「 鈴 」 |
携帯に鈴 自転車のカギに鈴 家の鍵にも車のキーにも鈴がついている 少しでも動けばチリンチリンと すぐに鳴る 私が動くと 少しでも動くと すぐに鳴る いつもいつもいつもいつも 静かにしなければならない場所では 手のひらにぎゅっと握り 音がしないように気をつけているのだが 油断をすれば またすぐに鳴り出す うるさいと思うときもある しかし鈴を取ると それらのものから 魂が抜けてしまいそうな気がして またすぐにつけてしまう 大切で 失くしたくないから 落としたときにすぐわかるように 鈴をつけた しかし 時折その鈴の音の洪水に 神経を逆撫でされてしまうことがある 私の大事なもの 失くしたくないものには すべて 例外なく 鈴がついていて いつもどんなときにも あちらこちら そちらこちらで ひっきりなしに鳴っている だから大切なもののありかはいつもわかるし 決して失くしはしないけれど ときどき耳をふさぎたくなるのだ いっそ音が鳴らないように 手のひらで握りつぶしたくなるのだ 自我についた鈴を 「自分が自分が」と鳴る うるさい鈴 自分の鈴の音のうるささに つくづくうんざりさせられているというのに 私は私の大事なものすべてに 鈴をつけているものだから 父親の鈴 母親の鈴 子供5人分の鈴 夫の鈴 夫の両親の鈴 友人知人すべての鈴 それらがいつも あちらこちらで鳴るわけだ 「自分が自分が」 「自分が自分が」 と。 もう何が何だか 頭の中ががしゃがしゃになってしまう 心が動くたびに いちいち鳴る鈴の音に もういい加減我慢ならない いっそ鈴などすべて 外してしまいたい 誰が何を思おうと なんにも感じない なんにも気づかない そういう人間になりたいとさえ思う 自分が何を感じようと なんにも気にしない そういう楽な生き方をしたいと思う そうなっても誰も気づかないし 誰にも迷惑はかけない むしろ私は「フランクないい人」となるだろう 鈴 ああ、鈴 うるさい鈴 とても大切で 失くしたくないものだけにつけている鈴 今日も外せずに まだ鳴り続けている (了) |
(話の駄菓子屋)2008.7.1.あかじそ作 |