「 エアカニ 」 |
茶の間でテレビの情報番組を見ていた子供たちが、 みんなで声を揃えて「お〜〜〜っ!」と言った。 「何、どうしたの?」 と聞くと、 「食べるふりをするだけで本当に満腹感が得られるんだって」 と言う。 「え〜、ホントに〜?」 と言うと、 「でも、本当に食べている気持ちで、リアルに食べるふりしないとダメらしいよ」 と言う。 「マジか!」 先日、長男の進路が内定したのを祝って、 長男の希望で、スーパーのカニを買って食べたが、 何せ、1パック1280円の少量パックを7人でつついただけなので、 1人当たりふた口ぐらいの割り当てしかなかった。 そうなると、逆に「口がカニだけを待つ状態」になってしまい、 カニ欲求に拍車がかかってしまう。 それに、連日新聞もテレビのCMも、 カニの宣伝ばかりしている。 「このカニ、美味しいですね〜! むほむほ(カニ脚肉をほおばっている)」 「そうでしょう? 今回、この高級たらばガニを、3キロセットで!」 「いやいや、この際、これも、これも、これも、おまけにつけちゃいましょうよ!」 秤の上のザルに、カニ脚が何本も乗せられる。 「うわあ、困ったなあ、う〜ん、じゃあ、しょうがない、1キロだけですよ!」 「わ〜い、こ〜んなにいっぱい入って、何と、9980円! 9980円でお届けできます!」 「焼きガニ、鍋ものに最高ですよ〜!」 わざとらしい! 最初っから4キロセットのくせに! 毎年それやるんだから〜! バレてるっつーの! この時期カニの広告打てば、 みんなバンバン引っかかっちゃうんだから、 日本人もバカだよな〜〜〜!! 私が思いっきりテレビに突っ込んでいると、 長男が、 「でも食べたい・・・・・・カニ・・・・・・カニ食べたいよ〜〜〜!」 と叫んでいる。 「この間、ちょっと食べたじゃ〜ん」 「ちょっと食べたから、火がついちゃったんじゃない!」 「でも、カニは体冷やすからなあ・・・・・・高いし・・・・・・」 「お母さんだってカニ好きなんでしょ?」 「好きだよ! カニみそとか、たまんないよ! でもねえ、お母さん、高校生くらいの時から、めんどくさがりの両親に 『カニの殻剥け!』って命令されて、必死で何杯も殻剥いてさ、 剥き終ったら全部食べられてた、っていう辛いトラウマが・・・・・・」 「そりゃあ気の毒としか言えないけどさ」 「ていうか、あんたたちも、お母さんが剥いてやってるうちに、 お母さんの分も、カニみそも、全部食べちゃったことあるよね! あれ、ショックだわ〜! 哀しくなるわ〜!」 「ごめんごめん」 「各自、自分で剥こうよ今度から」 「え?! 買ってくれるの?」 「だから買えないって! 今、物入りなんだよ」 「え〜! お母さんだって絶対買いたいはずだよ。 毎朝、新聞のカニの広告のページ、ず〜〜〜っと開いたまま、 何度も生唾飲んだり首かしげたりしてしてるじゃん」 「え〜〜〜! お母さん、そんなことしてる?」 「毎日してるから」 「うっそ・・・・・・」 そんな会話をしていた最中だ。 「食べたふり」で「食べたような気になれる」という情報を聞いたのは。 「よし! じゃあ、みんなで今からエアカニしようぜぃ! ほら! バキッ!」 私は、見えない極太のカニ脚をバキっと折って、 ぶりりりりり〜ん、と見えないカニ肉を取り出し、 長男に手渡した。 「あ、ありがと」 長男は、それを重そうに受け取り、 片腕で高く持ち上げて、見えないカニ脚を目の前にぶら下げた。 そして、上を向き、 はぐはぐ、はぐはぐはぐ、と、口にカニ脚肉を突っ込んでいき、 そして、勢いよく首を横に振って、はぐ〜〜〜っ、と殻から身を引き抜いた。 「うんめ〜〜〜え!」 「そうそう! その調子! それを、本当に食べているような気持ちで噛んで、 飲み込むまで続けるのよ!」 「はぐ・・・はぐ・・・はぐはぐはぐ・・・・・・」 「どうだ! 旨いか?!」 「う〜〜〜ん! 食べたい! ホントのカニ!」 「あ〜〜〜〜!!! ダメか〜〜〜!!!」 何枚もスーパーのチラシを直径150センチのちゃぶ台の上に広げ、 「ほら! 物凄く豪華なおせち料理の数々! 食え! たらふく食え!」 と、私が言うと、子供たちは、一応、エアおせちを食べてみたが、 それぞれ無言で、いぶかしげに首をかしげている。 「ダメか、やっぱ!」 「ダメだよ〜〜〜、お母さん〜〜〜! 本物食べたいよ〜〜〜!」 「やっぱね〜〜〜!」 みんなでげらげら笑っていたら、幸せな気持ちになってきた。 エア幸せをやってたら、ホントの幸せになる。 これは、ホントみたいだな。 (了) |
(子だくさん)2010.12.28.あかじそ作 |