「 未記録日記より 」


 平成22年12月5日(日)


 三男の野球の試合に送り出すため、朝、5時半に起床。
 朝食と弁当と水筒の準備をして、三男を起こすと、微熱があった。
 本人、しんどいということで、休むことに。

 顧問の先生に電話連絡。
 自宅に電話しても留守電で、直接つながらないので、
念のため、携帯電話の方にも連絡。また留守電。
 移動中か。

 一度目が覚めてしまうと、二度寝ができないタチなので、
引き続き台所に立ち、
三男以外の子供たちなど、家族の分の朝食にと、
シャケフレークでおにぎりを16個握っておいた。

 化粧をし、仕事の支度をして、
午前8時前に到着する荷物を待つ。

 日曜日は、休みを取る人が多いため、
届け先が減り、荷物は、平日よりも早く届く。
 大きなプラスチックのコンテナ3個分の荷物が届く。

 中には、大小の封筒や通販のカタログ、小荷物などが、
パンパンに詰め込まれている。

 伝票を見たら、180冊とあった。
 まあまあか。
 冊数の割にカサが多いのは、通販のカタログが一冊一冊、
物凄くぶ厚くて重いからだろう。

 重くて大変な割に、冊数が少ないから、
今日は、あまり割の良くない日、のパターンだ。

 まあ、いい。

 とっとと荷物を家の中に運び込み、
地図を見ながら配達順に並び変える作業に入ろう。

 飛び地や、歩道の細い危険な道路沿いにある家など、
何件かある「憂鬱なお届け先」も含まれていたり、
一軒で数冊のカタログを取り寄せている家もある。
 一軒で数冊届ける、ということは、
一冊何円、の出来高制で配達しているため、
非常にお得感がある。
 一軒で数軒分の収入になるのだ。

 かと思えば、ネットで買った商品など、
大きかったり、厚かったりして、郵便受けに入らないものは、
インターフォンを鳴らして、家の人に直接渡すのだが、
きょうび、どこの家も留守のことが多く、
たいてい、連絡票を書いて入れることになる。
 連絡票には、お届け番号12桁と、お届け先の住所、
お届け先のお名前、送り主の名前、連絡事項など、
結構書き込むことが多く、ちょっとめんどくさかったりする。

 しかし、この連絡票を入れると入れないとでは、
トラブルの回避率が断然違う。
 転居の多いアパートなどで、住人が特定できないときは、
必ず連絡票を入れて確認してからでないと、
商品などの場合、大きなトラブルの原因となるのだ。

 そんなわけで、この連絡票を多く入れなければならない日は、
ちょっと手間だ。
 まあ、今日は、幸い天気がいいから良かった。
 これが暴風雨の日などだと、
紙の連絡票は濡れるわ、濡れてペンは書けなくなるわ、
もう、ラチがあかない。

 ほんと、「天気がいい」って素晴らしい。

 さて、一冊一冊、住所氏名を確認しながら配達順に並べていると、
子供たちが順次起きてきた。
 各自、居間に広げた配達物の隙間隙間に座って、
シャケのおにぎりをほおばっている。

 1時間半後、何とか順番通りに並べ終わり、
地図と共に、所番地ごとに袋に入れて、
自転車に積み込む。
 制服を着用し、キャップをかぶり、
作業用白手袋をして、出発だ。

 2年前には、「お母さんお仕事行かないで」と泣いていた末の娘も、
今や「気を付けてね」と言って、携帯電話を手渡してくれる。

 さあ、仕事だ。

 家族のため、身動きとれないほどに働き詰めになる家の中から飛び出し、
単身、身軽にチャリンコでかっ飛ばせるこの配達の仕事は、
私の身も心も自由にしてくれる。


「おはようございま〜す!」
「お届け物で〜す!」
と、大きな声を出し、
「ありがと〜!」
「ごくろうさ〜ん!」
と声を掛けられ、
「ありがとうございま〜す!」
と笑顔を返す。

 もちろん、時々、無視されたり、邪魔にされたり、
無茶なクレームを付けられたりもするが、
それは、全体の中のほんの一握りで、
ほとんどの人が、「お疲れ様!」と、ねぎらってくれる。

 出発するときは、自転車に満載だった荷物が、
一冊一冊、確認しながら、地道に確実に投函することで、
いつの間にか減っていき、
最後は、空っぽになっている。

 この達成感。

 こんなにも、一目瞭然、
目に見える達成感を得られる仕事があるだろうか?

