「 今日の取っ組み合い 」


 子供たちが、なかなかお風呂に入ってくれない。
 ごろごろと茶の間に隙間無く、3〜4人の中高生が転がり、
ある者は、携帯を片手に、ある者はテレビを見ながら、
でかい図体でごろごろごろごろ、動きゃあしない。

 「早くお風呂入って! お湯張ってからもう1時間経っちゃったじゃないの!」
と、言うと、

 「お前から入れよ」
 「やだ、自分が先入れ」
 「誰でもいいから早く入っちゃってよ! 冷めちゃうでしょ!」
 「よし! じゃんけん! 
 ♪出っさなっきゃ負っけだ〜よ、文句は無しよっ、
 最初はグー! じゃんけんぽい!」
 「よっしゃ〜!」
 「うわ〜!」
 「よし、2番目じゃんけん。
 ♪出っさなっきゃ負っけだ〜よ、文句は無しよっ、
 最初はグー! じゃんけんぽい!」
 「あ〜〜〜!」
 「イェ〜〜〜イ!」

 と、一連の流れがあり、
いつもなら一応、入浴の順番が決まり、
どんどん入ってくれるのだが、
この日は、いつもたっぷり1時間入る次男が居眠りして起きなかった。

 いくら起こしても全然起きず、
腕を引っ張って無理やり起こすと、
「もう!」
と言って、2階の部屋に駆け上がり、自分のベッドに入ってしまった。

 三男が追いかけて行って、次男の耳元で、
「入れよ〜! 早く〜!」
と、叫び、長男のドラムのスティックでフライパンを叩きまくった。

 それでも次男が布団をかぶり、一向に起きる様子が無かったので、
三男は、フライパンを次男の頭にかぶせ、
ハードロックのドラムスよろしく激しく叩きまくったのでたまらない。

 「うお〜〜〜! 耳が〜〜〜!」

 次男は、飛び起き、
三男目がけて飛びかかって行った。

 「ひゃっほ〜〜〜!」

 三男が階段をバタバタ駆け降りてきて、
その後、一層大きな音で駆け降りてきた次男。

 いきなり三男に襲いかかり、覆いかぶさって、
三男の顔を床に押し付けている。

 「やめなさいよ!」
 私が、次男を後ろから羽交い締めにし、
四男が三男の前に立ちふさがって次男の腕を押さえた。

 ところが、次男も高校生、本気で怒っているから、
手に負えない。

 昼間学校で尾てい骨を打って怪我をしている三男に、
容赦無用にのしかかっていく。

 「やめて! もうやめてよ!」
 四男は、三男と次男の間に挟まれ、
自分ものしかかられて、ウウウウうめいている。

 「いい加減にしな!」
 私は、力の限り反り返って次男を三男からひきはがし、
馬乗りになって動けないようにした。

 「お前は上に行ってな!」
 三男に言うと、三男は、
「でも、お母さんが・・・・・・」
と言ってその場でもぞもぞしている。

 「明日体育祭だろ、これ以上怪我してどうする! 早く行け!」

 三男が私の声に押し出されるように2階に駆け上がると、
次男は、私を跳ねのけ、追いかけて階段を昇ろうとした。

 「待てぃ!」
 私は、すかさず次男に飛びつき、階段の下で立ちふさがった。

 「暴力はやめなさい!」
 「うるさい! あいつが悪いんだよ!」
 「風呂入れって起こしたんでしょうが!」
 「鼓膜破れたんだよぅ!」
 「破れるか、バカ!」
 「破れたんだよお! あの馬鹿、ブッ飛ばしてやる!」
 「破れるか、ほんなもん! 落ち着きなさいよ!」
 「おい! 逃げるな! こっち来いよ!」
 「夜なんだから、静かに! 近所迷惑だから!」
 「おい〜! 降りてこいよ! この丸ハゲ野郎!」
 「自分も坊主頭でしょうに! いいから、落ち着きなさい!」
 「うお〜〜〜〜!」
 「うお〜、じゃないよ、静かにしろ!!」
 「うお〜〜〜! うお〜〜〜!!!」
 「暴れないでよ! バカか! お前は!」

 階段下で私と次男がつかみ合いをしていると、
三男が慌てて駆け降りてきて、

 「おい! お母さんに暴力振るうなよ!」
と、次男に叫んだ。

 「お前のせいだ! お前のせいなんだからな〜!」
と次男が更に私とつかみ合う。

 「やめて! お母さんが怪我しちゃう!」
 三男が泣き叫んで次男に飛びかかっていく。

 「いいからお前は下がってろ」
と私が言うと、
「お母さんこそ逃げて! 怪我しちゃう!」
と、三男は、号泣しながら次男に飛びかかって行った。

 私が三男を後ろに追いやり、
また次男と取っ組み合いをしていると、
三男は、
「やめて〜! この通り! この通りだからあ!」
と、床に土下座して叫ぶ。

 その間、四男は、泣きながら次男の腕を押さえている。

 「もう風呂入らなくていいから、寝ろ!」
 私が次男に怒鳴ると、次男は、
「だからさっきから寝ようとしてたんだろ!」
と言って、ドカドカと階段を上がり、
自分のベッドにもぐりこんで行った。

 私がそれを追いかけて2階に行こうとすると、三男は、
「お母さん、行っちゃダメ! 危ないよ!」
と叫ぶ。

 私は、ベッドにもぐりこんでフンフン言っている次男に言った。

 「もう高校生なんだから、全力で暴れたら、人殺しちゃうぞ。
わかってるんだろうな?」

 すると、次男は、
「わかってるよ」
と言って、静かになった。

 「おやすみ。明日は、部活無いんだよね?」
と聞くと、次男は、
「無い」
と言って、すぐに寝息を立てた。

 階下に降りると、三男が
「お母さん、大丈夫だった?」
と心配して聞いてきたので、
 「平気だよ、あんなの。
それより、あいつ、寝入りばな起こすと2歳児になっちゃうんだから、
起こしちゃダメだよ、危険だぞ」
 と言い、冷蔵庫から冷えた麦茶を出して、
コップに注ぎ、グビグビ飲み干した。


 爽やかな気持ちでいっぱいだった。


 三男は、本気で私を心配してくれている。
 自分を守ろうとする母親の姿に感激しているようだった。

 次男は、私に対して、一発も殴ってこなかった。
 どんなに激昂しても、母親に手は上げなかった。

 四男は、兄を守ろうと、母を守ろうと、必死だった。


 そのことが嬉しかった。

 久しぶりに物凄い取っ組み合いだったが、
そこには、愛がいっぱいあふれていた。

 「お母さん、こんな家庭内暴力、嫌だよね」
と、三男が恐る恐る言うので、
「ぜ〜んぜん! お母さんの子供時代は、じいが毎晩暴れて、
夕飯の後、毎晩一家揃って取っ組み合いタイムだったよ。
 いい運動になるんだよ、これが。
 懐かしいよ、逆に。
 お母さんにとっては、これぞアットホームだよ」
と笑いながら言ってやった。

 「あ〜はははははっ」
 嬉しそうに三男は笑うと、スキップしながら隣の部屋に行ってしまった。


 今日の取っ組み合い、終了。

 これ、家庭内暴力とか言わないよね?
 熱血スキンシップでしょう?
 暑苦しいハグの応酬だよねえ?



  (了)

(子だくさん)2010.9.21.あかじそ作