「 それは、何チョコと呼ぶのかい? 」


 先週くらいから、高1の次男が、
板チョコやら小さい個別包装用ビニールなどを
買いためているのは知っていた。

 小さい頃から、この男は、
ちょいちょい自分で料理を作っていたが、
それにしても、今回は、材料が多すぎやしないか?

 バレンタイン前日の日曜日、
朝から携帯を何度も見ながら(いつも携帯で作り方を調べているらしい)
クッキーを焼いていた。
 私は、その後、配達の仕事のため、外出したのだが、
昼ごろ帰宅したら、その生地は、ハートや星型にくりぬかれ、
こんがり美味しそうに焼き上がっていた。

 それにしても、量が多く、大皿に山盛りにしてあるので、
「一体何人にあげるの?」
と聞くと、
「クラスの人、30人分」
と言う。

 「おいおい、クラスには40人いるのに、30人って!
 どうせあげるなら全員にあげなよ。もらえない10人の気持ち! 考えて!」
と言うと、
「ああ、でも、早いもの順だから」
と次男は、言う。

 「いやいやいやいや、限定10名様なら、早いもの勝ちでいいと想うけど、
クラスの30人がもらえて、自分がもらえない10人に入ってたら、
お母さんだったら、へこむな〜!」
と言うと、
「予算の関係上、しょうがないの!」
と、次男は、言い切る。

 「いや、そうは言うけど、波乱を呼ぶと思うぞ〜」
と言うと、
「いいの!」
と、聞く耳持たない。

 昼ごはんを食べて、一息ついていると、次男が
「お母さん、湯せんてどうやるの?」
と聞くので、
「そこに中華鍋あるでしょ? そこにお湯わかして、
その上に金属のボール浮かべて、砕いたチョコ入れて、
かきまわしていればすぐに溶けるよ」
と言うと、
「あっそ」
と言って、次男は、
さっそくミルクチョコとホワイトチョコをそれぞれ湯せんし始めた。

 「お前、男がクラスのみんなに手作りチョコ配るのって、どうなの?
そういうの、最近は、ありなの?」
と、茶の間から台所の次男に声を掛けると、
「無いだろうね。僕は、そういうことが好きだからやるだけだよ。
誰かがどう思うからやるとかやらないとか、全然考えたことないけど」
と、次男は言う。

 私は、つくづく、
「自分の子供は、自分とは違う生き物なんだな」
と思う。

 当たり前のことだけれども、
こんな当たり前のことを全然わかっていない人がいかに多いことか。

 自分の思いどおりに子が動くのが当たり前だと思い込んでいる人が、
昔から物凄く多いような気がするのだ。

 その点、私は、ずいぶん早い段階で、
「こいつなんなんだ!!!」
という感情を子供たちに対して抱いてきたと思う。

 私のお腹からブリブリ出てきて、
私が私のやり方で、
私の考え方で育ててきたのにも関わらず、
子供たちときたら、
私とはまったく異質な考え方を現してくる。

 考え方どころか、感じ方も、現れる行動も、
全然、私が思いもしないような方へ行く。

 この次男に関しても、そうだ。
 私に顔も性格も似ているのに、
根本的に、何かが、決定的に違っている。

 私には無い、
「堂々と自分の生きたいように生きる! 誰が何と言おうと」!
という所を確固として持つ人間なのだ。

 ある意味、すげえな、と思う。

 そうこうしている間に、
小さなクッキーは、茶色や白のチョコにコーティングされ、
大皿に並べられて、冷蔵庫で冷やされていた。

 牛乳を飲もうと、冷蔵庫を開けた時、
一つだけ大きく、立派なチョコがあるのに気付き、
「この一個だけあるスペシャルバージョンは、本命チョコなの?」
と聞くと、次男は、
「いや、あれは、
友だちが明日【彼氏と付き合って一周年】だから、
僕に何かくれ、って言うから作った」

 「は? どういうこと?」

 「だからぁ、クラスの女の子の友だちが、
『明日で彼氏と付き合って一周年だから、
お祝いに何か作ってくれ』って僕に言うから作ったの」

 「な〜んだそりゃ。
 彼氏に何かプレゼントくれ、って言うんじゃなくて、
何で友だちのお前に催促するのよ?」

 よく見ると、そのハートの大きなチョコには、
黄色いバナナの香りのチョコペンで、
【KAORI & TAKAHIRO】
と書いてある。

 「お前・・・・・・これ・・・・・・どんな気持ちで作ってるの?」
 私は、あきれて次男に聞くと、
「そりゃあ、おめでとうっていう気持ちだよ」
と言う。

 「二人とも友だちだし、
いつまでも仲良くやっていって欲しいし、
お前たちがんばれよ、という気持ちで作ったに決まってるでしょ」
とも言う。

 「へ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

 私にゃあ、ぜん〜〜〜ぜん、わからない感覚だった。


 「お前、パティシエにでもなるの?」
と聞くと、
「別に」
と言う。

 「雑貨デザイナーになる」
と言う。

 はぁ〜〜〜〜〜〜ん。
 この男の頭の中が、全然、わからないけど、
まあ、仲のいい友だちがいて、
クラスでうまくやっていけてるということだけは、わかった。

 まあ、それで充分か。

 「ところで、それは、何チョコと呼ぶの?
 友チョコ? 義理チョコ? いや、逆チョコか?」
と聞くと、
「別に・・・・・・ただの僕の趣味のおすそわけ」
と言う。

 ふ〜〜〜ん。
 やっぱり、よくわからん。

 まあ、世間で名前が付けられてないモノ、
一般的でないコト、
それこそが、お前のオリジナルデザインの人生だもんね。

 好きにやれ!



  (了)

(子だくさん)2011.2.15.あかじそ作