子だくさん 「早く受験終わってください〜!」
 
 
 次男の高校受験の真っ最中だ。
 自分のときは、いつの間にか通り過ぎていた受験が、
自分の子供のこととなると、
どうしてこうも心配がつのってしまうのだろうか。
 
 2年前の長男の受験のときは、
親子ともども初めての受験で、非常に緊張したものだ。
 家族全員でインフルエンザのワクチンを接種し、
私は、病気をうつされないように、と、
秋ごろからずっと、外出時は、マスクをつけていた。
 本人の希望で、塾に通わず、
情報の無いまま手探りで、
親子で連日連夜、受験勉強を頑張っていたが、
肝心な第一志望の受験日に長男が40度の高熱を出し、
高校の保健室で受験したのだった。
 
 何とかかんとか合格し、
今は、希望の高校に通っているのだが、
ぎりぎりで滑り込んで入ったせいで、
いつも成績は、下から数えた方が早いほどだ。
 なのに本人は、建築士志望で、
なぜか学年選抜の理系クラスに入ってしまったため、
いつもクラスのビリ争いでひーひー言っている。
 中学では、勉強ができる方だったため、
この状況に多少イジケ気味で、
必死に勉強して成績を上げようとする気が起きないようなのだ。
 
 そういう経験を踏まえて、
次男には、一生懸命勉強してほしかったのだが、
こいつがまた、勉強が大っきらい。
 暇さえあれば、
お笑いのコンビを組んでいる友人とネタ作りをしたり、
テレビを見て笑い転げたり、
パソコンでYouTubeばかり見て、
これまた笑い転げている。
 
 いつも明るく楽しくやっているのは結構なのだが、
定期テスト前も、ほとんど勉強しないので、
成績も惨憺たるものだった。
 
 とくに数学などは、
簡単な計算問題は、ともかく、
文章題が出たとたんに「わからん!」と断言し、
一切解く気が無いのだ。
 また、「問題用紙が汚れる」などとほざいては、
途中の計算式を全部消しゴムで消してしまうので、
部分点ももらえず、目も当てられないような成績をとる。
 理科も社会も、一切勉強しない。
 興味が無いから、覚えようとも思わない。
 テストは、常にぶっつけ本番だ。
 
 しかし、妙なことに、
英語と国語だけは、いつも満点近い点を取る。
 一生懸命勉強しても英語の成績がイマイチの長男などは、
「コイツなんで全然勉強しないのに英語満点なんだよお!」
と怒っている。
 きっと、前世は、欧米人だったのだろう。
 前世の記憶だけで助かっていやがるのだ。
 
 数学と理科と社会が、ヤバすぎる成績なのに、
英語と国語ができるものだから、
「全体的にはオッケーなんじゃね?」
みたいに思っているふしがある。
 
 それにしても、あまりに数学がひどいので、
家で私が勉強を教えていたのだが、
これがひどい。
 
 勉強しよう、と言うと、
「ちょうどキリのいい時間から始める」
と言い、
ちょうどキリのいい時刻になったので、
「さ、始めようか」
と言うと、
「眠いからちょっと待って」
と言い、横になり、
「寝ちゃうからダメ〜」
と言うと、
「あ〜〜〜、おなか痛い〜!」
と言って、トイレに駆け込んで、
本当に下痢をしている。
 
 勉強アレルギー?
 
 こんな調子で、一切、勉強していないので、
本当に心配になり、近所の補習塾に入れた。
 週に2回、嬉々として通っているし、
そこそこ平均点ぐらいは取れるようになってきたので安心していたが、
気付けば、うちの貯金が底を尽き始めているではないか!
 私の配達で得た金が全部、次男の塾代に消え、
ちょっとした臨時出費に備えていた寅の子も、
いつの間にやら溶けて消えていた。
 あな、おそろしきは、自動引き落とし!
 勝手に貯金が消えて行く!
 
