『粗父』
  テーマ★粗品∩バーゲン


 うちの近所に住宅展示場がある。
今日、長男と三男を連れて散歩中、ふと気が向いたので、入ってみた。
 最新の住宅設備に
「ほうっ!」
と感心し、
部屋中を駆けずり回り、作り物のクロワッサンなどをカジッている子供らに
「おらっ!」
と威嚇し、
ずっとくっ付いてきて、一生懸命に説明する住宅メーカーの営業社員に
「なるほど!」
と形ばかりの相槌を入れてみる。

 さんざんひやかした挙げ句に、風船やら、ハンドソープやらの粗品をもらい、
気を良くして、次のメーカーの家に入ろうとした途端、
キャツの姿が目に入った。

 鈍く光るエンジ色のチャリンコにまたがり、
超スロー走法で、ハンドルをくらくらさせながら、
バランスを取り取り、巨大な頭の中年男が、こちらに向かって来る。
 足をバッタのように、くの字に折り曲げ、カタギとは思えぬ目つきで、
右側の家をジロッ、左側の家をジロッ、とガンを飛ばしながら、ヤツは迫り来る。

「あっ! ジイだ!」
三男が叫んだ。
「シッ! 静かに!」
私は、慌てて制したが、キャツは、こちらに気づいてしまった。

 キャツとは、私の実父である。

 父は、ちょっと信じられないほどの見栄っ張りな男である。
 自分の娘と孫が、粗品をもらってワホワホしている姿なんかを見た日にゃあ、
彼の<スーパー・ゴールデン・シャイニング・スペシャル・プライド>を、
著しく損なう事は避けられない。

 が、彼は見てしまった。
粗品に浮かれる自分の配下たちの姿を。

「帰るぞ!」

 父は、一喝した。
 あと2〜3軒回るつもりだったが、有無を言わせぬ圧力で、
我々母子は、しぶしぶ帰ることになってしまった。

「アンケートなんかに住所書いちまって、馬鹿野郎!」
とか、
「粗品もらいまくりやがって、みっともねえ!」
とか、
チッチッチッチッ舌打ちされながら、チャリンコにまたがった。

 そう言う父だって、尻のポケットから、
ハナを拭いたタオルが40センチも垂れているし、
上着の袖口から、薄汚れた肌着の袖が飛び出していて、
相当みっともないのだった。
 
 私は、思わず口走った。

「・・・・・・粗父(そちち)!」

「なんか言ったか?」

「そちちの道じゃないよ、こちちだよ、フンッ!」

 顔のそっくりな粗父と粗娘は、
粗品を抱えてニコニコ顔の、粗長男と粗三男を後ろに乗せて、
粗車の間をくぐり抜けつつ、粗セメギアイをしながら、
粗家路についたのだった。

 なんのこたぁない、ある日曜日の、くっだらない、粗エピソードだ。



(おわり)
2001.10.13 作:あかじそ