「 初秋の気配 」 |
毎年、 「子供たちが毎日家にずっと居て、食事のしたくが大変だ、うるさくて仕方ない」 と、こぼしていた夏休みだったが、 今年は、まるで違った。 高1の長男は、午前中の部活の後、 「友達と遊ぶから」 と言い捨て、 昼食も摂らずにさっさと家を出て行く。 小さい頃から内気な子供だったが、 それでもいつも仲のいい友達に囲まれて、家でじっとしていることはなかった。 中2の次男は、夏の吹奏楽コンクールの練習で忙しく、 弁当持ちで、早朝から夜まで学校の音楽室で頑張っている。 県大会に進出し、いいところまで行ったが、 惜しくも敗れ、お盆に初めて休みがもらえた。 休みは休みで、親友「テラ」と「シラ」と共に、 電車に乗ってどこまでも出かけて行くので、 まず、一日として家にいたためしがない。 小6の三男と小3の四男の通う小学校では、 今年から夏休み前半は、土日以外、毎日プール学習があり、 それこそお盆前は、連日プールに通っていた。 学年ごとに時間帯が違うので、 午前午後に渡ってどちらかが出かけていて、 また、1時間半ほどで帰ってくるので、 買い物やら外食やらに出かける時間も無い。 したがって、普段、 「オンモ行こうよ」「買い物行こうよ」 と、2歳の長女が言い出せば、 「そうだね、行こうか」 と、気楽に行動していた私と長女も、 夏休み中は、自然と「留守を守る」という感じで毎日を過ごさざるを得なかった。 「どっか行く〜」 という長女に、 「兄ちゃん帰ってきたら一緒に行こうね〜」 と言い聞かせて待っていても、 小学生のふたりは、プールから帰宅した途端に、 友達と遊ぶと言って、あっという間に、それぞれ違うところに出掛けてしまう。 そんなわけで、この夏休み中、本当に家には人が少なかった。 その分みんな、長時間、猛暑の出先で活動しているので、 各自、大きな水筒を持参している。 その大きな水筒の中に入れる氷なのだが、 水筒が三つも四つもあると、かなり大量に必要で、 我が家の小さな製氷庫ではまったく追いつかないのだった。 そこで仕方なく、手持ちの密閉容器に水を入れて凍らせてみたが、 水は凍って固体になるとき、体積が増えるので、 きっちりフタをした容器は、ことごとく割れてしまった。 ペットボトルに水を入れて凍らせると、 素材に伸縮性があるのか、割れずにうまく凍るが、 いかんせん、水筒の口にギリギリ入らないサイズであった。 冷凍庫がチューチューアイスや保冷剤やアイスノンで満タンだから、 一般的な平べったい製氷器を入れるスペースがない。 それらのスキマに立てて滑り込ませるような容器は無いものか? ペットボトルよりも細く、伸縮性があり、 水が漏れず、水の体積増加に伴う空気圧を上手い具合に逃がせる容器は。 困り果てて、いろいろ試行錯誤してみたが、 偶然100円ショップで見つけた、例のあれがドンピシャであった。 その「例のあれ」とは、 ピュッと押せばピュッと出る、プラスチックのケチャップ入れだった。 本来は、先のとがったフタの先端を、好みの部分で切り取り、 出る量を調整するのだが、 製氷用に使うためには、先端を切らない。 水が漏れないようにするためだ。 そこで、この容器のすぐれたところなのだが、 用途の都合上、ケチャップやソースが出るときに、 同時、あるいは直後にゆっくりと空気がスキマから入るように出来ているのだった。 その結果、 水を9分目まで入れ、きっちりフタをし、 冷凍庫のスキマにただ突っ込むことで、 しっかり凍るだけでなく、 柔らかい素材のため、割れることも水が漏れることも無く、 上手い具合に空気も抜けて、 美しく、先端のとがった、水筒の口径よりちょっとだけ小さい、 ちょうどいいサイズの氷ができるのだった。 難を言えば、その氷を容器から取り出せないということなのだが、 もう、これは、取り出さなくてもいい。 容器のとがったフタを開け、 容器ごと水筒に一本、ポトンと入れて、 その上から麦茶を入れるだけで、 その日一日冷たい麦茶をキープできるのだ。 帰宅した後、水筒の栓を開けると、 見事に中身の氷も溶けきり、飲まれ、 空っぽの容器がひとつ、カランと入っている。 それを取り出し、よく洗い、よく乾かし、 また水を入れて、冷凍庫のスキマにギュウギュウ突っ込むだけで、 翌日の氷がちゃんとできている。 今までのように、冷たい製氷器を流水で流しながら、 氷を外しやすくし、両手でぎゅうぎゅうひねったりしなくてもいい。 そのぎゅうぎゅうを3人分も4人分もやらなくても、いい。 「おお、この夏一番の達成感!」 と、たったひとりで、ひとしきり盛り上がったのだが、 子供たち4人に弁当やら水筒やらを持たせて送り出し、 ホッと一息つくと、 そこはもう、がらんと静まった、ひと気の無い家になっていた。 「お母さん、お母さん、昼ごはん何?」 「今、朝ごはん食べたばかりで何よ!」 「お母さん、お母さん、どこか連れてって連れてって」 「ええ〜?! 毎日毎日無理だって〜」 「お母さん、お母さん、お菓子食べたいお菓子」 「後で買い物行くから待っててよぉ」 「お母さん、お母さん」 「お母さん、お母さん」 「お母さん、お母さん」 「お母さん、お母さん」 「お母さん、お母さん」 「あああああ〜〜〜、うるさいうるさい、うるさ〜〜〜い!!!」 そんなやり取りは、もう、ない。 ぽそぽそと、そうめんか何かを4人分ほど茹で、 時間差でそれぞれバラバラに、ぽそぽそと食べて終わり。 お菓子が食べたけりゃ、みんな自分で買いに行くし、 中高生は、昼ごはんも友達と外に食べに行ってしまう。 ああ、あんなに望んでいた「静かな時間」だというのに、 こんなに急に静かになってしまうと、 味気なさのあまり、ぼんやりとしてしまう。 あと半年もすれば、三男も中学生。 前から卓球部に入る言っているから、 長男、次男、三男が、それぞれ違う団体で活動し、 それぞれ違う予定がびっちり入るだろうから、 ますます全員が揃うことも少なくなるだろう。 淋しい・・・・・・ 無事に育ってくれていることを喜びながらも、 子育てとは、こうもあっけなく終わってしまうのだろうか、と、 アッケにとられるばかりだ。 5人もいて、この淋しさなのだから、 ひとりふたりだったら、 どれだけ「育児の時期」というものが瞬間的なものか。 永遠に感じていたのは、 そのさなかにいたからであって、 過ぎてしまえば、本当に子育ての時期は短い。 もっと大切に育てればよかった、とか、 今からでも、あれもこれもやってやりたい、とか、 子の後ろ姿にすがるような気持ちでそう思うものの、 「ノーサンキュー」のサインが出される機会も増えてきた。 ああ、みな無事育っているのだ。 よかったじゃないか。 まだまだ夏だというのに、 ああ、初秋の気配が我が心に漂う。 はあ、とため息をつく私の横顔に、 「ちゆ〜〜〜」 と言いながら、よだれたっぷりのキスをしてくる2歳の長女。 ああ、まだまだこれから、春も夏も来るではないか。 孫みたいな末っ子を片手で抱き上げ、 しじゅうの思秋期をビンビンに生き抜く覚悟をきめよう。 エンドレスサマーを決め込もうぜ! (了) |
(子だくさん)2008.8.19.あかじそ作 |