「 予定調和 」


 知り合いの中に、コンビニでパートをしている人がいる。
 学校の役員選考の会合で久しぶりに会い、世間話をしているうちに、
彼女から面白い話を聞いた。

 「夕方、レジを打っていたら、店の中に車が飛び込んできたの」

 「えええっ!」

 「ガラス突き破って、目の前にダダダダダダダダ〜ッ、って、車が入ってきて」

 「うんうん!」

 「雑誌を立ち読みしていたおばあさんが、なぎ倒されて」

 「えええええええ!!!!!」

 「車の下にもぐりこんだように見えたから、もう、完全に轢かれたと思ったの」

 「それで?!」

 「大丈夫だったの! 車止めごと押し込んできたから、それがタイヤ塞いでて、おばあさん轢かれなかったのよ!」

 「おお〜〜〜! よかった〜〜〜!」

 「店の前面のガラス、全部割れて」

 「うんうん」

 「それから来るお客さん来るお客さん、みんなに事情聞かれて」

 「はいはい」

 「最初は、私も興奮してるから、一生懸命身振り手振りで説明するんだけど」

 「うん」

 「そのうち、同じ質問されるのに疲れちゃって」

 「まあねえ」

 「しまいには、ただ、『大変でした』って繰り返してた」

 「ま、そうなるわなあ」

 「でね! これじゃあ、明日からしばらく仕事休みかなあ、って思ってたの」

 「そうだよねえ!」

 「でもね、店長は、警察とコンビニ本部に淡々と電話で連絡してさあ」

 「淡々と?」

 「そう。で、すごい速さで修理の人が来てさ、さ〜っと片づけて、1時間くらいでガラスも何も全部直っちゃったの」

 「ホントにぃ?!」

 「ホント、あっという間に元通りだよ! 壊れてる間も、淡々と通常営業だもん」

 「ええ〜!」

 「お客さんとか、ガラスまたぎまたぎ入って来て、普通におにぎりとか買って、また、またぎまたぎ帰っていくの」

 「本当か〜い!」

 「何か、すごいでしょう?」

 「凄いわぁ・・・・・・。だって、これって、よくテレビの【衝撃映像】とかで流れるアレでしょう?」

 「そうそう。その、テレビで見たまんまの映像が目の前で起こったのよ」

 「で・・・・・・淡々と直して何事も無かったかのように日常に戻ったってか?」

 「そうなのよ。というか、どっぷり日常の中の出来事だったのよ。びっくりしちゃったわ〜」

 「事故もびっくりだけど、その後の『はいはい』って慣れた感じで対処するのにもびっくりした」

 「もしかしたら、よくあることなんじゃないかなあ?」

 「そうだよねえ。きっとコンビニって、【コンビニ修理専門業者】みたいな所と契約してて
 『はい、じゃあ、今度は、○○町行って』って感じで出動させてるんじゃないの?」


 「そんな感じだったよ」

 「そう言えば、コンビニの店構えって、
 全面ガラスと、それをはめ込む為の簡単なサッシみたいな柱だけでできてるよね」

 「そうなの。だから、あっという間にパーツ組み立てて出来上がりだった」

 「はあ〜〜〜ん」

 「もう、店の正面はさ、突っ込まれるの前提で作られているんじゃないか、と思うわ」

 「ああ、それはあるかもね! どこも大手のコンビニは、そういう作りだもんね」

 「駐車場を店の真ん前に作るから、考えてみたら、車が突っ込む確立高いよね」

 「そうだよ! 車飛び込んでくるのなんて、コンビニ本社からしたら、予定調和なんだよ。
 で、『立ち読みしないでください』ってうるさく言うのは、人が轢かれないためなのかもよ」

 「ああ〜〜〜」

 「店長はみんな、本部の命令で【車突っ込み保険】に入らされてるとかさ」

 「だから店長、平然としてたのかしら」

 「ありえるよ〜」

 「うんうん」

 「怖いね〜、窓際。雑誌のところ、長く居たくない〜」

 「ホントよ。私らも、雑誌の前には長く居ないようになったもん」

 「そうだよね〜」

 「車止めの辺とか雑誌の前は、マジでヤバいわよ」

 「そうだよね〜。子供たちにも、その辺に長く居るなって言っとこうっと」

 「ホントよぉ」

 「で、飛び込んできた車って・・・・・・」

 「そうそう、もうねえ、ヨボヨボのおじいさんが運転しててね、
 車からヨボヨボ出てきて、『あのぅ・・・・・・、私、どうしたらいいでしょう?』なんて聞いてくるから、
 『どうしたらいいんでしょうかねえ?』ってこっちも聞き返しちゃったわよ」

 「へえ〜!」

 「怖いよね〜」

 「怖いくらい【日常どっぷり】だよねえ〜」

 「ねえ〜」


 コンビニ本部が「車突っ込み」を当たり前のように想定に入れて設計し、
予定調和の中に入れているとしたら・・・・・・
何だか、コンビニに対してじわじわと不信感が湧いてくる。

 店の人は、誰も、「そこ、轢かれますよ」とは、忠告してくれないし、
「『雑誌立ち読みしてるヤツなんて轢かれてもいい』と思っているのか」
と、文句を言いたくなる。
 それとも、車が突っ込んできても、車止めがイイ感じでタイヤに絡みついて、
人が轢かれないように巧みに設計してあるとか?

 う〜〜〜む。
 世の中には、我々の知らないところで、
こういった恐ろしい予定調和が山ほどあるのだろう。

 おお、怖い怖い。



  (了)



(話の駄菓子屋)2010.4.20.あかじそ作