 毎日、休みなく必死に働き続けても、
すぐに目に見える結果の出ない家事育児と比べると、
実に理屈抜きで気持ちのいいものだ。
 心の報酬額は、バブル並だ。

 さて、180冊を、
心を無にして配達し、
2時間弱で岐路につく。

 さて、我が息子たちは、仕事に精を出す母をねぎらい、
「お母さん、昼ごはん作っておいたよ」
くらい言ってくれるかな?
 ・・・・・・と、淡い期待をしながら家に入ると、
直径150センチの巨大ちゃぶ台の上は、
紙くずや布切れ、折り紙や新聞紙、
ハサミ、カッター、物差し、針金、粘土、糸くず、クレヨン、空箱など、
隙間なく、びっちりと、山盛りに散らかしてある。

「何これ!」
 私が叫ぶと、
「明日バアバ誕生日だから、みんなでプレゼント作ってるの」
と、四男が言う。

 「あ、そうなんだ」

 見れば、幼稚園児の長女が画用紙にバアバの絵を描き、
四男が小さな箱からいろいろ飾りが飛び出す仕掛けを作り、
三男が箱をベースに、水族館と称していろいろな魚の折り紙を飾り付けている。

 その山盛りの紙屑の中の、A4サイズの隙間で、
次男が期末試験前の課題をしている。
 よく見ると、問題集の数学の解答をノートに丸写しして、
勉強した気になっているようだ。

 「答え写しちゃ意味無いじゃん。自分で解かなきゃ」
と言うと、
「いいの。僕の人生に数学関係ないの」
などと、しれっと言いやがる。

 その横で、長男が、
大学の建築科の受験で提出する建築模型を作っている。
 自然公園や動物園などに設置される公衆トイレを設計し、
箱庭のように、細かい模型を作っていく。

 「あ〜〜〜! もっと物理の勉強しなきゃいけないのに〜!
工作してる暇無いのに〜! あせる〜〜〜!」
と言いながら、受験生のジレンマを叫んでいる。

 そんなわけで、肉体労働でくったくた、腹ぺッコペコの母親に、
「ご飯作っておいたよ」
などと言うヤツは、誰一人いないのだった。

 ああ、何だか、頭がクラクラする・・・・・・
 めまいが・・・・・・

 「お母さん、めまいがするんだけど」  
と、聞えよがしに言ってみたが、反応無し。

 それどころか、
「お母さん、昼ご飯まだ?!」
などと少し切れ気味に叫んでくるヤツもいるではないか?

