「 毛虫大発生 」


 うちの敷地の出入り口に松の木が生えているのだが、
この木に現在、毛虫が大発生している。

 5年前にも毛虫がめちゃくちゃ増えたので、
父に相談すると、
「よし、退治してやる」
と、徒歩5分の自宅から脚立と殺虫剤を持ってきて、
すさまじい数の毛虫を取った。

 スーパーの袋いっぱいの毛虫!
 「長いもの黒いものを見ると、全部毛虫に見える」
と、それこそ苦虫をつぶしたような顔で父は、言い、
しばらくの間、鳥肌立ちまくりだったという。

 あれから5年。

 中学生だった長男もハタチになり、
長男あてに年金手帳も送付されてきた。

 毛虫のことは、すっかり忘れていたが、
1週間ほど前から、黒くてでかくて、赤い線が入って、
頭だか尻尾だかに緑の小さな玉をくっつけた、
めちゃめちゃ気持ち悪い毛虫が、
ぼとぼと地面に落ちている。

 まさか・・・・・・
 あの悪夢の再来では!

 父は、この連休中に71歳の誕生日を迎え、
なんだか最近、足が細くなってきた。

 もう、父に頼むのは酷だと思う。

 そこで、夫が珍しく連休に休みを取り、
毛虫駆除をしてくれることになった。

 まずは、ネットで毛虫について調べ始めた。

 それは、松に付く「松毛虫」という虫で、
4月から6月まで毛虫として活動し、
夏から秋にかけて蛾になるのだという。

 成虫の蛾は、松の葉に卵を産み付け、
卵から孵った幼虫は、松の木の幹の隙間に潜んで、
春先まで休眠するのだという。

 また、木の根元まで降りてきて、
落ち葉に潜んで冬を越すこともあるらしい。

 この習性を利用して、駆除する方法も書いてあった。
 松の木の幹に「こも」と呼ばれるわらを巻き、
休眠するのに丁度いい、柔らかベッドを用意してやる。

 9月の上旬から中旬に「こも」を巻き、
あえて、その中に潜りこませ、
虫の目覚める「啓蟄」(3月6日)寸前に
幼虫入りの「こも」を外して、
「こも」もろとも、幼虫を思い切り焼いてしまうのだという。

 そうだったのか!

 私は、今まで、
冬場、松の木にわらが巻いてあるのを見て、
寒さから木を守るためなのだと思っていた。

 いや、昨今は、殺虫剤も手軽に手に入るし、
そういった原始的な方法を取る必要は無く、
観光地などでは、「雪吊り」と同様に、
季節の風物詩として行っていることもあるのかもしれない。

 「雪吊り」は、雪の重みから木や枝を守るものだが、
目にも美しい。

 「こも」の巻かれた松の木も、
何だか時代劇に出てくる風景を想わせるではないか。

 いや、しかし、
それが昔の人の考えた、
効率的でエコな害虫駆除の知恵だったとは!

 あったま、いいんだよなあ!
 昔の人は!!

 思い起こせば、この冬、
いつもの冬よりも落ち葉をマメに掃いていなかった。

 土を肥えさせようと、あえて地面に落しておいたりした。

 その落ち葉が、いい感じで幼虫の寝床になっていたとは。

 さらに調べると、 
 松毛虫の毛に触ると、激しく痛むというし、
体に付いている小さな玉には、強い毒があるらしい。

 あああ〜〜〜、嫌だ〜〜〜!
 うちの連中、私を筆頭に、みんな皮膚弱いんだよ!

 早速、夫は、殺虫剤と脚立を手に、
松の木の下に向かった。

 そして、あっという間に
夏ミカンくらいのかさの毛虫を取ってきた。

 その後、木の下を通るたびに、
5匹、10匹、と、毛虫が落ちているのを発見し、除去した。
 この日一日で、軽く100匹以上は取ったと思うが、
翌朝も、その翌朝も、
20匹くらい、木の下に落ちていた。

 一匹一匹が、長さ5〜6センチ、太さ8ミリほどで、
毛足も長いので、ぱっと見、大人の小指ほどある。

 そのボリュームでありながら、
黒に赤いラインがツッ、と入り、
端っこに毒の玉が付いているのだから、
見かけるだけで、かなりの心理的ダメージを受ける。

 それをつぶすと、中から緑色の液体が
ピシャ、っと飛び出し、
太い毛虫がのたうちまわるので、
これはこれで、ハートを打ちのめすビジュアルだ。

 よ〜〜〜し、見てろよ!
 夏になり、こやつらが皆、蛾に育った後、
松の木の枝をはらいまくるぞ。

 お隣のお宅御自慢のガーデニングに被害が及ぶと、
これはまた、別の問題に発展してしまう。

 境界線上の枝をすべて切り落とし、
ホームセンターで買ってきた「こも」を、
幹にこれでもかこれでもか、と巻いてやる!!!

 落ち葉なんて皆無というほど、
地面は、トゥルッッットゥルにしておくぞ。

 寝床感ゼロの、かっちかちの地面だぞ。

 はあ・・・・・・
 来年からの対策は、しっかり考えたものの、
今年の毛虫は、もう、目覚めていて、
6月まで連日ジャワジャワ激しく活動しているのだから、
鳥肌立てながらも
地道に一匹一匹つぶして捨てていくしかない。

 ああ〜〜〜〜〜!
 かゆい!

 やつらのことを考えるだけで、
なんか、かゆい!!!

 ああ、どうか皆さま、夏までの間、
松の木の下を通る時は、
お気をつけて!!!

 すっげえビジュアル系が
毒むき出しで落ちてきますからね!!!
 あ〜〜〜〜〜〜〜、かゆっ!


 (了)
 

(話の駄菓子屋)2012.5.8.あかじそ作