「 入学手続き 」 |
配達の仕事中、携帯電話が鳴った。 知らない番号だったが、いつまでも鳴るので、 緊急の用事かもしれないと思い、電話に出た。 すると、雑音の向こうで 「(ガザガザガザガザ)・・・・・・山さんの携帯でよろしいですか?」 という若い女性の声が聞こえた。 「いいえ。違いますけど」 「あ、失礼しました」 電話は切れたが、その後、同じ番号から何度も掛かってきた。 「だから〜。違うってのに〜」 と、間違い電話には出ずに放っておいた。 仕事が終わり、携帯電話を見てみると、 【簡易留守録】にメッセージが残っているので、再生してみた。 すると、 「○○大学校ですが、入学手続きの書類に不備がありましたので、ご連絡ください」 という、さっきの女性の声だった。 「え? ○○大学校?!」 先日、長男の合格が決まった進学先だ。 さっき、『……山さんですか?』と言うから、てっきり間違い電話だと思っていたが、 間違い電話じゃなかったのか? 慌ててその学校に電話を掛けると、 さっきの人とは別の、何となく不機嫌な女性が出て、 すぐにさっきの女性に替わった。 「お電話をいただいたようなので、掛け直させていただいたのですが」 と言うと、まるで (さっきは、間違い電話の振りして、何度掛けても着信拒否したくせに!) という不信感満々の低い声で、 「入寮手続きに必要な書類が足りないので、急いで用意してください」 と言う。 長男の入学する学校には、格安の寮があり、 そこに入寮するためには、 世帯全体の正式な所得証明書を添えなければならないらしい。 そこで、夫の確定申告の控えを添付して送ったのだが、 母親の所得を証明する書類が付いてないではないか、と言うのだ。 「私は、運送会社の下請けで、少額しか稼いでいないので、申告していないのですが」 と言うと、 「役所に行って、所得証明書を取得して、それを送ってください」 と、言う。 しかも、兄弟の通学証明書も添付しろ、とも言う。 「幼稚園、小学校、中学校、高校、4人分ですか?」 と聞くと、 「いえ、高校生の分だけで結構です」 と言う。 その必要性が全然わからなかったが、 長男の進学や入寮が破棄になっては困るので、ここはおとなしく 「わかりました、すみませんでした。すぐ送ります」 と言って、電話を切った。 急いで次男の高校の事務室に電話をし、 「兄の進学先で使うので、通学証明書を発行してください」 と言うと、 「ご本人が2時間目の後の休み時間までに申し込みされれば、発行します」 と言う。 「今、私が申し込んで、次男に渡していただく、というのはダメでしょうか?」 と言うと、 「それはできないんです。お急ぎでしたら、お母様が直接事務室においでになって、 申し込んでいただければ、15分でできますけど」 と言う。 書類送付締め切りは数日後に迫っている。 なるべく早く発行してもらいたい。 「本人の母親に間違い無いので、緊急事態ということで、電話で申し込めませんか?」 と、申し出てみたが、 「決まりなので」 と言って、取り合ってくれない。 「はい、わかりました。ありがとうございました」 と言って電話を切ったが、う〜〜〜む、どうも、合点がいかない。 長男の高校だったら、こういうことは融通がきくのになあ・・・・・・ その後、私の勤め先の責任者に電話をし、 事の顛末を説明し、所得証明書的なものを会社から発行できないか、 と聞くと、 「あなたは、会社と契約している個人事業主扱いだから、 個別に給料とかいう記録は出ないのよ。 会社との契約書と、給料振り込み用の通帳のコピーを添付すれば、 正式な所得証明になるはずよ。それでやってみたら?」 と、丁寧に説明してくれた。 その旨を長男の進学先に言って、大丈夫かどうか確認しようと思い、 再び、電話をして、事情を説明すると、 今度は、先程とは、また別の、陰気な女性が電話に出て、 「はあ・・・・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・・」 と、だるそうに、まるでクレーマーからの電話対応のような受け答えだった。 そして、 「少々お待ちください」 と言って、だいぶ待たされ、今度は、男の人が電話に出てきた。 「どういたしました?」 最初から、不機嫌丸出しだった。 「あの、会社の方に聞きましたら、役所の所得証明でなくて、 会社の契約書と通帳コピーで大丈夫なはずだ、と言われたのですが」 ともう一度説明し直すと、 「あのですねえ、役所に行けば、誰でも、所得証明書っていうのは、発行されるんです」 と、呆れ気味に言う。 「あのぅ、夫は確定申告していますが、私は申告していないんです」 と言うと、 「お父さんが申告していれば、お母さんの分の所得証明も出るんです」 とも言う。 「あ、それでは、先日、確定申告したので、役所に行けば、大丈夫なんですね」 と確認すると、 「そうです!」 と、低い声で言う。 「はい、わかりました。では、急いで発行してもらって、送ります。どうもお手数おかけして申し訳あり・・・・・・」 こちらが言い終わらないうちに、電話は、ブチッと切られた。 「はあ?!」 何なんだ、こりゃあ? 