「 終業式 」 |
一学期の終業式のお昼過ぎ。 子供たちが学校から次々帰ってきた。 小1の長女は、帰るなり、すぐに通知表を出してきた。 小学1年生の1学期の評定は、特殊なものらしく、 成績表は、3段階評価でも5段階評価でもなく、 「ふつう」「もうすこし」の2段階評価であった。 以前は、「よい」「ふつう」「もうすこし」の3段階評価だったと思うが、 何かシステムの変更があったらしく、 「ふつう」と「もうすこし」しかなかった。 長女は、学校では、いかにも優等生タイプで、 家でも暇さえあればドリルを広げて勉強をし、 すすんで家の手伝いをし、 ぶったるんでいる兄の言動を注意する、といった、しっかり者だ。 したがって、当然のように「オール『ふつう』」であった。 結構、頑張ったのに「ふつう」。 本当に「ふつう」のときも、「ふつう」。 「よい」も「ふつう」も、 まとめて「ふつう」とするところが、 なんとも「時代」を感じさせる。 若者が、「美味しい」も「まあまあ」も、 「フツ〜」と言うようなものか。 で、物凄く美味しいものは、「ヤバい」って言うんでしょう? じゃあ、ホントにヤバいものは、何て言うのよぅ! おばちゃん、時代についていけないよ・・・・・・ 次に帰宅した四男も、 靴を脱いですぐに 「お母さん見て見て」 と言いながら、通知表を私のもとに持ってきた。 パッと開くと、 4・5・5・4・5・5・5・3・5 という数字の羅列が読めた。 3は、体育だ。 体が弱く、運動神経はイマイチだが、 夫の両親に似て、もともと頭がいいらしい。 (隔世遺伝! 夫は、残念な脳を持つ) 次男の高校受験の時、 中3の次男に解けなかった理科の問題を、 当時4年生の四男は、スラッと解いた。 今、仲良しの友だちと 学年順位を競い合っているらしく、 「負けたくないんだよね!」 と言って、自ら問題集を開いている。 そういえば、夕飯に餃子を200個作った時など、 「ひとり何個だ?」 と、私が子供たちに問いかけると、 長男は、瞬時に、「だいたい30個弱!」と言い、 次男は、「知らねえ」とそっぽを向き、 三男は、紙で筆算を始めるのに対し、 四男は、小学校低学年の時から、 「7人家族だから、200割る7だよねえ。 まず、100÷7だと、十のくらいが1で、 残りの30を7で割ると4あまり2でしょ? だから〜、100個だとひとり14個であまり2個だけど、 今日は、200個だからぁ、 倍の28個で、あまりは、4個。 これで合ってる? お母さん!」 ・・・・・・と言っていた。 すると、今度は、私の方がうろたえて、 「えっと・・・・・・ちょっと待ってよ・・・・・・」 と、ひき肉まみれの手で 電話の横のメモ紙で筆算することになる。 「そうそう! よく暗算でできたね! ひとり28個で、残りが4個だよ! すごいね!」 ・・・・・・と四男をほめると、 すかさず次男が、 「その残りの4個ちょうだい!」 と言う。 そこだけ食いつくか?! 次男よ! すると、長女は、 「明日のお弁当に残りの4個を取っておけば、 お弁当のおかずが増えるわよ」 と答える。 「餃子ひとり何個だ?」 の問いかけに、これだけ5人5通りの その子らしい答えが返ってくるのだから笑える。 頭の回転がいいが、イマイチ雑な長男。 良くも悪くも計算抜きで生きてきた次男。 不器用でまじめな三男。 頭がよくて、人生の難題をゲームとして楽しむ四男。 あくまでしっかり者の長女。 ついでに、 人に問題を提議しておきながら、 答えにまったく頓着無い私・・・・・・。 考えなしに動く母親だ。 さて、部活で夜7時過ぎに帰って来た三男に、 「通信簿もらった〜?」 と聞くと、 「ああ、もらったもらった」 と、すぐにペラペラの紙を出してきた。 高校の通知表は、実にシンプルだ。 教科ごとの成績だけが 紙一枚にプリントされているだけだ。 見ると、あんなに苦手だった英語が10段階評価で7。 (中3の1学期には、アルファベットも怪しかったのに!) 同じく数学や理科なども7。 大好きな建築関連の教科も7。 あとは、6とか5とかが、パラパラ。 体育も7だった。 ギリギリで合格した割には、クラス順位で真ん中より上なので、 なかなか頑張ったんじゃないか、と思う。 「まあまあ頑張ったね。英語とか、すごく伸びたじゃん。 でも、あんたなら、本気出したらもっと行くと思うわ」 と、言うと、 「2学期からは、クラスの1位2位取ろう、って、 友だちと言い合ってるんだよ」 と言う。 環境が変われば、言うことも変わるものだ。 中学の時は、「勉強なんてカッコ悪い」と言っていたのに。 