「 映画を観よう 」


 最近、近所の映画館の会員になった。
 連日、家事育児に根を詰めて、
神経が疲弊しきっていることを危惧したからだ。

 大学生の頃は、時間に余裕があったため、
しょっちゅう、映画館をハシゴしては、
ロードショーから、昔の名画、傑作選など、
時間が許す限り、片っ端から観ていた。

 お金があろうが無かろうが、
映画を観ることは、食事をすることくらい当然のことで、
日常の中に溶け込んでいたのだ。

 ところが、結婚・出産してからこっち、
忙しさと生活費の足りなさで、
映画が優先順位の最下層になってしまった。

 常に乳幼児が2、3人コバンザメのように体にくっついていたため、
映画どころか、ひとりで買い物すら行けなかった。
 買い物どころか、ひとりになる時間が皆無だった。

 で、この春から末っ子が幼稚園に入り、
やっとひとりになる時間ができたため、
ひとりで買い物に行き、
家でも、ひとりでゆっくりできる時間を持てた。

 何と、20年ぶりに一息つけたのだった。
 すると、急に、昔の自分がよみがえってきた。


 映画・・・・・・

 映画観たいよ、映画。

 映画館の会員になれば、
週に2回は、1000円で映画が観られる。

 イライラして暴飲暴食するお金があったら、映画が観たい!!!

 大きなスクリーンで、いい音響で、映画を観たい。

 確かに、映画の内容は、家でDVDでも観られるけれど、
あの大画面とあの音、あの箱の空間で観てこその
映画なのだと思うのだ。

 チケットを買って、席に着き、
周りに全然知らない人たちが座り、
照明が落ち、
スクリーンにコマーシャルが流れだす。
 テレビで流れているのと同じコマーシャルでも、
映画館で観ると、全然違って見える。
 そのうち、映画の予告編が次々と流れ出し、
ドラマティックな物語が期待できる編集で、
予告編が大画面、大音量で流れる。

 そうかと思えば、
急に音が一切消え、
小屋の中の空気がピーンと張り詰める。
 大人数がいるにもかかわらず、何の音もせず、
みな息をひそめて、次の音が出るまで緊張して待つ。

 そしてまた、
大音量での予告が始まる。

 映画本編は、もちろん、
そういうことのひとつひとつをひっくるめて、
映画なのだと思う。

 映画の凄いところは、
ちょっとした衣擦れの音や、
椅子を立つときの金属のきしむ音など、
ほんの小さな生活音も拾い、
観ている者のすぐ近くで鳴っているように感じるところだ。

 テレビやDVDでは、聴き逃してしまうような、
小さな小さな生活音が、
あの映画館の静寂の中では、
神経の奥の奥まで沁み入ってくる。

 何気ない風景も、スクリーンで観れば、
視界いっぱいに広がっているので、
家で小さな画面で観るのとは、臨場感が段違いだ。

 家で観れば、何てことない作品でも、
映画館で観れば、ドラマティックに感じられる。

 逆に、映画館で観て感激した作品も、
テレビで観たら、ガッカリしてしまうことも、しょっちゅうだ。

 だからこそ、だ。

 だからこそ、映画館で観たい。

 日常から切り離された空間で、
五感をフルに使って映画を観たい。

 そうすれば、何てことない毎日が、
ドラマティックに感じられてくるじゃないか。

 あんな地味な作業、
こんなみじめな出来事も、
「今、このアングルから撮られていて、こんなBGMに乗り、
その中で、私という登場人物がこう動いている」と思えば、
日常の一瞬一瞬が、映画のワンシーンのように思えてくるし、
自分の人生が、ドキュメンタリータッチで映像として見えてくる。

 人生がキラキラして見えてくる、ということだ。

 映画を観た後も、しばらくの間、
映画の延長戦で、五感が働き続ける。

 それがいい。


 最近観たのは、
「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」と
「FLOWERS」だ。


 「RAILWAYS」は、50歳目前のエリートサラリーマンが、
出世目前で、子供のころからの夢「電車の運転士になる」
という夢をかなえる、という実話をもとにした話だ。

 私は、若干、鉄子(鉄道ファン)気味なので、
のどかな田園風景の中、ローカル電車が走り抜けていくシーンが良かった。

 主演の中井貴一だが、
私は、テレビドラマ「はだしのゲン」の父親役をやっていた時の彼が一番好きだ。
 また、出演者の三浦貴大は、
私が青春のすべてを捧げた(?)三浦友和と百恵ちゃんの次男だ。
 百恵ちゃんにとても似ている。

 ああ、友和と百恵ちゃんの結婚式の日も、
長男・祐太朗くんが生まれた日も、
次男・貴大くんが生まれた日も、
私は、学校を休んだっけ。

 何だかわからないが、物凄くショックだったからだ。
 あれから何十年も経って、
彼らの息子たちの活躍を見ることになるとは!

 感慨深い!!!
 SF並に「光陰矢のごとし」じゃないか!!!
 何十年という年月が、一瞬で駆け抜けていったというのか?!
 は〜〜〜〜〜〜〜っ!

 ・・・・・・話がそれまくったので、元に戻そう。


 「FLOWERS」は、
祖母、母、おば、娘たち、と、
3代にわたって、女性たちそれぞれの人生を描いた話だ。

 女性の生き方は、多様化してきて、
映画の中では、そのどれをも肯定しているが、
特に印象に残ったのは、
「普通の家庭の主婦」を輝かしく描いたところだ。

 「平凡の美しさ」をよく表現できていて感動した。
 仲間由紀恵の専業主婦ぶりが、物凄くよかった。
 イノッチも、「若い夫」を好演していたと思う。


 さて、もうすぐ夏休みだ。

 ひとりでゆっくり映画を観るというよりも、
おそらく小さな子供たちを連れて、
ピクサーやジブリの映画を観ることになるだろう。

 夏休みが明けたらすぐに、
ひとりで、大人っぽい名画リクエスト作品を観るのを楽しみにしながら、
子連れで映画館に行こう。

 引率のつもりが、
子供よりも感動して帰ってくるのがオチだけれど。




  (了)

(話の駄菓子屋)2010.7.6.あかじそ作