「 素朴に生きる 」




 ジャングルの中で暮らし、
いまだに原始的な暮らしを続けている部族の生活を
テレビのドキュメンタリー番組で観た。

 採れた物を料理して家族で食べ、
男が狩りに行き、女がアカンボに乳を与えていた。

 祝い事があればみなで太鼓を叩いて輪になって踊り、
誰かが病気になったり死んだりしたら、
みなで声を上げて泣いていた。

 病院もなく、学校も無い。

 運を天に任せ、自分や家族の命を神に託している。

 不安も多いだろう。
 死とも隣り合わせだ。

 しかし、彼らが極めてシンプルな気持ちで暮らし、
一日一日を無事生き抜けた喜びを実感しながら生きているのを見て、
私は、うらやましくてたまらなくなった。

 単純なこの思考回路、短絡的なこの性格で、
今のこの時代、この国で生きることに、
私は、心底疲れてしまっている。

 もっとシンプルに生きたい。

 なりふり構わずクレームをまくしたてる人が増えた分、
自分の保身に必死にならざるを得ない風潮が蔓延し、
正直に頭を下げる者の頭を
理不尽に踏みつける小物たちが闊歩している社会。

 なんだ、これ。
 どうした、みんな。

 おかしなヤツらの天下じゃないか?

 もっとみんな手を携え合って、
今日一日を互いに生き抜こうじゃないか?

 今日の糧を純粋に喜び合おうじゃないか?

 「いってらっしゃい! 気をつけてね!」
 「お帰りなさい! お疲れさま!」

 「大丈夫ですか?」
 「ありがとう」

 「荷物お持ちしましょう」
 「助かります」

 「ごめんなさい」
 「いいんですよ」

 どうしてこんな簡単で単純なことができないんだろう?

 いつからこんな風になっちゃったんだろう?

 もっと素朴に生きたいよ!
 もっとシンプルに暮らしたい!

 就活だなんだって、学校の勉強そっちのけで、
要領のいいヤツから仕事に就ける世の中って何だよ。

 別に回顧主義ではないけれど、
発展途上の昭和の方が、
いじめも差別もきつかったけど、
今よりよっぽど分かりやすかった気がする。

 名前がまだついてない価値や観念がごろごろ転がっていて、
それをいくつも拾っては、
自分の心の中に積み上げながら、大人になっていけたんだ。

 疲れているのは、私だけじゃないだろう?

 24時間、365日、
全方向に気を使い続けないとはじかれてしまう世の中を、
快適と思えぬ人も大勢いるだろう?

 素朴に生きよう。
 味わって生きよう。
 みんなに変人と見られようとも。

 平均値とか、標準とかに、
必死に自分を合わせないで、
自分の歩幅で歩いていこうよ。

 うまくいっても余命は、たかだか30年。
 10年がたった3回きりだ。

 ちまちまやってられっか!

 家族を愛し愛され、
隣人を助け、助けられ、
世のため人のために働き、
「暮らし」自体を愛しながら生きよう。

 喜怒哀楽に身を任せ、
人事を尽くして天命を待とうよ。

 そういう者に、あたしゃあ、なりたいんだよぅ!



 (了)

(話の駄菓子屋)2012.2.21.あかじそ作