子だくさん 「架空請求キターーー」
 

 
 午前中に配達の仕事を終わらせ、
やれやれ、と、お茶を一杯飲みながら、
小4の四男、3歳の長女と一緒に自宅で過ごしていると、
突然携帯電話が鳴った。
 発信者は、長男だった。
 
 電話に出ると、
上ずった声の長男が、
「お母さん、どうしよう! 大変なことになっちゃったんだよ!」
と半べそで言う。
 
 「何? どうしたの?」
と聞くと、
「友達とふざけて携帯の変なサイト開いちゃって、
何かにクリックしちゃったら、
怖い人から電話がかかってきて、16万5千円払え、って言われて、
脅されて自宅の住所と電話番号言っちゃった!」
と言う。
 
 「なに〜〜〜〜っ!」
 
 自宅の住所と電話番号は、まずいだろう!
 
 聞くと、明らかに架空請求だった。
 そんな時は、電話が掛かってきても、
知らん顔をして切ってしまえばよかったのに、
相手が「住所と電話番号を言わないと大変なことになりますよ!」と言うから、
怖くて言ってしまったのだという。
 
 「お前〜! 何で言っちゃうのよお! 言わなきゃ、相手にはどこの誰だかわからないのに!」 
と言うと、長男は、
「さっきそれに気づいたんだけど、怖くて言っちゃったんだよ……ごめん」
と震える声で言う。
 
 「どうしよう、お母さん! 怖いよ〜!」
 「どうしようもこうしようもないよ。今から警察に行きな」
 「え? でも、今友達の家なんだけど」
 「知るか! すぐバイバイして、警察に行って相談してきな!」
 「え〜〜〜!」
 「知らない着信番号には出るなよ!」
 「うん……」
 「じゃあね!」
 
 電話を切るなり、私は、地元の警察に電話をした。
 そして、ことのいきさつを説明すると、
「消費生活支援センターに相談してください」
と言われ、電話番号を教えてもらった。
 そして、
「自宅を襲われることはないでしょうか?」
と聞くと、
「その時は、迷わず110番してください」
と言われた。
 
 すぐに紹介された消費生活支援センターに電話をすると、中年の女性が出た。
 事の経緯を説明すると、
「ああ、はいはい」
という第一声。
 
 「これは、毎日山のように相談を受ける内容なんですよ」
と言い、丁寧に、きちんと説明してくれた。
 
 中高生などが、興味本位で携帯サイトを開き、
無料サイトをどんどんクリックしていくうちに、
いつの間にか有料サイトに入り込んでしまって、
突然怖い声で高額な料金を請求され、
親に言えずに黙って振り込んでしまったり、
脅されて次々追加料金を請求される、ということで、
よくあることらしい。
 
 「ここから先は有料ですが、よろしいですか?」
ということわりの文章が出て、そこをクリックしてしまうと、
ちゃんとした契約として成立してしまい、
料金を支払う義務が発生するけれど、
無断でいつの間にか有料化してしまうのは、
明らかに違反で、契約は成立していないので、
支払い義務は無いのだという。
 
 長男の場合、「いつの間にか」のパターンだったので、
払い込みの必要は無く、
いくら怖い調子で支払いを請求してきても、
無視していていいとのことだった。
 
 無視、というのは、つまり、
着信拒否をしたり、
相手が違う番号から電話を掛けてきて、
その電話に出てしまっても、
「知りません」
と言って、切ってよい、ということらしい。
 
 ただし、自宅の住所と電話番号を教えてしまったのは、
少しやっかいで、
自宅の電話にも「親なら代わりに払え」という電話が
掛かって来る可能性があるという。
 
 しかし、この場合も、
100回掛かってきたら100回切ればいい、
とのことだった。
 
 しかし、脅されたりするのは、やはり気持ちのいいものではないので、
ナンバーディスプレイにして、知らない番号には出ないようにするとか、
そういう工夫をするといいでしょう、とのことだった。
 
 家で商売をしていて、不特定多数の電話に出ないわけにはいかない時も、
やはり、料金請求の電話は、「知りません」と言って切れば、それでいいらしい。 
 
 要は、相手との根気比べで、
相手が電話をかけて請求し続けてくる間じゅう、
断固として断り続ければ、相手もあきらめる、ということなのだ。
 
 それにしても、自宅の住所を知られているのは、
実に気持ちの悪いことで、
うちには、小さな子供がいるので、心配だ。
 
 しかし、消費生活支援センターの人は、
「自宅まで押し掛けて請求するのは聞いたことがない」
と言う。
 相手も、捕まりたくないので、自分が姿を現すことはないらしい。
 しかし、万一、自宅に押し掛けられた場合は、
110番して、現行犯として捕まえてもらってください、
とのことだった。
 
