子だくさん 「ドクターチルドレン」
台所で夕飯の支度をしていると、
茶の間から小4の四男と3歳の長女が仲良く遊ぶ声が聞こえてきた。
身を反らせてそちらの方を見てみると、
四男があおむけで横になり、
その傍らで長女がおもちゃのトランシーバー片手に
何やら叫んでいる。
「みんな! オウレン(応援)たのむ!」
そして今度は、そのトランシーバーのアンテナを
四男の胴体のそこいらじゅうに突き立て、
くすぐったがる四男に馬乗りになった。
四男は、たまらずクルッとうつぶせになったが、
長女は攻撃の手を緩めず、
「よ〜し、つぎは、おしりをシジツ(手術)しる!」
と言い、兄のお尻目がけて、
今にも鋭いアンテナを突き刺さんとしている。
「いやあ〜〜! やめて〜〜〜! 交代! 交代!」
お医者さんごっこか。
それにしても、ひどいヤブ医者だ。
さて、今度は、長女が横になり、
その横で四男がヘッドフォンを耳に付けて
何やら診察らしきことを始めた。
「はい、あ〜んして」
四男は、長女の口の中を覗き込みながら、
「2番Cの1、5番バツ」
と言っている。
歯科検診?
毎年学校で受ける検診を参考にしているようだ。
小学校4年生、9歳の持てる経験と知識を総動員して、
全力でお医者さんごっこに取り組んでいる。
「CHの27! こ、これは、ひどい!」
「何! こちらもCHの27か!
だめだ! みんなやろう! 命を失うかもしれないが、やってみよう!」
どうやら自分を取り囲んでいる若手のドクターたちを説得しているらしい。
「非常に難しい手術になりそうだ」
かっちょえ〜〜〜!
おもむろに手を洗う仕草をし、
(インフルエンザ予防のために
学校で散々正しい手洗いを練習しているので、
異常に本格的だ)
更に、タンスからバンダナを出して、
なぜかホッカムリをした。
クールな表情でキメキメだが、
はたから見ると、どう見ても昔の泥棒だ。
鼻の下の結び目が泣かせる。
「それでは、CH27をセツジョする! ホース!」
ホース?!
メスでなくて?
「ううむ、これは、厳しいな! もう1本ホース!」
だから、なぜホース?
いきなりホースで何をするの!
「よし! 成功だ! 一回検査してみよう! CT!」
CTって……。
実際に自分が何回も頭を怪我して、
本当にCTを何度も撮られているだけに、
そこは、リアルだな。
ドラマの「救命救急ナンチャラ」のたぐいを
参考にしているらしい。
おもちゃのレジを持ち出し、
長女の頭の上にかざして、
いくつものスイッチを激しく連打している。
「いらっしゃいませ♪」
「よし、ここは、異常無し!」
「はい、お会計3980円です♪ はい、お会計、はいおかおかおかおか」
「ううむ、よし。ここは、どうだろう」
「ありがとうございました♪ いらっしゃいませいらいらいらいらいらっしゃいませ♪いら」
「よし、いい感じだ」
「ありがとうありありありがありがありが」
「よ〜し、撮れたぞ!」
撮れたの? 今ので?
「これが、あなたの脳内写真です。
また症状が悪化してきています。
またすぐ手術しますよ!
よし。……ホース!」
またホース!
(了)
(子だくさん)2009.10.18.あかじそ作