「ご飯まだ、って、お母さん、今仕事から帰ってきたばかりじゃないのよ?!」
と言うと、
「え〜? 用意して行ってなかったの?」
と言う。

「おにぎりは作ってあったでしょ?」
と言うと、
「あ、シャケのは、いいや」
などと言う。

 「なんだ、それ! 出されたモン食べろよなあ!」
と、言ってやると、
「シャケは、ちょっと」
と、こちらを見もしないで言う。

「『ちょっと』ってなんだコラ!」
 低血糖でイライラしながら怒鳴ってやると、
「ああ、ごめんごめん、我慢する」
と言ってくる。

 「我慢するほどまずいもの作ってないんだよ〜!」
と怒鳴ると、もう、本当にガスケツで倒れそうになった。

 「あ、ダメだ。とりあえず朝の残りのおにぎり食べよう」
と、おにぎりを一口食べると、誰かから、
「ナイス残飯処理!」
という掛け声が掛かった。

 「残飯だと〜?!」
ご飯粒を口からぶちまけながらちゃぶ台まで飛び出していくと、
各自、自分の工作物を飯粒から守ろうと両手でかばっている。

 「ひどいぞ! おまえたち〜!」

 結局、全員、
一切、作業の手を止めるどころか、
顔さえ上げず、
ふらつく私の作ったインスタントラーメン6杯が出来上がるまで、
自分のことだけに没頭し続けた。

 「できたよ〜!」
と言うと、モーゼの十戒のごとく、
海が割れるように、みるみるそれらは片付き、
食事スペースが生まれるのだった。

 (こやつら〜〜〜!!!)

 作ってもらえるのを当たり前だと思うなよ〜!
 もう!!!

 働くのも、食事作るのも、片づけるのも、
掃除するのも、洗濯するのも、買い物するのも、何もかも、
みんなカーチャンまかせとは、
甘えるのもいい加減にしろよ、マジで!

 分担しろよ! 分担!
 こんなに人手があるんだからさ!
 (夫を含む)6人が、遠慮なく、めいっぱい散らかして!
 朝から晩まで、1人で片づけばっかりしてる人間がいることを忘れるなよ、オラ!

 6:1って、割合おかしいよねえ?
 おかしいよ! ほんと〜に!

 聞いてる?
 ねえ、聞いてる? あんたたち?!

 聞いてない・・・・・・

 誰も聞いてない・・・・・・

 もういいよ、もう! もういい!

 それどころか、
長男が、明日、作った模型を学校に持参して、
進学担当の先生に見てもらわなければならないとかで、
「お母さん、朝、車で送ってくれない?」
などと言う。

「ごめん、できないわ。明日も仕事だよ。自分で電車で持って行ってよ」
と言うと、
「どうやってこんなデカイ物持って行くんだよ〜!」
と、ちゃぶ台に突っ伏して嘆いている。

 「デカイ紙袋あるよ」
と言うと、
「嫌だよ、電車でこんなの持って行くの、格好悪いよ! 絶対無理〜!」
と言う。

 「無理じゃないよ、持てるでしょ」
と言うと、
「違うよ、お母さん。物理的には、持てるけど、精神的にムリ〜、なんだよ!」
と言う。

 「アホか! 甘えるな! 『ムリ〜』って言うな! それ大っきらいよお母さん」
 「ノーならノーと言え!」
 「『ムリ〜〜〜』って!」
 「まるで『自分的にはイエスですけど、誰かの差し金でやむを得ずできません』
 ・・・・・・みたいな、いやらしい逃げ口上すんな!」
 「持ってけ、ったら、持ってきゃあいいんだよ!」

と、たたみかけると、小さな声で、
「ム〜リ〜・・・・・・」 
と、まだ言っている。

 こっちがムリ〜、だよ、まったく!

 「僕、明日、自転車で行くよ。段ボールに入れて荷台に積んで行く」 

 「別にいいけど、かっ飛ばしていくと、揺れて壊れるよ。よっぽどゆっくり走らないと」

 「わかってるよ。明日、いつもより早く起こして」

 「起こして、じゃないでしょ、自分で携帯のアラームセットして、自分で起きなさいよ」

 「ム〜〜〜・・・・・・」

 「なにぃ?! なにい?!」

 「いえ、自分で起きます」

 「そうだよ! それでいいんだよ!」


 しかし、午後になっても、全員工作の手を休めず、
長男も、一向に段ボールを手配しようとする気配がない。

 「○○薬局に、段ボールもらいに行ったら?」
と言うと、
「ちょっと今、手が離せないところやってるから」
と言ってちっとも動かない。
 確かに、粘土で箱庭の部分を作っていて、
全部塗りつけるまで手を休められない状態だったので、
仕方なく、私が買い物に行ったついでにスーパーでもらってくることにした。

 「ちょっと買い物に行ってくるから」
と言うと、
「甘いもの買ってきて〜!」
「お菓子買ってきてね〜!」
「段ボールよろしく〜!」
「はやくかえってきてね〜!」
「気を付けてね〜!」
と5人の子供たち全員から返事をもらったが、
誰一人こちらに顔を向けることなく、工作に熱中しているのだった。

 どんだけ工作好きなんだ、この人たち!!!
 確かに私も昔から図画工作大好きだけど、
この集中力、ちょっと異常だぞ!