 塾に行かせているのだから、これで安心、
と、思いたいのが親なのだが、
これがまったくそうではなく、
「塾で勉強してるんだから、もういいじゃん」
などと言って、家では、まったく勉強しない。
 週に2回、たった90分×2、
塾で問題集を解いたところで、
授業中、グースカピースカ寝ているのだから、
みんなに追いつけるわけがない。
 
 結局滑り止めの私立高校は何とか受かったものの、
第一志望の公立の試験では、
本当に目も当てられない点を取ってきた。
 この合否が明日わかるのだが、
おそらく九分九厘、落ちているだろう。
 3月の頭に、二次募集があるため、
それに向けて今から勉強をし直すべきところだが、
本人、何の根拠もない自信たっぷりで、
すっかり受かった気でいるので、
「終わった終わった」という感じで、
勉強なんてしやしない。
 
 「私立が受かっているのだから、いいじゃない?」
と思いたいところだが、
こんな勉強嫌いなヤツの教育費に、
私立で何百万円も掛けるなんて、
もったいないったらありゃしない。
 
 頭脳に比較的希望の持てる四男や長女にも、
ちったあ資金を残しておかねば、
彼らが可哀想なことになる。
 
 後に控えた三男も、
「やればできるが、やらねばひどい」という、
極端な成績の持ち主だし、
手のかけどころは、まだまだ他にたくさんあるというのに。
 
 ああ、早く受験終わってください!
 神経がもたないから!
 資金ももたないから!
 
 ところが、家計簿に付いている
「30年ライフプラン」の表に家族全員の年齢を書き込むと、
これから十年以上、毎年、受験が立て続けにあるのがわかった。
 
 毎年!
 15年以上!
 いつも受験生がいるってか!
 
 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
 
 本当は、
私立も公立も関係なく、
偏差値でもなく、
学校の特徴で選び、
あなたの行きたいところへ行きなさい、
と言ってやりたい。
 
 しかし、それを言ったら、うちの経済は、
たちまち破たんするだろう。
  
 自分に合った学校を、
自分に見合う学費の範囲内で選ぶ。
 制限を設けて申し訳ないのだが、
これは、世の中にたくさんいる親の中から、
うちを選んで生まれてきたのだから、
我慢してもらおう。
 
 携帯を持ちたきゃあ、
通信費ぐらいは、自分で稼げ、と言う。
 
 「子供にお金の心配なんてさせるな」
という親もいるが、
私は、そうは思わない。
 
 「お金のことは気にしないで、あなたは、お勉強に集中してちょうだい」
なんて、言えない。
 
 子供に家庭の経済の実情をありのまま話して、 
こういう中でやりくりしているのだから、
進学したけりゃあ、それなりの覚悟はしなさいよ、
と言っている。
 
 5人全員、大学の初年度の学費までは、出す。 
 そこまでは、親も、死に物狂いで用意する。
 でも、それ以降は、バイトするなり、
奨学金なり、自分で工面して払いなさい、
と言ってある。
 自分で苦労して働いて、
そのお金で授業料を払う方が、
「もったいないからちゃんと勉強しよう」
と、思うはずだ。
 
 精神的にも、経済的にも、
いつまでも親に依存しないで、
自立した大人になるように、
心を鬼にして、そう言っている。
 
 5人の子供の教育費を払い終えたら、
きっと我が家は、すっからかんになるだろう。
 それでいいと思っている。
 
 しかし、老後に備えて、
国民年金と国民年金基金は、
月々、しっかり払っている。
 
 やっと自立した子供たちに
年取った自分たちが迷惑を掛けないように、
最低限の貯金のつもりで掛けている。
 
 散々子供に「自立しろ自立しろ」と言っていて、
親の自分らが「面倒見て〜」と寄りかかっちゃあ、
筋が通らない、というものだ。
 
 贅沢する暇があったら、年金払う。
 
 そして、子供らに「自立じゃ自立じゃ」と尻を叩く。
 
 いざ巣立っていかれたら、
一番淋しがるのは自分だとは思うけれど、
やはり、今は、こう言うしかない。
 
 勉強しろ〜〜〜!
 携帯代自分で払え〜〜〜!
 親を頼るな〜〜〜!!
 
 一人前の大人になれよ〜!!!
 
 
 
  (了)
 
 
  (子だくさん)2010.2.23.あかじそ作