「 ゴーヤを育てているんだが 」


 毎年、夏は、きゅうりを育てているのだが、
今年は、話題になっているゴーヤを植えてみた。

 きゅうりは、家族みんな大好きだったので、
収穫のたびに大盛り上がりだったが、
ゴーヤは、次男以外、みんな苦手なのだった。

 苦手なのに、植えた。

 ゴーヤの育てやすさ、虫の付きにくさに食いついて、
ほいほい始めたけれど、
いざ、実が付き始めると、動揺した。

 小さくて、可愛い実が、いくつも成る。

 うれしいことだが、その実をみんな嫌いなのだ。

 グリーンカーテン目当てで育てているので、
いっそ実がならなければいいのに、などと、
勝手なことを願っていたのだが、
そんな育て主の身勝手さを知ってか知らでか、
着実にゴーヤは、けなげな赤ちゃんの実をつけ始めた。

 さて・・・・・・

 どうすんの? これ。

 実家では、毎年、ゴーヤを上手に育て、
うまい具合に居室に日蔭を作っている。
 母は、ゴーヤチャンプルーをひと夏に何度も作り、
わが家に持ってきてくれるのだが、
それに箸をつけるのは、いつも次男だけだった。

 「ゴーヤの実ができたら持っていくね」
と、母に約束してはいるが、
父と母の二人暮らしの家に、
次々と実る大量のゴーヤを全部消費できるとは思えない。

 大体、実家とて、
ゴーヤを食べるのは、母ひとりだけなのだ。

 好き嫌いの多い父は、
「くせっ、こんなもん、食えたもんじゃねえ!」
などと、母に毎度毎度、悪態をついているくらいだ。

 つまり、実家とわが家、合わせて9人のうち、
ゴーヤ消費人数は、たったふたりなのだ。

 どうする、この状況。

 連日の猛暑で、ゴーヤは、みるみる大きくなっていく。

 育つと嬉しいのに、
けなげな実がいくつもぶら下がり、
日に日に大きくなるにつれ、
悩ましいような、苦々しいような気持ちになる。

 (我が息子たちの背が伸びて嬉しいのに、
彼らのモジャモジャのすね毛や脇毛を見て、
ひ〜っ、と思うのに似ている)

 ああ、どうする、ゴーヤ!

 苦いのが苦手な人が、
美味しく食べられる料理法は、無いのか?

 今、私が考えているのは、
いつものわが家の定番料理、
「なすとピーマンと豚肉の味噌しぎ」をアレンジして、
多めの豚肉と共に、ゴーヤを味噌しぎにする、というもの。

 味噌と砂糖の甘辛攻めと、豚肉の旨みで、
強引に苦味を封じ込める、という作戦だ。

 その他にも、
ネットで調べて食べやすい料理法を勉強しているのだが、
母に言わせると、

「なぜ苦味から逃げる?!」

ということである。

 何でもそうだが、
逃げるから、相手は追ってくるのだ、という。

 「ていや〜!」と、覚悟して、
相手を正面から受けて立てば、
それはそれで、うまく戦えるだろうが!

 と、言うのである。

 いやいやいやいや、
それは、【武将キャラ】の母だからできることであって、
我々のような【へっぽこ弱虫キャラ】には、
とても無理ですよ、と、言うと、
「じゃあ、食うな! あちしにくれ! ゴーヤが可哀想だ!」
ということだった。

 う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。

 今朝も、雨戸を開けると、
昨晩より確実に実が大きく成り、
数も増えていた。

 どうする?
 どうなる?

 うちのゴーヤ!!!

 せっかくだから食べたいぞ!
 この際、この子たちを、好きになりたいぞ!!!





 (了)

(話の駄菓子屋)2011.7.19.あかじそ作