「 スリラー 」 |
マイケル・ジャクソンが死んだ。 私の世代だと、マイコーは、「ド真ん中」であって、 清志郎や三沢の死に続く、大ショックだった。 ああ、大学生のころは、よくMTVを見ていた。 ポニーテールを頭の高い位置に結んで、 ウォークマンで洋楽を聴きながら、街を闊歩したものだ。 連日テレビでマイコーのプロモーションビデオを見て、 日に日に感覚が大学時代に戻ったような気分になっていた。 景気がいいのが当たり前で、 未来は、一切わからないけれど、 気分は、明るかった。 そんな若き日の気分を回顧しながら、 洗面所に用事を済ませに行くと、 何と、 そこには、ダルダルなおばちゃんが立っていて、 こちらをじと〜っ、と眺めているではないか? ん? 誰? このおばはん? え? あたし? このおばはん、あたし?! ウンギャ〜〜〜! これぞ「スリラー」! 愕然とした。 5人の子を産んで育てている間に、 あたしゃあ、こんなに老けこんでいたのか?! 顔の肉が、垂れまくっているじゃないか!!! なに、この「ほうれい線」!!! 「おばあさんコント」のメイクか?! 目の下のクマ、半端じゃないよ! まぎれもなく、中年のおばはんだよお!!! いやいやいやいやいやいや、違う違う! 私は、いつもみんなに 「肌がきれい!」 って言われてた子でしょうが! いやいや待て待て待て待て。 いつの間にか、もう「子」じゃないし! つーか、むしろ「子」を5体も娩出してるし! ちょっと待ってよ、 それにしても、いつの間にこんなに一気に老けた?! 顔の肉が、 なんでこんなに垂れてるの?! 連日の育児のバタバタにまぎれて、 化粧は、1分で済ませていたし、 風呂上がりだって、 他のアラフォーは、みんな栄養クリーム塗り塗りしてただろうに、 私は、3歳児の着替えだ、 アトピーの軟膏塗ったりだで、 自分のケアは後回しで、すっかりほったらかしにしていた。 そのツケが、今、ド〜〜〜ンときた。 顔、だるっだる! 顔の南半球、たるたる肉の洪水。 そして、 目の周りの肌色……、暗!!! これが、うわさの「くすみ」ってやつなの?! くすんでるよ! ♪私〜、く〜すん〜でい〜ます〜♪、だよ! だあ〜〜〜! やばいやばいやばいやばい! やだやだやだやだ! こんなん、私じゃない。 違う違う、何かの間違い。 鏡を背にして、 強引に気持ちを若く持ち、 にっこり笑って、「いい顔」を作り、 鏡に向かって、元気にくるっと振り返ると…… おばば〜〜〜〜〜!!! おばばが笑ってるよ〜〜〜、 怖い〜〜〜〜〜〜! もう、ショックでショックで、 新聞に載っていた「アンチエイジング化粧品」のサンプルセットを取り寄せまくった。 目下、5〜6社の化粧品を順番に試して、比べているところだ。 そこでわかったのは、 若い子用の化粧品では、もう、 この年季の入った顔は扱いきれない、ということだ。 安くて、シャバシャバで水っぽい化粧品では、 この重い頬は支えられない。 「こ〜お、きゅ〜う」 という感じのトロリンとした仰々しい瓶に入ったヤツじゃないと、 顔が、垂れる、垂れる! で、そういうヤツは、バカ高い! ああ、顔の衰えに気づくのが遅すぎた! ふと見回すと、みんな私より若作りが上手じゃないか! 平成の40代は、概してコギレイだ。 私くらいだ。 かっぽう着が似合う、昭和の40代は! もう、今の時代、 へちま水やウグイスのフンじゃ追いつかないのか?! 常に、下りのエスカレーターの上を、 トップギアで駆け上がり続けなければならないのか?! これは、きつい! 流れに任せて、老け、衰えてゆくのは、ダサイのか? 嫌だ〜〜〜! 必死に若づくりし続けなくちゃいけないなんて、 嫌だよ〜〜〜! 自然体でいたい〜〜〜! 自然体でも、最低限のコギレイさを保ちたいよ〜〜〜! 年取ってもいいけど、 汚くなるのは、嫌だよ〜〜〜! ただでさえ忙しいのに、 アンチエイジングに手間とらされるの嫌だ〜〜〜! これ…… 今頃気づいたのって、遅すぎ? いやいや、美容に気が回ったということは、 やっと子供のことで支配されていた頭に、 自分のことを考える余裕が出てきたってことじゃないの? いいことじゃないの?! そうか、いいことなんだわ! 素敵! 人生に余裕! いいじゃんいいじゃん! いい気分になってきたわ! この素敵な気分の素敵な表情なら、きっと……! 私は、洗面所に走った。 そして、勢いよく、鏡を見た! どうだ! 人生に余裕を見出した熟女の輝かしい表情は?! さあ! さあさあ! 鏡の中には、素敵な…… おばば〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! (了) |
(しその草いきれ)2009.7.7.あかじそ作 |