢下痢、猛烈に下痢!
 トイレに駆け込む青い顔! 緑の顔!

 衰弱する5人が、狭い6畳間を、所狭しとのたうちまわっている。

 何人かは、38度以上の高熱を伴い、
また何人かは、動くたびに吐く。
 
 ここは、戦場か?!
 野戦病院か?!

 全員を医者に運び、診てもらうが、
長男は、完全にこじらせており、
時間がかかるとのこと。
 高校入学直前にして、この始末。

 「お母さん、水・・・・・・・」
 「お母さん、吐く・・・・・・」
 「お母さん、お腹痛いよお」
 「お母さん、助けて」
 「お母さん、頭痛いよお」
 「お母さん、気持ち悪い」
 「お母さん、お腹すいた」
 「お母さん、熱いよお」
 「お母さん、寒い」
 「お母さん、助けてよお」

 みんな苦しくて泣いている。
 その間、2歳の長女は、怖いほどぐったり、
あるいは、号泣、あるいは、嘔吐、あるいは、大下痢。

 「お母さ〜ん」
 「お母さ〜ん」
 「お母さん、助けて〜〜〜うわあ〜ん」

 3日間、これが続いた。
 気づくと、私もひどい頭痛がしており、
心臓がずきんずきんしている。

 布団で寝ていた四男が、
また錯乱しながら起きてきて、
「お母さんが死んだ〜! お母さんが死んだ〜!」
と、半狂乱で転げまわっている。

 三男が、それを見て、ぼそっとつぶやいた。

 「僕も昨日、お母さんが死ぬ夢見た」

  
 おいおいおいおいおいおいおいおい!


 やめてくれよ〜!
 まだ死なせないでくれよお!

 お母さんが死んだら、
 誰が三度三度大量のご飯作るの?
 誰が学校のしたく手伝うの?
 誰が洗濯するの? 
 誰があんたたちの悩み聞くの?
 誰が「おかえり」って言うの?
 誰が病院に連れてって、ひとりひとりの体質の説明するの?
 誰がチビにおっぱいをやるの? 

 お金を出せば人を雇えるかもしれないけれど、
そうなると年間何百万もかかると思うぞ。
 現実的に考えると、代わりはいないぞ!

 私の代わりは、いない!
 私の日々の仕事は、実は、凄く重要!
 私は、家族にとって「レアカード」であり、「キラカード」なのだ!!

 だから、私は、まだ死ねない!
 どんなに忙しくても、
まだまだ死ぬわけには、いかない!

 「怖いよお〜! お母さん、死ぬなあ〜! うわあ〜〜〜!」
と、絶叫しながら抱きついてくる四男に向かって、
「お母さん、生きる! みんなに『死ね』って言われても、生き〜る!」
と見得を切った。

 生きる!
 生きる!
 生きる!

 何があっても、お母さんは、生きるぞ!!!!!
 だから、お前たちも、生きろ!!!!!


   (了)




(子だくさん)2008.3.18.あかじそ作