 まあ、いい。

 私は、相変わらずめまいをもよおしながらも、
ほっぺを叩いて自分に気合いを入れ、
車に乗り込んで買い物に出かけた。

 豚肉1キロ。牛乳2本。弁当用にミートボール2連パック×2。
 食パン2斤。シャケフレーク2瓶パック。やまといも。たまねぎ。
 白菜、人参、長ネギ、ミカン。
 何だこれ、ちっちゃ。子供たち喜ぶな、買って行こう、姫リンゴ。
 そうそう、甘いもの・・・・・・ドーナツ7個入りパック。
 お菓子・・・・・・湖池屋ポテトチップ、ソラマメ系のスナック菓子。
 それから、私の、仕事終わりに「自分へのご褒美」で食べる板チョコ。
 そうそう、みんな風邪ひいてるから、4連パックのアロエヨーグルト。
 長女はミルクアレルギーでヨーグルト食べられないから、3色ゼリー。
 それから、ミルクの入ってない、星の形のポテト。長女の弁当用。
 あ、トイレットペーパー12ロール入り、178円、安い。2パック買おう。
 車だから大きいのも買っとこう。
 それから、それから・・・・・・ふりかけ買って、って前から言われてたな。
 ふりかけふりかけ・・・・・・なにこれ! 【ばかうけ味ふりかけ】って!
 面白い! 「買い」だ、「買い」!
 それから、そうだ、百均に寄って、建築模型の材料の追加買わなきゃ。

 それから、それから・・・・・・
 もういいか。

 え?
 ニコニコカード?
 はい、持ってます持ってます。
 あ、今日、ポイント2倍デ―ですか。
 やった〜。

 え?
 ゲッチュチケット?
 なんすか、それ?
 え? 50円引きになる?
 いや、無いです。
 いや、前にもらったかもしれませんけど、持ってくるの忘れました。

 はい。はい。いいです。
 ゲッチュチケット無しの値段で結構です。

 え?
 いえいえ。
 ゲッチュチケット無いので。
 はい。
 いやいや、ゲッチュチケット持ってこなかったので。

 いや、ゲッチュ・・・・・・

 (ああ、もう、「ゲッチュチケット」って言いたくない・・・・・・)

 はい、5,238円。はい。
 あ、8円あります。・・・・・・6、7・・・・・あ、ない!
 ごめんなさい、8円無いです。5,240円で。
 はい。はい、すみませ〜ん。お世話さまで〜す。

 は〜〜〜〜〜〜〜〜。

 うわ!
 ビニール4袋に、トイレットペーパー2パック。
 うわあ〜、持ちきれん。
 よいしょ! はっ! う〜〜〜。
 持、つ、に、は、持、て、た、が・・・・・・、指の股、裂けそう!

 ううう・・・・・・いってえ・・・・・・・重い〜〜〜〜〜!!!

 はい〜〜〜!!!
 車に積んだ〜〜〜!!!

 は〜〜〜〜〜。

 いやいやいやいや、重かった〜!

 ・・・・・・ちょっと、その車、無茶すんなって!
 右折強引! あっぶないなあ!
 そんなに急いだって、次の信号で絶対止まるっての!
 ほらね! 止まった!

 あ〜あ〜あ〜。
 ウインカー出せよ、バカ、危ないなあ、もう!
 あ、逆光!
 まぶし!
 目が痛い〜!

 は〜〜〜。

 メガネの上に掛けるサングラス買おうかなあ・・・・・・

 よし、着いた。
 「お〜い、ドア開けて〜!」
 「お〜〜〜い!」

 「トイレットペーパー、トイレに持ってって。
 それから、えっと・・・・・・・あ!」

 あ〜〜〜〜〜!!!
 段ボールもらうの忘れた!!!

