しその草いきれ 「配達たのし〜〜〜い!」
 
 
 メール便の配達を始めてひと月が経った。
 いつもなら、新しい仕事を始めてひと月ほど経てば、
猛烈にやめたくなってくる頃だが、
今度ばかりは、どんどんやる気がわいてきている。
 
 初日は、何が何だかわからなくて、
半べそをかきながら30冊で2時間近くかかっていたものが、
2週間経つと、40分で終わるようになり、
60冊に増やしてもらった。
 やがて、それも45分から50分で配達し終わり、
物足りないくらいなので、
100冊に増やしてもらった。
 
 相変わらず、地図もろくに読めない方向音痴なのだが、
連日配っているうちに、
さすがに地図が頭に入ってきた。
 
 ぽつんぽつんと1冊づつ配っても、
隣の家、向かいの家、と、連なる家に連続で配ろうと、
時間はあまり変わらないので、
冊数が倍に増えても、手間はそれほど増えない。
 つまり、多く配れば配るほど、
無駄の無い、効率のいい配達ができる。
 おまけに、一軒の家に2通3通と配達する場合、
一軒分の配達で、2通3通分の出来高となり、
非常にラッキーだったりする。
 
 さらに、マンションなどは、一箇所で数件分の配達が出来るので、
マンションあてにたくさん届けるものがある場合、
「ひ〜ひっひっひっ」
と肩を揺らして笑ってしまう。
 
 とはいえ、1件20円という単価を、
安いと思うか、高いと思うかは、人それぞれだと思う。
 内職で1枚50銭の作業をしていると、
ぽとんと1冊で20円は、「高い!」と思えるし、
息子のバイトが時給850円から900円などと聞くと、
あんなに頑張ってこの値段か、とも思える。
 しかし、この仕事の目的は、
金だけではない。
 39歳で産んだ末っ子の娘が年頃になったとき、
よぼよぼババアになっていないために、
体を鍛えて若々しく健康でいられるためにも、
あえて、肉体労働なのだ。
 
 何も、大枚はたいてジムに通わなくても、
清き労働の汗を流しながら、報酬を頂き、
「働いている〜〜〜!!!」
という充実感を得ながら、
健康増進にもなるのだから、
これほど無駄の無い時間の過ごし方は無い。
 
 いやはや、しかし、
これは、すべての人に当てはまるというものでもないだろう。
 
 せっかく大学まで出たのだから、
その知識や資格を生かした、
ステイタスのある職業に就かなければプライドが・・・・・・、
という性格の人には、
この仕事は向かないと思う。
 
 
 私のように、数十年間、
 
「仕事って何なんだろう、金って何なんだ」
「生きていくためなら、大事なことを犠牲にして金儲けしないといけないのか?」
「大好きなことを仕事にすると、ある意味つらい」
「少し稼いで、少し使う、という金の回し方でいい」」
 
「私って社会性無いのかしら」
「何で性格悪い人が仕事続いて、クソまじめな私は続けられないのかしら」
「友人のキャリアに比べて私は・・・・・・」
「こんなに子育てって大変なのに、無報酬で無キャリア扱いかあ」
 
「大好きな仕事でも、職場に嫌なヤツがいるとホントダメ」
「人間関係抜きならいくらでも働きたいのに」
「変な神経使わない仕事がいい」
「頭が真っ白になるくらいの単純労働がしたい」
「余計な事考えないで純粋に肉体労働したい」
 
「やっぱり、暇つぶしみたいな人生はイヤ」
 
「ああ、働きたい」
「家族のために、身を粉にしたい」
「子供たちの進路に必要な学費を稼がなきゃね」
「労働の苦労と喜びを味わいたいなあ」
「消費生活は、もう飽きた」
「社会の『スタッフ側』で生きたい」
 
「人にどう思われてもいい、自分に向いている仕事を、楽しんでしたい」
「仕事そのものを目的にして、働きたい」
「ああ、ああ、ただ、ただ、働きたい!」
 
 ・・・・・・こんなグダグダと女々しい葛藤を乗り越えて、
「『働く』とは、『ニンベン』に『動く』と書くものなり・・・・・・」
という境地に至ってこその、
肉体労働万歳、という想いなのである。
 
 
 配達。
 
 ただ配りゃあいいってもんじゃない。
 いきなり配りだしてはいけない。
 まず、配達物を住所ごとに並び替えて、順序を組み立てる。
 その組み立てこそが、合理的に配るために一番大切な課程なのだ。
 
 順番の組み立てがうまくいくと、
同じところを何度も行ったり来たりしないため、
驚くほど早く配り終える。
 反対に、間違えて組み立ててしまうと、
何度も何度も同じ道を行ったり来たりしてしまい、
3倍も4倍も時間と手間がかかってしまう。
 
 この順番の組み立てこそが、
私が子供の頃から大大大好きな「パズル」と似ていて、
非常に、ひっっっじょ〜〜〜に、
面白いのである!
 
 かつて、こんなに、エキサイティングで、
身も心も打ち震えるような快感と達成感を、
仕事で感じたことがあっただろうか?!
 
 いや、無い!!!
 
 
 午前9時過ぎに当日配る分が、ドライバーさんによって家まで運ばれ、
その後、わくわくしながら順番を組み立て、
お昼を食べたら、配達物と3歳の末っ子を自転車に積んで、実家に行く。
 実家で1時間半ほど子供を見ていてもらい、
その間に、配達終了。
 
 夕方と、夕飯の後と、
それから、朝、荷物が届くまでの間、
内職を夢中になってやっている。
 
 そして、時々、
「あ!」
と、何かを思いつき、
作文を書く。
 
 
 た、た、た・・・・・・・・
 
楽しい〜〜〜〜〜〜〜〜っ!
 
 
 去年の今頃、
早く仕事しなくっちゃ、とあせる私の耳元に、
(あせらなくても大丈夫。もうすぐぴったりの仕事に就けるよ)
という声が聞こえたような気がした。
 
 あれは、誰の声だったのか?
 
 誰にせよ、何にせよ、
サンクス!
 
 おお、サンクス!
 
 やっと自分らしい働き方を見つけられそうな気がしてきたぞ!
 
  あ〜〜〜あ、楽しい!
 
 
 
         (了)
 
 
  (しその草いきれ)2008.11.11.あかじそ作