「 ん〜〜〜 」

 夏休みに入った。
 昨年は、長男の高校受験、
長男・次男の吹奏楽コンクール本番を控えていたので、
ほぼ家にいたのは、
小学生の三男・四男と乳児の長女の「チビ3人」だけだった。

 だから、私の運転する軽自動車で
郊外の大型スーパーや動物園などにチョッチョッと行けば、
万々歳という状態だった。

 ところが、今年は、
長男が滑り込みで入った高校で、生まれて初めて「成績不振」となり、
コンクール間近の次男は、
技術的に部員たちの足を引っ張っているという事態に陥っていて、
少し気が重い。

 高校は、同じくらいの学力の人たちが集まっているのだから、
勉強をしている者はいい成績を取り、怠けている者は、極端に順位を落とす。
 入学当初は、上位と下位の差はあまり無いが、
同程度の実力を、努力で生かすものと、怠けて落ちる者の差が、
日に日に開いていく。

 長男は、「やればできる」のだが、「でもやらない」タイプだ。
 定期テスト前に少しテキストをめくる程度で「十分勉強した」と言い、
結局、ひどい成績を取り、
学校主催の勉強合宿に「ほぼ強制参加」ということになった。

 一方、次男は、相変わらずのマイペースで学校生活を送っていたが、
今年のクラスは、担任やクラスメイトの理解が得られず、
クラスで浮きまくるわ、部活では技術が追いつかないわ、
数学はまるっきり落ちこぼれるわ、で、
散々な毎日を送っていた。

 そこで、私が二人に勉強を教えようとしたのだが、
二人同時に反抗期に突入してしまったものだから、
まったくうまくいかない。

 母親の私が、子供たちを熱く想えば想うほど、
子供たちは、ふてくされたり壁を蹴飛ばしたりして、
ちょっとしたしつけをするにも、いちいち喧嘩になる。

 連日の怒鳴り合いにも疲れてしまったので、
なるべく静かに諭しているのだが、
そうすると、ますます図に乗って、勉強しないばかりか、
ゲームセンターに行って遊んでばかりだ。 

 そこで、とある補習塾の夏期講習に無理矢理申し込んでしまった。
 4日間のお試しコースで、値段も激安だったので、
二人まとめて連れて行ったが、
乗り気ゼロだった二人が、初めて塾が意外にも面白かったらしく、
「夏だけでなく、ずっと通いたい」
などと言い出した。

 やる気になってくれたのは嬉しい限りだが、
子供が問題集を各自で解いて、
わからないところをその都度教える、という方法は、
私や夫でもできるのに、
わざわざ塾に月5万円払って丸投げするのは、いかがなものか?

 反抗期で親の言うことを聞かないから仕方ないといえば仕方ないのだが、
それにしても、金を払って自分でできることを人に頼むということに、
どうも合点がいかない。

 月5万で子供に勉強をさせるのか?
 食費にも事欠いているというのに?
 これ以上親子でもめないように?

 「ん〜〜〜〜〜」。

 小6の三男と小3の四男は、
親が何も言わなくても、自分から宿題を始め、
一日2時間以上、黙々と勉強しているというのに、
目をかけ、手をかけ、金をかけた上二人が、どうもいけない。

 「ん〜〜〜〜〜」。

 どうしたものかと腕組みしていると、
夫が、夏休みの頭の3日間、珍しく仕事が休めるという。
 いい機会だから家族でどこか出かけようじゃないか、
とも言う。

 もう、中高生は、親と一緒にあまりでかけてくれないので、
お金では買えない「家族の思い出」を作ろうと、
計画を立ててみた。

 最初の一日は、
次男の部活があったので、「宿題デイ」となった。
 珍しくエアコンを入れてやったら、みんなサクサク勉強し、
なかなか充実した一日であった。

 次の日は、(今日のことだ)全員で映画を見に行った。
 上映時間ギリギリに入ったため、あせりにあせったのか、
夫が、売店で買った6人分のドリンクを載せたトレーを、
暗い館内の階段でぶちまけてしまった。

 (ああ、やっぱりやったか! 大事なところで必ず台無しにしやがる!)

 私は一気に血圧が上がり、夫に暴言を吐きそうになったが、
暗い中、必死に濡れた床を拭く夫の姿を見て、
責めるのをやめた。

 これは、短気な私にとって、かなりの成長だと思う。
 我ながら、大人になってきたと思った。

 その後、夫が、事情を映画館のお姉さんに話したところ、
同じ飲み物をそっくりそのまま、トレーに乗せて持ってきてくれた。 
 暗い館内を、席まで運んできたお姉さんは、
なんと、夫の目の前でつまづき、
なんと、同じようにまた、
すべて飲み物を床にぶちまけてしまったのである。 

 ああ、そうか。
 何も、世の中で夫だけが特別ドジで間抜けという訳ではないのか。
 真っ暗な空間に、階段。
 すべるプラスチックのトレーに、
重心の高い紙コップに、満タンのジュース6杯。

 たいていの人は、ぶちまけてしまうような条件が揃っている。

 確かに夫は、世の中全体から見たら、
ドジで気が利かなくて要領の悪い部類の人間に入ると思う。
 しかし、そのことを何かにつけてグチグチ言っていじめて、
夫を、子供たちを、自分自身をも、
ジメジメした暗い気持ちにするのは、馬鹿げている。
 自分で自分の家族をおとしめているだけだ。

