「 世界を変えてる人を見た 」
―――あるママの詩―――


 ある雨の日

 世界を変えてる人を見た

 小6の息子を耳鼻科に連れて行ったときのことだ


 朝一番

 受付をするために

 医院の入り口で並んでいると

 一番前に並んでいる30歳くらいの女性がいた

 おとなしそうで

 ひかえめで

 好感の持てる女性だった

 受付を待つ列が、5人6人と伸びてゆく

 まだまだ医院の入り口は開かない


 すると突然

 医院の前の大通りの

 駐車禁止の路肩に

 優しそうなお爺さんが運転する車が横付けされた

 その車のドアから

 突然飛び降りる3歳くらいの男の子

 私の後ろに並ぶ、具合の悪そうな若い女性に

 いきなり体当たりして

 「わあっ!!!」

 と叫んだ

 「キャッ! びっくりした!」 

 若い女性は、飛び上がって驚き、

 更に具合が悪そうになって、しゃがみこんだ


 さらに、その男の子は、

 持っている傘を振りあげ、

 並んでいる人たちの肩あたりを

 だだだだだ、と叩きながら

 一番前の女性に飛びついた


 「ママ!」

 微笑む女性

 抱きしめる女性

 「おんなおどろかしてやった」

 男の子は抱きしめられながら

 幸せそうに言った

 「まあまあ」

 母親は笑った

 「道路見ていい?」

 男の子が叫ぶ

 「いいわよ。くるま大好きだもんね」

 男の子は、大通りの縁に立ち、

 激しく行き交う車のすれすれの場所で

 今にも飛び出しそうに

 前にせり出したり、足を道に出したりしている

 激しくクラクションが鳴る

 何度も何度も


 「危ない!」

 思わずうちの息子が叫んだ

 母親の顔を見ると

 男の子を見て微笑んでいる


 やがて入り口のドアが開き、

 受付が始まった

 すぐに女性の番が来て

 男の子のものとおぼしき名が呼ばれた

 「ともくん、呼ばれたわよ」

 母親は、優しく男の子を呼ぶ

 「やだよ! ママが行けよ!」

 「ともくんのお鼻を見せなくちゃダメなのよ」

 「やだよ! ママが何とかしておけ!」

 「ともくんってば〜」

 いとおしそうに微笑む母親

 母親は、ともくんを抱いて

 診察室に入って行く


 ああ、世界を変えてる人を見た

 一見、優しく温かい母親だ

 彼女が、

 彼女のような親たちが、

 その子供たちを通じて

 きっと世界を変えていくのだ


 世界は、これから、

 どんどん変わるだろう

 一見、あたたかで、優しくて、ほのぼのしたママたちによって



 こうやって

 普通の

 何でもない

 平凡なひとときの積み重ねで

 子供は、作られていく

 世界は、変えられてゆく

 一見、あたたかで、優しくて、ほのぼのしたママたちによって


 

 (了)


(話の駄菓子屋)2011.10.25.あかじそ作