話の駄菓子屋 「半分捨てる」
忙しい忙しいと言いながら、
家の中の整理整頓を怠ってきてしまった。
この家に引っ越してきて13年。
2DKの団地から引っ越してきた当初は、
この4DKの一戸建ては、大きな器であった。
家具もまだスカスカで、床がたくさん見えていた。
子供がまだ小さかったせいもあり、
この古くて小さな家が、大きく感じたものだ。
ところが!
子供が4人になり、5人になり、
学校に上がり、学年も上がり、
それが何人も何人も、となると、
去年の教科書やら算数セットやら、画板やら、習字道具やら、
絵の具セットやら、スクール水着やら、
前に学校で描いた絵やら、工作やらが、
人数分、何組も何組もあふれかえり、
また、各自買い集めた単行本やら漫画やら
雑誌やら付録やらも加わり、
更に、バドミントンセットやら、テニスラケットやら、
グローブやら、バットやら、縄跳びやら、柔道着やら、
サックスやら電子ドラムやら、なんやらかんやらが、
も〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う、
6畳の子供部屋の床を埋め尽くす勢いで増え続けている。
ただでさえ、
6畳に4台の学習机を置いている、という無茶な過密度なのに、
そこへ、衣装ケースや本棚やロッカーなどを所狭しと並べているので、
このちゃちい家の床が、
いつ落ちてしまうか、と、心配だった。
そして、昨年、
三男が、野球部に入り、
ユニフォームや道具の類を一式、大量に買い揃えたことで、
完全に物が飽和状態になってしまった。
1階の子供部屋には、歩く隙間さえない。
机の上にまで、物が高々と積み上げてある。
これで勉強などできるわけもなく、
子供ら全員、受験生でさえ、
居間のテレビの前のちゃぶ台で勉強しているのだ。
子供のことばかり言っていられない。
かく言う私も、
読み終わった雑誌や通販のカタログなどを、
後生大事に取っておいているし、
もうさすがにこれは着ないだろ、というバブル時代の洋服も、
「いつか着るかも」
「一周回ってまた流行くるかも」
などと言って、
もうほとんど着ないのに、
クローゼットの中でカビ臭い状態で保管されている。
おかげで、もう、新しい物が入らないのだ。
それなのに、家族揃って、どんどんどんどん、
連日、「安かろう悪かろう」の物を買い続けるせいで、
もう、本当に、人間の居る場所まで無くなってきているのだ。
座る場所が少なくなって、
一家7人、居間に突っ立っていることもある。
アホか!
人間が、物に支配されているではないか?
物で人間の暮らしを豊かにするのではなく、
物に家を乗っ取られ、
息もつけないくらいに窮屈になっているなんて、
本末転倒だ!!!
要らないものが家じゅうにひしめいていて、
大事な家族の写真や、学校の制服や、宝物の書籍なんかが、
家の隅っこにホン投げられているとは、
どういうことだ!
ダメダメダメダメ!
もう、限界だ!!!
暮らしのぜい肉がつきすぎたのだ!
こうなったら、ダイエットだ!
大々的にダイエットするしかない!
私は、使い終わった1月のカレンダーの裏に大きく
「家の中の物を半分捨てる!!!」
と書いて、一番目立つ居間の時計の近くに貼った。
そして、早足で家の中を歩き回り、
とりあえず、意味も無くとってある瓶や缶やペットボトルのふたなどを、
一気にリサイクル用の袋にぶち込んだ。
ちょっと欠けてしまった食器を、
「まだ使えるし」
と、食器棚にとってあるのを、
「ていっ!」「やあ!」
と、次々取り出し、
新聞紙に包んで、次の不燃ごみの日に出せるようにした。
ほころびてもう着ない服や靴下を、
「うお〜〜〜!」
と叫びながら裁ちばさみで切り刻み、
「ちょっとしたところを拭く使い捨て雑巾」
を大量に作った。
勢いづいたところで、また、
「はいはいはいはいはい〜〜〜〜〜」
と叫びながら2階に上がり、
例のクローゼットを開け、
ビニール袋の中に次々と服を入れた。
「バブルは、とっくに弾けたのじゃ!」
「肩パットとは、おさらばなんじゃあ!」
と叫んで、クローゼットの中の物をほとんど出した。
これは、資源の布の日に出す分!
そして、そのままドスドスと1階の子供部屋に降り、
「去年の教科書で、いつ、どこの誰が復習したことがあるかね!」
と、大声を上げ、
どんどんどんどん使い終わった教科書をひもで束ねていった。
ものの数十分で、家の中が、少しさっぱりしてきた。
この調子、この調子だ!
もし、明日、自分が急に死んだら、
みんな困るだろうからな。
こんな使いものにならないものを、
「亡き母ちゃんは全部大事にしていた、捨てたらタタリが……」
なんて、
この大量の雑誌や衣類の数々を、
捨てられずに困っている家族が目に浮かぶ。
捨てる!
まず、今、
有無を言わさず、
家の中の物を半分捨てる!
私は、自分の生活を整理する。
大量の、趣味の合わないもらい物や、
「安いからこれでいいや」と妥協した100均グッズに囲まれ、
本当に欲しいものは買えず、
ホッと一息つける場所もない、
そんな、自分を置いてけぼりの暮らしは、
もう、やめだ!!!
本当にお気に入りの物だけに囲まれ、
ひとつひとつの道具に愛着を持ち、
それを眺めること自体が、安らぎになるような、
そんな物だけに囲まれて暮らしたい。
そのためには!!!
まず、捨てる!!!
本当に大切なものを大切にするために、
妥協や、怠惰を一切かなぐり捨てて、
取捨選択の鬼になるのじゃ!!!
自分の中に、自分の暮らしを仕分けする蓮舫を持つ!
限られた予算、いや、人生を有効に使うために!
(了)
(話の駄菓子屋)2010.2.9.あかじそ作