感じ悪!!!!! ていうか、私、何か、『痛い人』扱いされてる? モンスターペアレント的な? え〜〜〜〜〜〜〜〜〜?! 長男は、入学する前から、事務室に煙たがられてしまったのか? いや、事務室内での、「本日のうざ親」になっただけで、 長男に被害は出ないはずだ。 こんなことで、長男に影響が出たら、 それこそ私は、モンスターになって、 学校に文句を言わなくちゃいけなくなるではないか。 まあ、それはないだろう。 しかし、電話のそばで、一連の会話を聞いていた長男は、 非常に不安がり、 「何か、この学校行くの嫌になってきた・・・・・・」 と言うので、私は、慌てた。 「学校の事務の人って、感じ悪い人時々いるから。大丈夫だって。 実際の先生や、教授は、また別だからさ」 と急いでフォローしたが、長男の表情は、明らかに暗い。 「大丈夫だってば! 次男の高校の事務の人も何か変だったけど、 先生や学校自体は、いいところでしょ?」 と言うと、 「あ、そうか」 と言って、少し、明るい表情になった。 「ああ! こうやって、しのごの言ってたって仕方無い! お母さん、ちょっと車飛ばして、あっちこっち行ってくるから。待ってて!」 私は、急いで車を出して、次男の高校に向かった。 事務室の男の人に声を掛けると、 「あ、先ほどの」 と言って、快く書類を発行してくれた。 書類の発行申し込み書に 生徒の名前や発行依頼者、発行理由を記入する必要があったのだ。 そうでないと、不正に発行され、悪用されてしまうため、 子供たちを守るためにも、そういう規則を守る必要があるのだろう。 (何だ、電話じゃ感じ悪かったけど、会って話せば、いい人じゃんか) 私は、ちょっとホッとした。 きっと、長男の進学先でも、 それらの書類をきちっと揃える規則を守る必要があるから、 そう親に伝えていただけなのだ。 それを省いて、何やら「通帳の写しじゃダメなの〜?」 と、しつこく迫る困った親に、事務室一同、一丸となって対応したわけだ。 ああ、こちらは、何もわからず問い合わせているだけのつもりだったが、 あちらは、トラブル処理の対応だったのだ。 今、モンスターペアレントが激増しているため、 ちょっとした問い合わせひとつにも、学校がピリピリしているのがよくわかった。 それにしても・・・・・・ 私・・・・・・ また「うざキャラ」やっちまったのか? 極力、爽やかに、キャラを薄めて人と対応しているのに、 また、人にめんどくさがられたよ・・・・・・ あ〜あ! 生きづらいなあ!!! 年配の人たちとは、本音で、同じ濃度で付き合えるのに、 マイルドで無難な付き合いを求める若い人たちには、 私は、どうにも、『痛いキャラ』扱いなのだ。 いっつも!!! 長男、次男あたりのママ友たちだったら、 同世代だから意識しないで本音で付き合えるのに、 三男、四男あたりの友だちの親たち(5歳下位)からは、 「あの人めんどくさいよ。キャラ濃いよ」 と、後ろ指をさされ、 5歳の長女の友だちのママたち(人まわり以上下)からは、 「見るからに物凄く年上」なので、声も掛けてもらえない、という状態。 あ〜〜〜あ、生きにくい! ・・・・・・って、そんなこと言ってる場合か?! 私は、急いで市役所に行き、 市民税課で所得証明書を発行してもらってきた。 その足で郵便局に走り、 次男の在学証明書と私の所得証明書を、 簡易書留で長男の進学先に送った。 どうだ!!! どうだどうだ!!! 不備のあった(というか、説明書にそれを「送れ」とは書いてなかったんだぞ!) 書類を速攻で取り寄せ、 親に「追加で送ってください」と催促した翌朝に、 朝イチでそれらが送られてきたら、文句無いだろう!!! まだ、書類締め切りの四日前だもんね! まだ何も送ってきていない人もたくさんいるだろう。 「なんか、いろいろバタバタ電話でトラブったけれど、 結局、すぐに必要書類揃えて送ってきたね、この親」 ・・・・・・で済むだろう。 こっちは、問い合わせしただけで、トラブったつもりは無いけどね! ともかく、何とか、山は越えた。 ちょっとウツになっている長男に、 私は、声高らかに宣言した。 「息子よ、安心しな! 全て解決したぞ! きちんとやること全部済ましたよ! これで堂々と新しい学校へと胸張って進めるよ! おてんとさまは、いつも、見ているんだ! 嫌なこと言われても、嫌なことされても、 それにふてくされないで、 誠実に、やることきちんとやって、 正々堂々と胸張って生きていれば、 きっと、お日さまは、こっちを照らしてくれる。 堂々と、明るい将来に向かって、進むんだよ!!!」 それは、自分に向かっても放った言葉だった。 生きづらい人生に、めげないで、 がんばって生きていけるように、 子供たちを全員しっかり育て終えて、 親たちをみんな安らかに見送るためにも、 私は、どんな不当な扱いを受けても、傷つけられても、 決してふてくされたり、自暴自棄になどならないぞ、と。 おてんとさまは、いつも見ている! 胸を張って、堂々と、正々堂々と、 バカ正直に生きていくんだ!!! 私たちには、いつも、 ひとりひとり、全員に、 神様からのスポットライトが当たっているのさ!!! おりゃ!!! (了) |
(子だくさん)2011.2.11.あかじそ作 |