子だくさん 「夢から覚めて」
 
 
 「中1三男不良化」の噂が立ち、
最近の私の頭の中は、そのことでいっぱいだった。
 
 今まで友人だと思っていたママ友たちが、
裏でうちの子とうちの家族を中傷していることを知り、
人間不信がどんどんひどくなってきていた。
 
 しかし、同じく「やんちゃないい子」を持つある友人は、
しょっちゅう学校やよそのお母さんたちに注意されても、
まったくふてくされずに生きている。
 その都度、きちんと誠実に、
相手や自分の子供とコミュニケーションをとり、
また、ナンクセと思われるものには、「謝るけれど気にしない」という、
堂々たる子育てをしている姿を見て、
私の心は、少しすつ冷静さを取り戻してきていた。
 
 思えば、「三男にいじめられた」と訴えていた女子は、
そのほとんどが思い込みであったことがわかったし、
三男が本人にすぐあやまって、その子自身に許してもらったのだから、
本人同士の間では、もうとっくに解決していることなのだ。
 
 それを、過剰に反応して大騒ぎしているその子の親が、
あちこちであることないこと噂を流し、
その噂を真に受けた人たちが、これまた面白おかしく広めている、
という現象が起きているだけだ。
 
 そのことで、三男自身が直接悪影響を受けるということは、
今のところない。
 いや、むしろ、
担任の若い体育教師や野球部の顧問の先生は、
部活で誰よりも一生懸命に練習し、
人の嫌がる地味な仕事を進んで引き受ける三男を、
高く評価してくれているのだ。
 
 私が、
「やってもいない悪さを『やった』と噂されて悔しいよ!」
と言うと、 
三男は、
「僕は、先生が信じてくれているから、それでいいよ」
と言って、一切、気にしていない。
 
 本人が気にしていないのに、
親の私が一番気にしている。
 
 いや、待てよ。
 私は、三男の処遇よりも、むしろ、
自分自身が迫害されることを一番気にしているのではないか?
 
 三男がどうこう言われることよりも、
自分の評価が下がることが許せないのではないか?! 
 
 せ…け…ん…て…い……?
 これが、噂の「世間体」ってやつか?
 
 昔から、ホームドラマで若者が親に向かって叫ぶ、
あの、
「母さんは、俺より世間体が大事なのかよ!」
ってヤツじゃないか?!
 
 そうだ!
 そうだ、これがその、「世間体」ってヤツなのか!
 
 私は、
「世間体より自分の美学」というマイペースな両親に育てられ、
子供のころから
「パパママもっと常識を持って生きて」
と願ってきたが、
ここへきて、両親の偉大さにハッと気付いた。
 
 先日、
「三男が悪い噂を立てられていて、懇談会に出られなかった」
という件を母親に話したところ、
「何言ってんの! 悪いことしてないんなら、堂々と胸張って出席しなさいよ!」
とポン、と背中を叩かれたことがあった。
 
 そして、
「私もそんなこと散々経験したけど、
噂する連中なんて、みんな無責任なのよ。
 ホントだろうが嘘だろうが、そんなの全然関係なくてさ、
面白ければ、どんどん噂するし、
また新しいネタが入れば、そっちに夢中になってさ、
前のネタなんて、まったくどうでもよくなっちゃうんだよ。
 噂なんていちいち気にしてたら、生きていけないよ。
 堂々と、胸張ってりゃあいいんだよ!」
と、言われた。
 
 ああ、この人、やっぱり、
昔、浅草でブイブイ言わせていただけのことはある。
 だてにスケ番やってない。
 
 そうだよなあ。
 
 もう、本人同士でカタが付いてるんだし、
私も、相手の親に謝ったんだから、
この件は、一旦、おしまいにしようじゃないか。
 また何か起こったら、
そこでオタオタしたり、
ふてくされて親の仕事をバックレたりしないで、
堂々と謝ったり、子供にしつけしたりして、
親として順当な行いをとれば、それでいいじゃないか。
 
 噂されてるって言ったって、
世界中の人間につまはじきにされているわけでもない。
 ごく一部の狭いグループの中で、
話題のない時に、たまたま共通の話題として話にのぼるだけで、
別に、そのことを誰もがずっと心に留めておいていることもない。
 
 一番気にしているのは、相手の親と私だけだ。
 
 当事者でもない、出る幕じゃない、双方の親だ。
 
 もう、すっこんでいよう。
 
 「世間体」みたいなものを、
自分の努力やコミュニケーションによって、
思い通りに完璧に形作ろうと思うのは、やめた。
 
 人様に迷惑を掛けないように子供をしつけていく、
今が、その途中なのだ。
 何度も失敗するだろうし、
その間、幾度か迷惑を掛けてしまうこともあるだろう。
 でも、昨日より今日、今日より明日、
ほんの少しづつでも、子供がよりよく育っていくように、
親自身が目標をきちんと定めて、
ぶれない態度で接していくことが大事なのだ。
 
 
 今回、やっと、
「世間体に支配されている自分」に気づけたし、
「噂話大好きグループに媚を売って無理して付き合っていたこと」を自覚したし、
これで、「子育てクエスト」での経験値は、ぐっと上がった。
 
 メタルスライムを倒したくらいの経験値だ。
 
 
 ……そうだ。
 私にだって、
噂好きグループ以外にも、
たくさん仲良しの人がいるじゃないか。
 相手が私をどう思っているか知らないけれど、
尊敬できる心の友だってちゃんといる。
 
 
 これからは、
もっと上のステージで、
もっと上の敵キャラ相手に、
勇者かーちゃんは、戦っていくぞ!
 
 後ろの馬車には、
育て中の仲間(子供たち)が5人も乗っているし、
相方(夫)は弱いし、「遊び人」だし、
まだまだ私が頑張らなければならないんだから。
 
 それでも、私が疲れ、傷ついた時には、
いつの間にか強くなっている兄ちゃんたちが、
馬車から元気よく、しかも何人も飛び出してきて、
きっと私と一緒に戦ってくれるだろう。
 
 がんばれ! 私!
 
 人生は、ロールプレイングゲーム。
 
 リアルに楽しめ、このゲームを!
 
 押忍!!!
 
 
   (了)
 
 
  (子だくさん)2009.8.4.あかじそ作