 自宅に来るのが「まずない」とはいえ、
「万一来た場合」などの対処も聞くと、
「100%来ないわけではないのね」
と、逆に少し怖くなったりする。
 
 とにかく、支払い義務のないことだから、
無視し続ければいいだけのことです、
と聞いて、少し安心した。
 相談にのってくれた女性は、
相談が勤務時間外になってしまったにも関わらず、
長男本人にも詳しい話を聞いて、同じ説明をしてくれたので、
本当によかった。
 
 さて。
 
 私は、いそいで自宅の電話に、関係者の番号を片っ端から登録し、
連絡網や大事な連絡が入ったらナンバーディスプレイに名前が出るようにした。
 同時に、登録した番号からの呼び出し音を一般の音とは変え、
更に、非通知で掛けてきた電話は、呼び出し音がならないように設定した。
 
 その設定がすべて終わったのが、午後6時だったので、
夕飯の準備がすっかり遅れてしまった。
 
 そうこうしているうちに長男が帰ってきた。
 
 消費生活支援センターの人に安心するように言われた長男は、
だいぶ落ち着いていたが、
不自然にはしゃいでみせるので、
「ちょっとあんた! もう、やたらとサイト開くのやめなさいよ!」
と言うと、
「怖いから一生懸命忘れようとしてるのに……」
と言うので、
「忘れちゃダメでしょう!」
と言った。
 「同じような失敗を繰り返さないように、2、3日は、落ち込んでなさい!」
 私が、怖い顔で言うと、
「そうだよ! バカ!」
と、追い打ちをかけるように、
事情のよくわかっていない3歳の長女も大声で怒鳴った。
 長男は、しゅんとして、
「はいはい、ごめんね」
と、長女の頭をなで、心底反省しているようであった。
 
 そばにいた次男三男四男は、
いつもヤイヤイ言うくせに、
今日に限っては、みな、黙って視線を落としていた。
 
 長男がバイトに出掛けて留守の時、
私が、
「みんな、兄ちゃんが馬鹿ヤッチマッタから、知らない電話番号には出ないでね!」
と、何度も言っていると、
「わかってるよ。お母さん、もういいじゃない」
と、次男も三男も四男も、私をいさめにかかってくる。
 
 次男は、
「学校の集会で携帯のトラブルとかの講習聞いてるよ」
と言い、
「兄ちゃんもこれに懲りて、もうやらないでしょ」
と言って長男をかばった。
 
 「あんたたちも気をつけてよ!」
と、私がみんなに号令を掛けると、
最近やんちゃで手を焼いている三男が、
「優等生で世間知らずの兄と違って、僕は、修羅場を踏んでいるから大丈夫」
というような事を、したり顔で言う。
 
 まあ、このことに限らず、
第一子の長男は、いつも無防備に、ぼ〜っとしているから、
しょっちゅう、「我が家で初めてのトラブル」を経験し、
同じく第一子の私や夫は、
ボケボケしていて、上手にそれらを処理できず、
オタオタバタバタしているのだ。
 
 それを冷静に見ている次男三男四男は、
何かトラブルに遭っても、
「あ、これは、兄ちゃんのときのあれか」
と、事情が分かっているので、
結構クールに対処しているようだ。
 
 
 それにしても、第一子(長男・夫・私)のヘタレ加減と言ったら、
もう、目も当てられない。
 
 怖いもの知らずで、
というか、世間知らずで、
ヤバい所に無防備で突っ込んで行っちゃうし、
そのくせストレスに弱いし、すぐへこむし、
たちが悪い。
 
 中間子である、次男三男四男の、
あの独特の雑草魂がうらやましい。
 
 上下の兄弟に挟まれてもまれ、
タンポポみたいに、
コンクリの隙間から生えてきて、
踏まれても踏まれても太陽を目指す、みたいなところを持っている。
 
 ああ、またひとつ、経験した。
 我々が世間知らずであることを、
またひとつ知った。
 
 経験することは、痛いことも多いけれど、
第一子組がジタバタしているのを冷静に見ている下の子たちが、
実地でいい勉強をしている。
 知らんうち、ヘタレたちが、
反面教師として、彼らにいい教育を施している、
のかも……知れない……。
 
 
 《追記》
 
 消費生活支援センターの人の話によると、
今回のように架空請求をされた中高生の中には、
親の勤め先なども言わされてしまい、
「払わないと父親の勤め先に押し掛けますよ」
などと脅されて、
親に言えずに自分の貯金から払ってしまう子もいるらしい。
 
 こういう不当な請求は、ものすごくよくあることらしいので、
急に自分の身に降りかかってきてもびっくりしないで、
絶対に自分の身元を明かさず、
すぐに相談窓口に相談した方がいいと思う。
 
 大人にも、大人用の脅し方があるようなので、
みなさん、本当に気をつけましょうね! 
 
 マジで!
 
 
  (了)
 
 
 
 (子だくさん)2009.8.11.あかじそ作