今まで、質素な暮らしを心がけ、
外食も旅行もほとんどせず、
子供には、塾も習い事もスポーツクラブにも行かせていなかったが、
いよいよ、どうにもこうにも回らなくなってきた。
 
 テスト前でさえ一切勉強をしない次男を
何とか高校に進学させるために、
塾に通わせ始めたこと・・・・・・月3万円也。
 
 昼食だけでは全然足りず、
大きなおにぎりを持たせてもまだまだ足りずに、
毎日パンやお菓子を買い食いしてしまう長男。
 小遣い5000円では、10日ともたず、
なんだかんだで2〜3日おきに500円、1000円と追加。
 床屋に1500円、
友達の家に呼ばれて交通費往復500円、
電車の定期券代駐輪場代が3ヶ月で16000円、
 ケイタイ代金も、何だかんだで月8000円弱。
 最近急激に背が伸びて、
着るものが無くなったので、毎月のように洋服を買い足すのだが、
お母ちゃんが商店街で買ってくるような特売の服は、もう着てくれず、
自分で選んでくるから「ごめん3000円ちょうだい」となる。
 
 そんなわけで、長男の雑費で、月平均3万弱。
 
 三男四男は、
そういう長男次男の出費に頭を抱えている私の姿を見ているためか、
「買って」も「欲しい」も言わず、いつも我慢しているのがわかる。
 
 末っ子の長女が食物アレルギーで、
しょっちゅうアナフィラキシーショックを起こし、呼吸困難になっているので、
まだ保育園にも預けられないし、
かと言って、あの猛烈に気の荒い長女を親に預けて働きに出るのは、
親の心身の健康が損なわれることが明白なので、
それは避けたい。
 
 夫は土日も祝日も仕事だし、
夫に長女を見てもらっている間に仕事に出るためには、
早朝の時間帯しか無い。
 
 新聞配達か。
 はたまた、コンビニの早朝時間帯パートか。
 
 あるいは、宅配業者の下請けで、自転車でメール便を配達するか。
 (一通18円〜25円を一日200通とか300通とか) 
 
 または、出ました、昭和の母ちゃん御用達、「内職」か。
 
 こんなにアレルギー症状が極端でなければ、
幼稚園に3年保育で入れて働こうと思っていたが、
当分良くなりそうにないので、2年保育にするとして、
そうなると、あと1年半は、人に預けられないわけで、
その間は、貯金を切り崩すしかないのか?
 
 もう、切り崩す貯金も無い現在、
何らかの手を打たねば、一家総倒れだ。
 
 その時、夏休みのバイト面接に落ちまくった長男が、
やっと近所のファミレスのバイトを決めてきた。
 
 親としては、バイトよりも勉強や部活をがんばって欲しいのだが、
「平日の5日間、朝1時間、夜1時間、週計10時間は、絶対勉強する」
ということを確約させた上で、バイトを許可した。
 
 夏以降、金遣いが荒くなり、
それがまったく改まらないので、
この際、お金のありがたみをわからせるためにも、
500円1000円を人様からもらうことがどれだけ大変かを
経験させた方がいいかもしれない。
 
 ちなみに、私が高3でスーパーのバイトをした時、
あまりにも常識が無く、口の利き方も知らない状態だったのだが、
職場の先輩が、手取り足取り優しく教えてくれた。
 私が、高校の制服を着た無垢な勤労少女だったから、
あんなに無神経な発言も、間違いだらけの言葉遣いも、
大目に見てもらえたのだと思う。
 
 今、私が、
息子に、勉強に集中して欲しいあまりに、
バイトをさせず、欲しがるままに小遣いを与え続けてしまえば、
息子の金銭感覚がダメになるばかりか、
より柔軟で吸収力のある若い頃に仕事を覚える機会を奪ってしまう。
 
 はたち過ぎた有名大学の学生が、
初めてのバイトの面接に親と一緒に来たり、
欠勤の連絡を母親がする、というようなことがあると、よく聞く。
 
 いざ仕事を頼んでも、
理屈ばかりでプライドが高く、
使い物にならなかったりする、ということも聞く。
 
 これじゃ、いくらいい大学に進学したとしても、
社会人として役に立たないではないか。
 
 そう考えたら、やはり、
長男には、バイトをしてもらおう。
 
 長男は、ここ数ヶ月、
「金が無い金が無い」
と、イライラしてばかりだ。
 こちらが根負けして追加小遣いをやるため、
家計が困窮しているという実情を、
はっきり長男に打ち明けよう。
 