三男は、工業高校に通っているので、 成績がダイレクトに就職につながっている。 何が何でも大工になりたい三男は、 「ちゃんとした建築会社に入る」という目的があるため、 勉強に対して、真摯に向き合うようになってきた。 「成績が自分の将来に直結してるんだもんね。 夢をかなえるために、頑張るんだよ」 と言うと、素直に「うん」と言った。 大学の寮に入っている長男の成績表は、 郵送で親あてに送られてくるが、 毎回、ほぼ「優」で占められている。 四男同様、夫の両親の(隔世)遺伝で、 そこそこ勉強ができるし、頭の回転が速い。 高校では、バイトを頑張り過ぎて一時期成績が下がったが、 バイトをやめて、まじめに受験勉強を始めたら、 「問題を解くこと」に夢中になるようなところもあった。 おそらく、今回も、まあまあいい点を取ってくるだろう。 長男もまた、 建築士になるという目標に向かって、 毎日、夜遅くまで学校に残って図面を引いているのだ。 さ〜〜〜〜〜〜〜〜〜て! 問題は、次男ちゃんだ。 なにせ、今まで「ノー勉」で18年間生きてきた男。 全然勉強をしないのに、 なぜか奇跡的に英語と国語だけは、ほぼ満点なので、 それ以外の教科の「血の毛が引くような成績」が、 平均値で何とかフォローされてきた。 また、目立ちたがり屋で何でも立候補するから、 高校受験は、ほぼ「内申点」のみで合格した。 しかし、高校に入ると、 その英語や国語も点を取れなくなってきて、 結果、苦手な教科を平均値で持ち上げられなくなり、 全体的に惨憺たる結果が露呈した。 特に、今回の成績は、ひどい。 先日の三者面談で、先生に見せられたテストの結果に、 私は、わが目を疑った。 校内偏差値、25.86。 ん? ・・・・・・25? 偏差値で、25.86なんて数値あるの?! 初めて見た! 特に、倫理。 点数、9点。 9点?! 100点満点中、9点って! どうやったら取れるの? 逆に難しいわ! でたらめに答えても、30点くらいは取れちゃうわ! お前、ある意味天才だわ! 次男が帰宅した。 「通知表は?」 と聞くと、黙ってすばやく2階に消えて行った。 「出しな!」 と言って追いかけると、 「学校で捨ててきた」 と言う。 「なに〜?! じゃあ、お母さん、先生に電話して、 もう一回発行してもらうからね! プリントアウト一発で済む問題だからね! おら!」 と、怒鳴ると、 「チェッ! わかったよ!」 と言って、ペラ紙を私に投げつけ、 すぐさま2階の子供部屋にこもって、 その後、一回も出てきやしなかった。 おそるおそるその紙きれを拾って見てみると・・・・・・ ああ、もう、書くのも嫌だ・・・・・・ 順位とか、もういい。 ともかくビリだ。 そして、恐れていたこと、 いや、 恐れていた色が・・・・・・ This color is R・E・D! 倫理 is 赤! 赤点だよ! 翌朝、いや、昼か。 遅く起きてきた次男に声をかけた。 「おはよう! レッド・ポイント・マン!」 すると、オーストラリアでのホームステイ経験者の次男は、 スマシ顔で、人差し指を顔の前で左右に揺らし、 「チッチッチッ、お母さぁん、 ぅるぅぇっっっドゥ、ぽ〜〜ぅうぃんトッ、メ〜〜〜〜〜ぇぇぇんんんんヌッ、だよ」 と、流暢な発音で、キメキメポーズで言う。 おんどりゃあ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・ ・・・・・・も〜〜〜〜〜う・・・・・・・ んが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! 私は、思わず、次男につかみかからずには、いられなかった。 私が次男のパンツをおろしてお尻を叩く!、 その私の手を必死に押さえてクルクル回転する次男! 次男のマエミツを掴んで寄り切ろうとする私! 猫だましをかます次男! 二人でゲラゲラ笑いながら取っ組み合っていると、 それが楽しそうに見えたのか、 長女や四男も、その輪舞(?)に加わってきた。 みんなで大笑いしながら台所でもみくちゃになっているとき、 私は、涼しい気持ちで、こう考えていた。 (次男よ、お前は、海外に行って、世界で遊んでくればいい!) (かーちゃんには、できなかった【馬鹿】を、お前は、やれる) (日本は、お前にゃあ、窮屈すぎるんだよ) (エンジョイ、ユア、ライフ!) (ビコ〜〜〜〜〜ズ・・・・・・) (ユー、ぅるぅぇっっっドゥ、ぽ〜〜ぅうぃんトッ、メ〜〜〜〜〜ぇぇぇんんんんヌッ!) (了) |
(子だくさん)2012.7.24.あかじそ作 |