「 どこへ行くの〜〜〜 」


 炎天下の配達の仕事から戻り、
茶の間のちゃぶ台で夏休みの宿題をしていた
小1の長女と中1の長男に
「ただいま〜。暑かったわ〜!」
と言うと、
「お母さん、お疲れ様〜!」
と、すぐに仕事の後片付けを手伝い始める四男。

 二人で、配達道具などを片づけていると、
「スッ」と、目の前に麦茶の入ったグラスが差し出される。

 氷が3つ浮かび、細かい結露のつき始めた冷えたグラスだ。

 「冷たいお茶をどうぞ」

 「あ、ありがと」

 長女が差し出すお茶を、一気に飲み干すと、
四男がこう解説する。

 「今、氷の入った飲み物を誰かに渡す事に凝ってるみたいだよ」

 「えっ、そうなの?」


 ふとちゃぶ台の上を見ると、
四男の前にも、氷の浮かんだお茶入りコップが3つ4つ置いてある。

 しかも、そのコップの下には、
どこから調達したのか、
しゃれたコースター様の布切れが敷いてあるのだ。

 また、長女の机(茶の間の一角にミニテーブルが置いてあり、
そこは彼女のプライベートスペースになっている)の上には、
これまたシャレオツなコースターの上に氷入りグラスが乗っている。

 「どうしたの? これ。最近、流行ってるの?」
と、聞くと、
「ふふん」
と微笑み、グラスを手に取って軽く揺らし、
氷をカランカラン鳴らしながら、目を閉じてお茶を飲むではないか。

 「なになになになに? 今度は何〜?!」

 誰に教わったわけでもなく、
「冷えたドリンクをサービスする」というブームが、
彼女の中で始まっていた。


 みんなでテレビを見ていると、
いつの間にか誰かしらの膝の上に乗り、
しなだれかかって甘えているし、
私たち一家の誰にもできない【上手な甘え】ができている。

 おまけに、しなだれかかったその胸に、
人差し指でくるくると円を描き、
「ねえねえ〜ん」
と、それこそ場末のキャバレーのネーチャンみたいな仕草もする。

 そうかと思えば、
外でヘコんで帰ってきた兄ちゃんの肩を抱き、
「そういうこともあるものよ」
などと言って、
コーラ入りグラスを差し出す
「銀座のママ」の器も併せ持つ。

 そのグラスにも、もちろん、
2〜3の氷がカランコロンと浮かんでいるのだった。


 お〜〜〜〜い、
どこへ向かっているのだ、
わが娘よ〜〜〜〜〜〜〜!


 ある時は、「モデルになるから」と言って、
まっすぐ歩く練習を何時間もしているし、
またある時は、
「カンゴシさんになるから」と言って、
人のひじの内側の血管を夢中で探し、
人差し指と中指の2本でペシペシ叩いて、
「どこに刺そうかなあ」と言う。


 なんだろう、この人。
 大人になりたくて、うずうずしているじゃないか。

 長女よ、
お前は、まだ、
生まれて6年しか経ってないんだよ〜!

 そんなに早く、
大人にならなくてもいいんだよ〜〜〜!!



  (了)


 
(子だくさん)2012.8.28.あかじそ作