 もういっそ、笑い飛ばして「馬っ鹿だねえ〜!」と楽しんでしまう方がいい。
 今までみたいにいちいち夫や子供のダメなところばかり見つけて、
ガミガミ言うのは、やめてしまおうかな、と思う。

 私のような、根がクソまじめで、
何もかもきちんとしなくては気がすまないような人間は、
周りの人間にとっては、煙たいだけかもしれない。

 良かれと思って熱くなっても、
結局、うまくいくものも、いかなくしてしまうのではないか。

 こうなったら、肩の力を抜く意味でも、
「毎日が日曜日」という気持ちで生きてみようか。

 いちいち子供の将来について、細かく心配するのをやめて、
「なるようにしかならない」と思って、
他人事のように、遠くから「チラ見」だけしていようか。

 そうでないと、心配しすぎてこちらの身が持たない。
 子供5人の人生設計と、一人のドジ夫の世話とに追いまくられて、
一生イライラしながら生きなくてはならなくなってしまう。


 夫の休暇3日目の明日は、
全員で水族館に行くことに決めた。
 さて、どうなることやら。

 一回も「イラッ」とせずに過ごせるのか?


 そういえば今日は、
映画の後の昼食を、どこで採るかでもめた。

 「かっぱ寿司でなくちゃイヤだ」と主張する次男と、
「前に寿司であたったから、焼肉屋がいい」と言ってきかない長男。
 「どこでもいいよ」と言い、遠慮しすぎて希望を決して言わない三男四男。
 「食べるものはいつでもポテト!」と固く決めている長女。

 炎天下で、チャンリンコにまたがった7人家族が、
いつまでもグジグジもめていて、なかなか決まらなかった。

 結局、決して譲らない一派と、優柔不断な一派との集まりは、
ひとつも妥協点を見つけられずにいたので、
私もいい加減イライラし、
「もう、家に帰ろう!」
と言うと、夫が、
「じゃあ、このファミレスでいいな?!」
と、すぐ横の店に決めた。

 みんな、(え〜〜〜っ)というような表情になったが、
これから家でおにぎりか何かをついばむよりよっぽどましかと思い直したらしく、
しぶしぶ入店していった。

 ところが、オーダーの際に、またもめている。

 あれこれたくさん頼む長男と、
「ちょっと遠慮しろよ馬鹿」と小声で言う三男、
「かっぱ寿司」じゃないからムッとしている次男、
「ポテトはまだか」と怒る長女。
 (みんなケンカしないで・・・・・・)と、おどおどしている四男。
 メニューを子供たちに持っていかれて、ひとり、選べずにもじもじしている夫。

 その光景を見渡して、「あ〜あ」とため息しか出ない私。

 料理が来ても、みんな仏頂面で、ちっとも楽しそうではない。

 「ん〜〜〜〜〜」。
 だめだこりゃ。


 明日こそは、この現状を打破しようじゃないか。
 少なくとも、こういう現状に際して、私自身が、
「テメエラ、またこんなんかよ!!」
とブチ切れるのは控えよう。

 放っておけば、すぐに激しい揉め事にまみれてしまう、
ほぼ男所帯(2歳の「ドS女王」含む)の我が家を、
明るい家庭に演出できるのは、私だけではないか?

 数々の陰気な事件を、
「あほらしく楽しげなエピソード」として仕上げることができるのは、
このメンバーの中では、私しかいないでしょうにぃ!


 さあ、明日がやってくる。
 大勢で電車に乗って、観光地に出かける明日が。



 ん・・・・・・・・

 でもその前に、ちょっと気になることが・・・・・・

 長男は、この3日間、部活があったが、
「家族旅行」と言って休んでいるという。
 部活への意欲がゼロで、
その代わりに、バイトをしたくてウズウズしている。

 私の望む優先順位「勉強」→「部活」→「バイト」の、
真逆を行こうとしている。

 ん〜〜〜〜〜〜〜。
 まあいっか。
 本人の人生、本人の選択だ。
 社会性を学べるように、バイトを許可するか。
 いつも親のすねを平気でかじっているから、
お金を稼ぐことがいかに大変かを知ってもらういい機会かもしれない。


 親が思うようには、全然行かない。
 それが子供なのかもしれない。

 いつも私が買ってくる特売のシャンプーの横に、
青いスーパークールのシーブリーズが並ぶ風呂場。

 私の知らない若者好みの雑貨が並べられている子供部屋。
 愛する息子たちの眼中から消えてゆく母の存在・・・・・・

 ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 ああ、「毎日、日曜日」♪
 yo! yo!
 「日曜日」!
 yo!
 「にち yo! び」! yo!

 yo!
 yo!
 yo!
 yo!

 ひとごとのyo!に

 想い出のyo!に

 あすは、水族館に

 ん〜GO! 
 ん〜GO!

 私にとっては、

「肩のチカラ〜を抜く」ということ〜が

 修行! should go! 

 YO〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!


  ああ、夏休み始まったばかりで、あたしゃもう壊れてきたyo!

  POOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!

   (了)

(子だくさん)2008.7.21.あかじそ作