「ベリー・クルシミマス」

 また今年もやってきちまった。
クリスマス・シーズン!
 小三をかしらに、4人の息子達はみな、サンタを信じていやがる。

 誰だ!

 クリスマスの深夜に、そっとサンタがプレゼントを置いておいてくれる、
なんて決まりを作ったヤツは!

 連日連夜、長男・次男・三男が、珍しく仲良く頬寄せ合って、
プレゼントのリストアップ作業をしているぞ。
 
 <長男のメモ>より
@サンタさんからは、「ゲームボーイ・アドバンス」
Aお母さんからは、「某RPGソフト」
Bばーばからは、「某シューティング・ゲームソフト」
C金沢のおばあちゃんからは、「某ゲームソフトに必要なアイテム」

・・・・・・なんて書いている。
次男も、三男も、然り。

 (ふざっけんな!)

と、いきり立つ気持ちを抑えつつ、
「そんなにいっぱい、しかも、ゲームばっかりくれるわけないでしょ」
と、言ってみた。
 すると、

「じゃあ、お母さんは本でもいいよ。
でも、その他の人からは、絶対にこれをもらうからね!」

(何威張ってんだよ、アホ!)

「じゃあさ、サンタさんがゲームくれるんだから、
お母さんからは、プレゼントいらないんじゃない?」

と、言うと、

「えっ・・・・・・、ぼくのうちは、親からプレゼントがもらえないの? 
みんなもらっているのに、ぼくのうちだけ? なんでなんで? 
貧乏だから? 貧乏なの、うち?」

「いやいや、確かに金持ちではないけど、そうはっきりと『貧乏』とかってさあ!」

「じゃあ、何でもいいからちょうだい」

「じゃあさ、お母さん、本買ってあげるから、
サンタさんからは、ゲームでなくて、何かもっと安いものをさあ・・・・・・」

「えっ! サンタさんって貧乏なの?」

「いやいやいやいや、そうじゃなくって、サンタさんだって、
おもちゃ屋さんに買いに行くの、気の毒だから。
世界中の子供達のためにおもちゃ屋さん駆けずり回っていて気の毒だって」

「サンタさんは、ひとりなの?」

「あ、いやいや、世界中に特派員がいるとかいないとか・・・・・・」

「じゃあ、日本のサンタは、日本人?」

「いや、確か、ノルウェー人だったかなあ!」

(自分で言ってて『なんでやねん』)

「とにかく、サンタさんには、このゲームは、絶対に買ってもらう!」

「ねえねえねえ、友達は、みんなサンタさんに注文してるの?」

「うん。伊崎くんなんかねえ、サンタさんの携帯の番号知ってるんだよ。
そこに注文したら、その通りの物がもらえたって」

(通販かよ!)

「吉井くんちは、欲しいものを手紙に書いて、
1週間前までにベッドのところにつるしておくんだって」

「そうだよね、当日ってわけにはいかないわなあ」

「ぼくは、このリストを玄関ドアの外側に貼っておくよ」

「あっそう・・・・・・」

「きっときっと、サンタさん、このプレゼント、くれるよねっ! 
ぼく、1年間、ずっといい子にしてきたもんね!」

(嗚呼・・・・・・確かに・・・・・・)

「でも、もしかして、売り切れてたら、違うものかもよ」

「なんでよ! なんで!」

(泣いてる・・・・・・。泣くなよぅ! こっちが泣きたい!)

「それにしても、サンタさんって、どうやって枕もとにプレゼント置くんだ?
家に忍び込むの?」

「いや、それは・・・・・・えっとねえ・・・・・・」

(サンタは私だと、カミングアウトしたい! 
嘘は辛い・・・・・・嘘の上塗りが厚塗りになりすぎてる!)

「だいたい、サンタさんって、泥棒と間違われないのかなあ?」

「いや、それは・・・・・・、えっと、えっと・・・・・・」

 私のメイン・コンピューターは、もう完全にフリーズしている。
そこへ、子供達がおおぜいで、寄ってたかって、
「サンタに関する諸疑問」を機関銃のように浴びせ掛けてくる。

(ピー
―――――――――――――――

 私は、白目で固まっている。
そこへ、
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」と、三男。
 私の脳に、ダブル・クリックの連続だ。
 私の視界の下には、いっぱい、タイトルが出ちゃっている。
「どうやってどうやってどうやってどうやってどうやってどうやって」
と、次男が私のエンターキーを叩きまくる。
 私は、何とかせねば、と、うはうはうはうは、あせってしまう。
 挙句の果ては、そうやって凍ってしまった母に対して、
長男は、「ねえ? サンタさんって、本当にいるの?」
と、小さい子供達の面前で問い掛けてくる。
 私のハートの、Ctrl+Alt+Delete キーを、何度も叩く叩く叩く!

 バグッ!

 とうとう、私は、本格的にバグッてしまった。

「た〜りら〜りら〜ん」

と、洗濯を干しに行って、そしてしばらく、子供たちの前には戻って来なかった。

 翌日、買物から帰って、玄関のカギを開けようとしたら・・・・・・

<サンタさん、いろいろたいへんでしょうが、
ぼくたちがいいい子だとおもったら、ゲームをください> 

というハリガミが貼ってあった。
 
 これでゲームあげなかったら、どう解釈するんだ、ヤツラは!

 今年から、脱サラして始めた自営業。
ちっとも自ら営めていない業績の、自営業。
おとーちゃんと、おかーちゃんは、ピンチピンチピンチなのだ。
いいか、聞くのだ、わが息子達よ。
ゲームなんて買わなくても、今君たちは、リアルなロール・プレイング・ゲームをしているのだよ。

大きなかばんを提げて海を渡らなくても、毎日冒険の旅をしているんだ。
泣かしたり泣かされたりしながら、自分でも気づかないうちに
見えない敵を倒したり、倒されたりしている。
ヒットポイントも少しづつ上がっているし、魔法だって覚えてる。

二次元のゲームばかりしてると、経験値上がらないぞ。
画面から目を上げて、リアルな世界を見渡せよ。

ドキドキすることがいっぱいあるんだよ。
マジで怖いことも、山ほどある。
画面の中よりも、ずっとずっと、面白いのになあ。

そうだ!
 今年は、母さん、サンタさんにアレをもらおう。

 <リアルなRPGを楽しむ心>を。

 玄関ドアの外側に、貼っておこう。
それがいいね。


             (おわり)

2001.11.22 あかじそ作