しその草いきれ 「単価か真価か」
毎日地道に配達や内職という、
一般的に「単価の低い」と言われる仕事をしているが、
自分に向いているので、気持ちは充実している。
そして、その収入は、何に使われるかというと、
ずばり、成績の振るわない次男の塾代になる。
大体、今まで、我が家の収支は、
低いながらもバランスがとれていて、一応成り立っていたのだ。
それが、次男の思わぬ「体が数字を受け付けない症」によって、
塾代が生じ、そして、大きく収支のバランスは崩れてしまっているのである。
そもそも、なぜ私は、子供を塾に通わせるのか?
まともな高校に合格させるため。
では、なぜ、まともな高校に合格させたいのか?
素行の悪い非行少年たちから身を守り、
将来、きちんとした仕事に就いてもらいたいから。
それでは、なぜ、きちんとした、まともな仕事に就いてもらいたいのか?
経済の安定した、まともな暮らしをして欲しいから。
経済の安定したまともな仕事とは、何か?
同じ仕事量で、少しでも単価のいい仕事、
「重労働の安月給」ではなく、
「軽労働の高収入」という仕事・・・・・・
ラクして儲かる仕事・・・・・・?
・・・・・・な、なにぃ?!
突き詰めて考えてみると、
何だ、このいやらしい考え方は?!
くだらん!
いやしい!
私は、結局のところ、
こんなくっだらない、さもしい考えにとらわれていたのか?
もっと意識の高いオカーチャンじゃなかったのか?!
ダメだ!
こんなことでは、全然ダメではないか?!
もっと、
「その子その子の個性に合った適職を」
とか、そういう意識で子育てしなくちゃダメじゃんか!
自分が偏差値教育のド真ん中で育ってきて、
「勝ち組負け組み思想」に嫌悪し、逆らい、あらがって、
今の自分の生活があるというのに!
「ラクして儲ける」=「高級な人生」なんていう、いやらしい考えからすると、
私は、今の自分の生活を全否定することになってしまう。
この、
「貧しいながらも楽しい暮らし」
「汗水流して働く幸せ」
を、深層心理では、否定しているというのか?
自分の人生を、低く見ていると・・・・・・いうのか?!
そ・・・・・・、そんな馬鹿な・・・・・・
自分は、いつもいつも、がんばってきた。
勉強だって、サボったことはない。
仕事も、いつも誠心誠意がんばっている。
でも、今、単価の低い仕事をしている。
私の親は、きっと、
「大学出してやったんだから、もっと人に自慢できる職業に就いて欲しい」
と、きっと思っていることだろう。
貧乏している娘を、
ハラハラしながら見ているのだろう。
娘としては、
「貧しいながらも、やっと自分らしい生き方を見つけました」
という誇りを持って生きているというのに。
そうか・・・・・・。
と、いうことは、
私も、親として、
子供たちに、年がら年中、むやみやたらと
「勉強しなさい」
と連呼するのは、やめようじゃないか。
そんな暇があったら、
世の中には、こんな職業があるんだってよ、
こんな面白い学問があるんだってさ、
と、子供たちに紹介した方がいいんじゃないか?
子供たちが、自分で「おっ?!」と思える職業や学問を見つけたら、
自然と、それを目指して、自分から勉強しようとするのではないか?
世の中の、右も左もわからない子供たちに、
一番身近で道案内をするのが親だというのなら、
その親が
「上じゃ! 何でもいいから上を目指すのじゃ!」
みたいな誘導をしたら、
子供も、世の中を二次元でしかとらえられない人間に育ってしまう。
それこそ、
「勝ち組負け組み」思想を植えつけてしまう。
ああ、間違っていた。
流されていた。
私は、負け惜しみではなく、
今の自分の生き方を、誇りに思っている。
5人もの人間の「母親」になれた誇り、
家庭的な雰囲気のない家庭で育ちながらも、
家庭的な家庭を築けている誇り、
自分自身よりも大切なものを、
両手で持ちきれないほど持っている幸福。
ああ、子供たちよ。
なりたいものになればいい。
生きたいように生きればいい。
人様に迷惑をかけないようにして、
自分らしさを精一杯発揮して、
自分の人生を悔いなく生きるのだ!
楽あれば苦あり。
苦あれば楽あり。
可愛い子には旅をさせようじゃないか!
金が無いなら、バイトしなさい。
欲しいものがあったら、働きなさい。
進学したいのなら、自分で働いて学費を捻出するのだ。
入学金だけは、ご祝儀として用意してあげるから。
ああ、何だか、肝が据わってきた。
「子供の進路の悩み」という濃い霧が晴れた。
悩むどころか、子供の夢や希望に乗っかって、
一緒に楽しんでいこうっと。
5通りの人生を、
ご披露してもらおうじゃないか。
わはははは、ああ、楽しみ、楽しみ!
(了)
(しその草いきれ)2008.12.2.あかじそ作