 ゲッチュチケットゲッチュチケット言ってたら、忘れた!

 「もう一回、行ってくる。
 ちょっと、これ、冷蔵庫に入れといて!
 肉は、チルド室ね!」

 「じゃ、行ってくるね!」

 「あ、あんたドーナツとヨーグルト食べないでよ! ミルク入ってるよ!」
 「みんな、ちゃんと見てやってよ! 頼むよ!」

 よし、スーパーじゃなくて、近場の○○薬局行こう。


 ・・・・・・よし、着いた。
 よしよし、駐車場、空いてる。ラッキー。

 「すみませ〜ん。段ボールもらって・・・・・・あ、はい、すみませ〜ん」

 よし。ちょうどいい大きさは・・・・・・
 何だ、この人。大きい箱探してるのか?
 あ〜あ〜あ〜あ〜。
 そんな下の方引っ張ったって、出ない出ない。

 「手伝いましょうか?」
 「あ、どうも〜」
 「私持ち上げてるので、どうぞ」
 「あ、はあ」
 「よいしょ!」
 「これ欲しいのよ・・・・・・」
 「あ、ダイジョブですか? よいしょ!」
 「なかなか取れないわ、えい!」
 「あ、取れました? あ〜、よかったよかった」
 「何探してるんですか?」
 「え? あ、私は、中くらいのを探してるんですけど」
 「はあ」
 「あ、これは?」
 「ああ、いいですね」
 「取りましょうよ」
 「あ、はい、いっせーの、ハイ! あ、取れました?」
 「取れたわ〜」
 「ああ、よかったよかった〜」

 え?!

 えええええええ〜〜〜?!

 今のは、私の分じゃなかったの?
 あ〜あ、全部ひとりで持ってっちゃった。

 ひどいな〜。図々しいおばちゃんだよ、まったく・・・・・・
 持ちつ持たれつだろうが・・・・・・もう・・・・・・

 あ、これいいな。
 ちょうどいいぞ。

 よし、帰ろう。


 「ただいま〜」
 「夕飯何?」
 「え? 夕飯? 鍋。白菜と豚肉のショウガ鍋」
 「うまそう!」
 「でしょう? 体あったまるよ〜。風邪っぴきいっぱいいるからね〜」

 え!!!!!

 何だよ、そのちゃぶ台の上は〜〜〜!!!
 散らかりすぎだろ〜〜〜!!

 「おかあさん、ジュースは〜?」
 「え? ジュース? 買ってないよ」
 「え〜〜〜!ジュース! ジュース!」
 「無いの! ゼリーあるからいいでしょう?」
 「うわ〜〜〜〜〜〜ん!!!」
 「・・・・・・」
 「ジュ〜ス〜〜〜〜〜!!!」
 「泣くな!」
 「ジュ〜〜〜〜ス〜〜〜〜のむ〜〜〜〜〜!!!」
 「も〜〜〜〜〜、泣かないの! わがまま言わないの!」
 「のむのむのむのむ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 「・・・・・・(ぷるぷるぷるぷる)・・・・・・」
 「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 「は〜〜〜〜〜」

 ああ・・・・・めまいがする・・・・・
 頭痛い〜〜〜。


「お母さん、はら減った! まだ?」
 「え? ああ、今作るから」
 「もうお腹ぺこぺこなんだよ!」
 「洗濯物取りこんだら、すぐ作るから」
 「早く〜〜〜!!!」
 「あれ? 皿洗ってない・・・・・・頼んでおいたよねえ?」
 「知らないよ。誰だよ、頼まれたの」
 「何だよ〜。じゃあ、洗濯物取りこんで、皿洗って、それからご飯作るから」
 「え〜〜〜!」
 「え〜、って言うなら、何か手伝ってよ」
 「こっちは、忙しいんだよ」
 「こっちだって忙しいよ、お母さんが一番忙しいでしょうが」
 「え〜〜〜」
 「は〜〜〜〜〜」

