「 女の子の世界 」



 小1の長女が、学校から帰宅するなり、
大きなため息をついた。


 「Sちゃんに、すごくせめられちゃった」

 「なんで? 喧嘩したの?」

 「ううん。けんかじゃないんだけどね・・・・・・」

 詳しく聞くと、これが、何とも言えない理由であった。



 Sちゃん「うち、お花を咲かせる魔法を使えるのよ」
 Tちゃん「うちは、時間を止める魔法を使うわ」
 Sちゃん「あなたは、どんな魔法を使うの?」
 長女  「うちは、魔法使えないの」
 Sちゃん「ええ〜〜! うそだぁ。何で内緒にするの?」
 長女  「内緒にしてないよ。ホントに魔法使えないの」
 Tちゃん「そうなの?」
 長女  「使えないよ。うち、魔法使いじゃないの。普通の人間なの」
 Sちゃん「うそうそ! そんなうそついちゃだめなんだよ!」
 長女  「うそじゃないよ」
 Sちゃん「うそつき! うそつく子は、S、キライ!」
 長女  「え・・・・・・じゃ、じゃあ、うちは・・・・・・」
 Tちゃん「何の魔法?」
 長女  「雨を・・・・・・降らせる・・・・・・魔法?」
 Tちゃん「へ〜〜〜。使えるんじゃない!」
 長女  「う・・・・・・ん・・・・・・」
 Sちゃん「何よ、やっぱり魔法使えるんじゃないの! うそつき!」
 長女  「うん、ごめん・・・・・・」


 魔法使いごっこの流れで出てきた会話では、ないらしい。
 普通の学校帰りに、日常会話として、
こういうことになったのだという。

 「魔法なんか使えないのにさ、仕方なくホントにうそついちゃったよ」

 長女は、けだるくため息をついて、
小さな肩から黄色いカバーの付いたランドセルを下ろした。

 6歳は、6歳なりに、
女同志の世界に順応しようと必死なのであった。

 お気に入りの服を着て行っても、
クラスの女王様の服の色や形とかぶると、
「真似しないで!」
と、叱られるので、着て行けなくなるらしい。


 幼稚園の時などは、
【おままごと番長】なる女子がいて、
おままごとにおいては、
彼女がすべての配役を決めるのだという。

 番長は、常に「お母さん」。
 そして、番長の取り巻きの子が、
「お姉さん」や「妹」の役をもらえる。

 お気に入りの男子を
「お父さん」や「お兄ちゃん」の役として半ば強引に引き入れ、
そのほかの子が、「入〜れ〜て」と入ってきても、
基本的には、「だ〜め〜よ」と断る。
 それでも、どうしても入れてほしいと言われると、
「となりの奥さん」や「親戚のおばさん」、
「近所に住むおばあちゃん」や
「生協のドライバー」などの役をあてがわれるらしい。

 派閥に属さないうちの長女やAちゃんが
「入〜れ〜て」と言うと、
長女は、飼い犬役、
Aちゃんは、野良猫役を申しつけられるという。

 長女が「犬じゃなくて、人間の役がやりたい」と言うと、
「じゃあ、マンションの管理人。家の周りを掃除しててちょうだい」
と言われ、おままごとに参加しようとしても、
「管理人さん、となりの部屋の子のピアノ、夜8時以降は、やめさせてよ」
などと、きついクレームを浴びるだけだという。

 そんな中、長女の親友のAちゃんは、
野良猫の役にも、一切文句を言う事は無く、
いつも、楽しそうに「にゃ〜お〜」と鳴きながら、
ぴょんぴょん跳ねて遊んでいるのだという。

 これも性格なのだろうが、
同じ環境に置かれていても、大きなストレスを感じる子もいれば、
それなりに自分の楽しみ方を見つけ、幸せに暮らせる子もいるわけだ。


 難儀だ。

 うちの長女も、家族の中では、相当「やり手ババア」的だが、
同じ年頃の女の世界に入ると、
女同志の業のぶつかり合いに、タジタジとなるらしい。

 怖いぞ、女の世界。

 私だって、今思い起こせば、
学生時代は、ずっと、
女の怖さを必死に潜り抜けながら生きてきた。

 幸い、私には、「ひょうきんな性格」という武器があり、
嫌な空気を笑いで吹き飛ばすことで自分を守ってきたので、
何とかやり過ごせてきたが、
もう二度と、学生時代には、戻りたくない。

 先日、長女と風呂に入っているとき、
「私、面白いことを言って、人を笑わせるのが好きなんだぁ」
と言っていたので、
この子も、私と同じ戦法で生きてゆくのだろう。

 長女よ。
 「ユーモア」というものは、
女同志のえげつない世界においても、
おおいに武器と成り得るのだぞ!

 まず、自分が笑え!
 そして、笑わせろ!
 いじられて笑われることを恐れず、
周囲にたくさんの笑顔を製造していくんだ!
 人をからかう笑いや、さげすむ笑いは、ダメだ。
 みんなが気持ちよく腹から大笑いして、
幸せな気持ちになれる笑いを発し続けて、
笑顔の波紋を広げていくんだよ!

 笑いというベールで、
その繊細でピュアなハートを守り抜け!

 笑いの爆発力で、
負のエネルギーを跳ねのけるのだ!!



      (了)


 

(子だくさん)2012.11.13.あかじそ作