 そして、最低でも、
自分のケイタイ代やら遊興費は、自分で賄ってもらおう。
 
 幸い、彼は、
小学生の頃から学校の係の仕事は、完璧にこなしているらしく、
「彼に任せると安心です」
と先生たちに太鼓判をもらっているし、
家の手伝いも嬉々としてやってくれた。
 働くのは苦じゃないようだし、
長男に顔も正確もそっくりな夫の父親も、
ガンの治療と平行して、70歳過ぎまで働き続けていた。
 
 働いてもらおうじゃないか。
 
 親が、
「金の心配はするな、お前は、好きなことをしろ」
と、子供に言うのは、確かに立派だ。
 
 家計が火の車でも、
子供にそれを一切見せずに、
子供が経済的な不安を抱かせないようにすることは、
とても立派だと思う。
 
 しかし、それでダメになる子もいる。
 
 うちの長男次男に関しては、
おそらく、ダメになるクチだろう。
 
 こうなったら、16歳を過ぎたら積極的に働いてもらおう。
 もちろん本業は勉強なのだが、
自分で使う分くらいは、自分で稼いでいただこう。
 
 そうだそうだ。
 
 うちは、「昭和の子だくさん」をモットーとしていて、
「我が家の成人式は18歳だよ」
と、ずっと前から言い聞かせてきたではないか。
 
 18歳で大人になるためには、
そろそろ社会で仕事の見習いくらいは経験してもらわねば。
 
 親がどんなに口をすっぱくして社会の常識や家計の貧窮を語っても、
聞く耳を持たなかったり、
自分ひとりで育ったようなつもりでいるのだったら、
いっそ、実際の社会で揉まれてくればいい。
 百聞は一見にしかず、だ。
 
 それが本人にとって一番いい勉強だ。
 
 もしかしたら1日でやめてしまうかもしれない。
 ボコボコにへこまされて、バイトはこりごり、と思うかもしれない。
 
 そうなったら、それもひとつの経験として、
親がコンスタントに金を稼いでくることを尊敬するだろう。
 
 
 質素な昭和の暮らしを目指してがんばってきたが、
節約しても節約しても、もう、いい加減追いつかない。
 なぜなら、子供が外の「平成時代」に出て行き、
そこで活動していくからだ。
 
 一歩家に入れば昭和でも、外界は、間違いなく平成だ。
 
 「ダブルインカム子供少なめ」が主流なのだ。
 
 「共稼ぎ」などということばは、もう死語なのだ。
 
 母親は、当たり前のようにみんな働いて、
一生懸命、子供にお金をかけてあらゆる教育をほどこし、
生活に困らないようにがんばっている。
 
 我が家と比べ、
流通するお金の額が、
桁外れに多いのだ。
 
 うちと違って、大人も子供も、
みんな小金持ちで、
みんな忙しいのだ。
 
 平成の一般家庭は。
 
 うちは、平成のこの時代、
いっぱい子供がいるのだから、
いっぱい働かなければならないのだろう。
 
 働きながら、手をかけ、目をかけ、
どちらも、こちらも、気を配らなければ。
 
 のんびりしすぎていて、
平成に順応できていないうちの夫婦。
 あっちもこっちも同時にできない、不器用なタイプ。
 忙しくなると、二人とも一気にブレーカーが落ちてしまう。
 
 でも生きていかねばならないのだ!
 育てていかねばならぬのだ!
 
 子に過ぎたる宝なし!
 
 宝を大事にしすぎて腐らせないように、
自分も働くけど、ヤツラにも働いてもらうぞ!
 
 節約の限界には達したが、
また新たな局面で一皮向ける予感がしてきた。
 
 皆の者、働け〜〜〜〜〜!
 
 働け〜〜〜〜〜い!!!
 
 
 
 
   (了)
 
 
   (子だくさん)2008.9.23.あかじそ作

子だくさん 「節約の限界」