 頭痛い〜〜〜。
 気持ち悪くなってきた・・・・・・


 「この山盛り洗濯物、たたむの、手伝って〜!」
 「・・・・・・」
 「手伝って!」
 「・・・・・・」
 「手伝え!!!」


 はあ・・・はあ・・・・・

 「ご飯まだ?」
 「今作ってる」


 はあ、はあ・・・・・・

 「あと何時間かかるの?!」 
 「今作ってるから!」

 あ〜〜〜、頭痛い・・・・・・

 「ご飯7時過ぎちゃう系?」
 「もうすぐできるから!!!」


 めまいする〜〜〜。
 あ〜、具合悪・・・・・・

 「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 「もう泣きやんで・・・・・・」
 「ゼリ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 「しつこいよ。もうご飯だから。ゼリーは、ご飯の後で」
 「いま食べたいの〜〜〜!!!」
 「ダメダメ」
 「ゼリーたべたらごはん〜〜〜!!!」
 「だ〜か〜ら〜」
 「さきゼリー!!!」
 「ご飯食べられなくなっちゃうでしょう? 後で!」
 「さき〜〜〜!!!」
 「後でだって!」
 「ゼリーさき〜〜〜!!! うわ〜〜〜〜〜!!!」
 「後でっ!!!」


 ああ、ふらふらする・・・・・・


 ガチャ。

 「え? お父さん帰ってきた?」
 「そうみたい」
 「おかえり〜」
 「・・・・・・」
 「え? 無反応?」
 「・・・・・・」
 「おかえり!」
 「もごもごもごもご」
 「お! か! え! り!」
 「もごもご」
 「・・・・・・」
 「え? 何?」
 「ただいま・・・・・・」
 「・・・・・・はあ〜あ、リアクション悪・・・・・・」

 具合悪いし、おやじに少し手伝っておう・・・・・・

 「お母さん、ご飯・・・・・・」
 「だからぁ、今作ってる!」
 「ゼリー!!!」
 「ご飯の後!」
 「このDVDってさ」
 「ちょっと、そういうのお父さんに言ってよ!」
 「お父さん居ないよ」
 「え? お父さんは?」
 「知らない」
 「え? 何で?」
 「どっか行ったみたい」
 「どこ行ったって? 知らない? 何やってんの、あのおっさんは・・・・・・」


地面が揺れてる〜〜〜。

 「うわ〜〜〜〜〜!!! ゼリー!!!」
 「だから〜。もう泣くなってば〜!」
 「ゼリーがたべたいだけなのに〜〜〜!!!」
 「ご飯食べたら食べていいって言ってるでしょう?」
 「ご飯まだ?」
 「だから今作ってるってば!!!」
 「あと何分系?」
 「もうすぐ系!!!」


 「ゼリーほしい〜〜〜!!!」
 「・・・・・・」
 「お腹すいたよ〜〜〜!!!」
 「・・・・・・」
 「おかず何だっけ?」
 「・・・・・・」
 「受験もうやめたい〜〜〜!!!」
 「・・・・・・」
 「数学嫌だよ〜〜〜!!!」
 「・・・・・・」

 もう・・・・・・
 もう・・・・・・
 も〜〜〜〜〜〜〜〜う・・・・・・

 うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!

 「もうイヤ!!!
 もう知らない!!!
 勝手にしろ! バカ!!!」

 うお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!


 ・・・・・・と言っても、5分後には、
また気を取り直してご飯作りを再開し、
配膳している私。

 夫は、眉間にしわを寄せてパソコンをいじっている。

 子供たちは、工作を続けている。


 ホントに、も〜〜〜!!!
 私は、ただ、ちょっとだけ座りたいのよ。
 一杯のコーヒーを飲みたいだけ。

 今日の新聞を読みたいだけよ・・・・・・





   (了)

(子だくさん)2010.12.7.あかじそ作