「 夏休み’09 」



 今までの「ちびっこいっぱい専業主婦の夏休み」は、
とにかく、毎日昼食をどう麺麺麺でしのぐか?
 ……がテーマだったが、
今年は、ちょっと違う。

 私が毎日昼食時間ごろに仕事に出かけ、
長男はバイト、次男は吹奏楽部、三男は野球部に出かけるため、
毎日、昼に居る人間がバラバラなのだ。

 次男三男は、連日早朝から夕方まで部活で、
弁当とでっかい水筒を持って出掛けるので、
朝の準備は大変だが、
昼ご飯の心配をしなくていいのは、ある意味助かる。
 が、毎日バイトのシフトが不定期だったり、
メール一本で友達に呼び出されて、急に予定外の外出をする長男は、
実にやっかいだ。

 昼夜を問わず、
食事の支度をしておいても突然出掛けて居なくなったり、
逆に食事の用意のない時に急に帰ってきたりするので、
結構、面倒だ。

 四男と長女は、
私が仕事で出掛けている間、
大人しく留守番してくれるようになったが、
仕事から帰ったとたんに、
「いい子で留守番してたから、どこか連れてって」
と、連日せがみ、
不必要な外出により、出費もかさんでいる。

 また、野球部の三男は、土曜も日曜もなく、
朝4時半だの5時半だのに家を出るので、
弁当を作ったり、スポーツドリンクを用意したりする親も、
一切、朝寝坊ができなくなった。
 さらに、ジャグ当番の日は、
8リットルの麦茶と20個くらいのコップを、
車で学校や駅まで運んだりしなくてはいけないので、
結構、親も頑張らなくてはいけない。

 4時に起きて、ジャグを運んで、
それから200冊以上の分厚いカタログを地図を見ながら順路組みして、
炎天下、3時間かけて配達すると、もう、
夕方には、フラフラになってしまう。

 それから、はらぺこの子供たちに、一汁三菜を用意して、
食後のデザートだの、風呂上がりのアイスだのも
ちゃんと切らさずに用意しておかないと、
「腹減った」「口淋しい」と、うるさくて仕方ない。

 飯を作っても作っても「腹減った」。
 食べたそばから「次のご飯なに?」。
 人がやっと腰を下ろそうとすると「お母さんおしっこ」。

 いや〜〜〜〜〜〜〜〜、まいった。

 何がまいったって、
ごはんを食べる人数やタイミングが、ばらんばらん。

 今までみたいに、
「そうめん茹でときゃ、はいオッケー」
が、通用しない。

 人の出入りが激しくて、
誰かが帰ってきたと思えば、誰かが出掛け、
誰かが出掛けたかと思えば、誰かが帰ってくる。

 一体、今現在、家にいるのが誰と誰なのか、
把握しきれないうちに、
どんどん人が入れ替わり立ち替わる。

 で、誰もいないと思っていた2階からガタッと大きな音がして、
「ぎや〜〜〜!」
と、びっくりする。

 泥棒かと思って、バットを構えてソロソロと2階に上がっていくと、
意外にも大勢の人数(全員自分の産んだ子じゃないか!)が、
音もなく固まってゲームをしていたりするのだ。

 その間、影の薄い夫が、そろ〜っ、と
出たり入ったりしているが、
もう、もはや、眼中なし。

 彼は、残り物を音も無く平らげ、
音も無く風呂に入って、
音も無く布団を敷き、
音も無く寝ているので、
もはや、自縛霊のように、
われわれ家族と同空間にありながら、
決して交わらない、すれ違っても誰にも気づかれない、
特殊な存在になっているのであった。 

 ああ、夏休み。

 ほとんど全員顔を揃えることのない、夏休み。

 こんな日が、こんなに早くやってくるとは。

 ところで、夫の確定申告ミスにより、
すさまじく納税金額が跳ね上がってしまったおかげで、
私は夏休み返上で毎日仕事を増量し、
働きまくる予定だが、
働けど働けど子供がらみの出費は増えるばかりで、
我が暮らし楽にならず。

 「土用の丑の日は、うなぎが食べたいな〜」
という、子供たちの切なるつぶやきも、
聞こえないふりをしている自分が情けない。

 せめて、スーパーで売れ残りが安くなっていないかしら、と、
閉店間際に買い物に行ってみるが、
同じことを考えているツワモノが大勢いて、
もたもたこいているうちに全部売れてしまい、
アナゴの蒲焼しか残っていなかった。

 もう、こうなったら、
「うなぎの蒲焼」だと偽ってアナゴを出してみるか。

 子供たちには、
「え?! これうなぎ?!」
と聞かれ、ここで
「そうだよ」
と、平気で言ってしまえばよかったものの、
根が正直だから、とっさに「うっ!」と固まってしまった。

 すると、
「これ何?」
「ホントにうなぎ?」
「アナゴとか?」
と、みんな騒いでいたので、
” Don’t feel! Think! ”
と言っておいた。

 ブルースリーは、
” Don’t think! Feel! ”
(考えるな、感じろ!)
と言ったが、
アナゴをうなぎとして満喫するためには、
” Don’t feel! Think! ”
(感じるな! 考えろ!)
 つまり、
(あんまり味わうな! うなぎを想像しろ!)
で、いいのだ!

 あ〜〜〜あ。

 夏休みに入ったばかりだが、
もうすでに、食事関係や経済関係で、
頭の中が、
pi〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
と、なっている。

 は〜〜〜〜あ、 

もう、この夏は、

” Don’t Think! Don’t feel!”
(考えるな! そんでもって、感じるな!)
で、行こうっと。

 自らの心と体と神経を守るために、
ぽわ〜〜〜〜〜っ、として過ごそうっと。

 暑いんだから、難しいこと考えないぞ。
 いちいち細かいこと気にしないぞ!


  (了)
(子だくさん)2009.7.21.あかじそ作